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時間が出来たこととお金も欲しいということで、短時間のアルバイトを探して、今日はその面接。
会社とは反対方向の、郊外にあるラブホテル。
履歴書は書いてきた。
「…で、週に何日入れる?」
髪はないけど、その分顎にたくわえてて、ちょっと凄みのある声の雇い主だ。
「時間にもよりますが、短時間でいいなら週に3日とか」
仕事内容は、客室の清掃係だ。
これなら気軽にできるし空いた時間を活用できる。
「うちね、時給制じゃないんだよ、やった部屋数に応じてその日払い。仕事柄さぁ、訳ありの人が多いし現金がすぐ欲しいって人ばかりだから」
「あー、そうなんですか、じゃあ、たくさん清掃すれば給料も増えるってことですね」
「もちろん、でも始めは先輩についてやってもらうよ、早くやるためにって手を抜かれたら困るから」
ふむふむ。
「じゃあ、入れる日は出勤して空いた部屋から清掃するって感じですかね?」
「まぁ、そういうこと。基本は一部屋700円。用具は支給する。だいたい一部屋30分くらいだし慣れてきたらもう少しいけるから」
「わかりました。ちなみにここって稼働率は?」
「そこそこいいよ、だから評判を落とさないためにしっかり清掃してもらわないと困る。時給制だとしたら1500円くらいかなぁ?」
「わかりました、これを」
履歴書を出した。
「あー、これいらないや、連絡先と名前さえわかれば。あとは出勤できる日と時間をそこのシフトに書き込んでおいて。出勤してきた人から順番に清掃に入ってもらう。抜き打ちでチェックすることもあるからね」
それから、と、内線で電話して誰かを呼んだ。
コンコンコン。
「失礼します」
私よりだいぶ若い女性が入ってきた。
「こちら、今日から入ってもらう、えっと、なんだっけ?」
「小平です、よろしくお願いします」
「そ、小平さん、この人の最初の指導をお願いするから」
「西野です、よろしくお願いします、ニシって呼んでください」
化粧っけのない顔でニカッと笑った西野さんに、好印象を持った。
うまくやれそうだ。
ぴろぴろぴろ♪
何かの知らせ?
「あ、302が空室になったみたいです、行きましょう、小平さん!」
「あ、はい」
まるで娘のような先輩に手を引かれ、清掃係初日は始まった。
「へぇ、すごいね、アルバイトも始めたんだ、この働き者!」
またまた洋子さんとのランチ。
離婚したこと、シェアハウスの同居人になったこと、ラブホテルでのアルバイトのことなど一気に報告した。
貴君のお見合いの話はしなかったけど。
「ラブホテルの清掃係か…何か面白いこともありそうだね」
「まさかぁ、テレビドラマの見過ぎだよ」
「あったら、報告してよ、面白そうだし」
「あったらね、変なことに巻き込まれるのはごめんだけど。洋子さんは最近はどうなの?」
自分のことばかり話していたことに気づいて、洋子さんに話を振った。
「私?相変わらずだよ。あ、そういえば新しくきた店長がね、なかなかのイケメンでさ、仕事もできるのよ」
「ふーん、スーパーの店長でそんないい男いるんだ…」
「珍しいでしょ?でさ、そのせいでみんな浮き足立っちゃってね。みんなの化粧が濃くなるし、香水までつけ出す始末。食品フロアでは香水禁止だっていうのに」
女というものはいい男を見つけると、自分を着飾って捕獲してしまいたくなる生き物なのだろうか。
「その店長って独身?」
「いやぁ、妻子あり。でも、そんなこと関係ないとか言うんだよね。流行りの略奪愛とかいって盛り上がってるよ」
「そんなのドラマの中だけでさ、実際には綺麗事だけでは済まないのに。現に前の店長のこともあるのにね」
女って怖いねーと、自分たちも女だということを棚にあげている。
「で、ボクササイズもやるの?」
「それはアルバイトがうまくいったらかな?やっぱり先立つものはお金でしょ?」
「そうだね。それにしても、何よりも愛が大事とか言ってた頃が懐かしいよ」
どこか遠い目をする。
「え?洋子さん、そんなこと思ってたの?」
「若い頃はね、そんな夢も見たって話し。お金がなければ愛も何もないよね。多分だけどさ、その店長がいくらイケメンでもお金がなかったりドケチだったらモテないよね?」
「モテないね、まず!」
「どこかにさぁ、上げ膳下げ膳で小遣いたっぷりくれる旦那、いないかなぁ?」
「それで自由がなくなったら?」
「それは、イヤだ、貧乏でも自由がいい」
「そこは同感」
そこそこの自由とお金と寂しくない環境、そのどれもが欲しいなぁ。
あと、健康な体か。
いくつまで自分で生きていけるのだろう?
頭の中で平均寿命とやらを考えていた。