職員室に夕陽が差し込み、今日一日の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
「K先生今日また昼抜いてたでしょう??」
静かに近づいてきたNがKの机の上にそっと紙袋を置く。中身は――Kの好物だと知って選んだ、コンビニのおにぎりと栄養補助ゼリーKは書類から顔を上げ、気まずそうに眉を寄せた。
「……授業が詰まってた。それに別に腹減ってない」
「顔、青白いですよ??口調もいつもよりちょっとキツいですし??」
Nの指摘にKは「……あ゛??」と低い声を出す。その不機嫌を装う声がNにはたまらなく愛おしい。
「それ僕にだけ出す素のやつですよね…..ふふ、嬉しいです」
Nの言葉にKは不機嫌そうに眉をひそめたまま、そっぽを向く。
「からかうな、N」
「からかってませんよ??ほんとに嬉しいんです」
真っ直ぐなNの笑顔にKの耳がわずかに赤くなる。Nはその変化を見逃さず、口元に笑みを深めた。
「でも……せめて昼くらいは僕の差し入れ、受け取ってくださいね」
「……じゃあ今日は……もらっとく」
ぼそりと呟くKの声音はどこか子どものようで。Nはくすりと笑って、椅子の背もたれ越しにKの背中へ手を回した。
「……なんだ」
「今日もK先生かっこよかったです。授業で板書してる姿、見惚れました」
Nの言葉にKの肩がぴくりと震える。
「……何で見てんだお前は……!」
「だって好きなんですから。K先生の後ろ姿も、手の動きも、教科書に添える声も、全部」
NはKの耳元にそっと唇を寄せ甘く囁いた。
「……ッ///仕事中だぞ」
「今日も好きです。たぶん昨日よりも」
Kは何も言わなかった。
けれど次の瞬間、小さな声で「……お前は本当に」とだけこぼし、差し出されたおにぎりの包みを開けて、もそもそと食べ始めた。
そんなKの横顔をNは何も言わず、ただひたすらに優しい眼差しで見つめていた。夕陽が二人の間に、静かで温かい光の帯を落としている。この時間が、どうか永遠に続けばいいと、Nはそっと願った。
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