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大量の人々から伝わる熱気と期待、その膨大な圧力をたった一人で受け持つ。
「読み解くは絶約の第五章――【宇宙を埋め尽く砂剣】」
彼女は言った。
世界ってのは思ってるほど広くない、と。
両手に抱えられるぐらいの大きさだ、と。
だって結局、人っていうのは目の前で起きている事が全て。それがその人の世界、宇宙だと。
「魔法少女――【星論・アルキメデス】――現界だよ」
俺は今、まさに宇宙の煌めきを放つステージで舞っている。
星咲が放つ魔法力が星砂を放出し、それらが剣となる。無数の剣達が宙を飛び交い踊る。さらには一粒一粒へと爆散させ、それが照明の光に反射すれば、それはまるで星空のように輝く幻想世界へと至る。
激しい曲調に後れを取らぬよう、俺は練習で積み重ねてきた動きを披露する。他のバックダンサーとマッチし、華麗に美しく、可愛く――――星咲を引き立てるポジションで――――
「君だけを見てる――♪」
引き立て役、そんなのは星咲に必要なかった。
俺達が必死に踊るまでもなく、彼女はこの瞬間、誰よりも輝いている。
「どんな時も、何だって、君を思えば大した事じゃない――♪」
万を超えるファンの声援に答え、美声をとどろかせながらも笑顔を絶やさない。振り付けの要所でオリジナルを加え、際立つ圧倒的な可憐さ。激しいダンスでありながらも、呼吸を乱すことなく、歌声はぶれずにファンの耳と心を鷲掴みにする。
「さぁ、おいで――♪」
でかすぎる。
星咲の、魔法少女アイドルとしての背中が大きすぎる。
いつになっても、こんな至高のアイドルに追いつける気がしないと心の底から思った。
そんな風に星咲のことをチラ見していると、ふと目が合った。気のせいかと思いきや、彼女はリハーサルにはない動きをし始めた。
軽快なステップと共に、俺のすぐ傍まで接近してきたではないか。動揺しつつも、俺は練習通りの動きでダンスを続ける。何度も何度も星咲に習ったパートだ。
それは星咲も熟知していたのだろう。俺のカウントに合わせて、彼女が絡むように寄り添い、クルッと同時にクイックターン。それから連続での振り付けをこなし、星咲と一緒に笑顔を交わす。自分でも上手くシンクロできたと確信した矢先、更には俺を抱きとめるようにして星咲が踊り始めたではないか。これにはさすがに唖然とするが、星咲はニチャっと俺を見つめるばかりだ。
だから俺もどうにか笑みを保ちつつ、彼女の動きを阻害しない程度に即興で踊りを表現する。
「やっと見つけた、ボクの一番星♪」
そうして歌いきった星咲の腕の中には俺がいた。
これはマズイのではないだろうか。そんな不安が脳裏で先行するも、割れんばかりの歓声がドーム内を揺るがす。曲が終わったのに『星咲コール』は鳴りやまず、会場の人々は星咲を何よりも欲していた。
それにニコリと答えながら、星咲はお辞儀をする。
「ありがとう、みんな!」
マイクから響く、星咲の声は喜びに満ちていた。
「ありがとう、きらちゃん!」
「ちょ、おいっ」
マイク入ってるでしょ!?
静止する俺だが、時すでに遅し。星咲がマイク越しで俺の名を呼んだことで、会場にはざわめきが浸透し始めていた。あの子は誰だと、ファンのみんなが疑問に満ちた眼差しで俺と星咲に注目している。
「できるのなら――みんなとはもっともっと、こうして歌える時間を楽しみたかったよ」
そんな会場の困惑モードを完全にスルーして星咲はマイペースにMCを続けていく。
彼女の台詞にライブが終わりを迎えたと悟るファンも多く、早くもアンコールの合唱が始まる。
「あとの事は、この白星きらちゃんに任せるよ」
「は!?」
「だって、君はボクの、一番星だから」
「いやいや、ちょっと……」
何が何だか、もう訳が分からない。
混乱の極みとはこの事だが、肝心の星咲は俺の頭をなでるだけで何の説明すらない。それも当たり前のことで、今はライブ中。ファンへの言葉だけを紡ぐターンなのだ。
彼女はスゥーッと息を吐き、そして声高らかに――
「今まで私を支えてくれてありがとう。今日でボクは魔法少女アイドルを引退します」
ファンへのメッセージを解き放った。