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意味もなく電車に乗る。行先は東京。
とにかくこの現実から逃げたくて、財布とスマホとICカードを持って改札を通る。この時間の電車は空いている。
なんの意味もない。俺は不思議とワクワクしていた。
それは現実から解放されるという幸福感からのワクワクなのか、それともこのゾンビが這い回る世界でスリルを感じているワクワクなのか。俺には理解できない。
ただ一つ言えるのは、こんな状況でも俺はまだ死にたくないということだけだ。
「…………」
誰もいない車両で一人座席に座る。いつもならスマホをいじって時間を潰すところだが、今はそんな気分にもなれない。これからどうする?どこに行けばいい?
意味もなくこの世界を時間通りに動く電車に乗り、砕け散った窓から外を除く。ゾンビに汚染された人間か化け物かも分からない奴らを横目に電車は動く。
いつからこんな日常になってしまったのか。俺には不思議でならない。なぜ?全ての元凶はなんだった?
何故俺は生き残ってしまった?俺以外にも生き残った奴らはいるが、シェルターに置いてきた。俺はこれから、生き残りが居ないかこの電車に乗って探しに行く。
どこに行くのかも分からずに。
「……はぁ。」
電車の中で流れるアナウンスに耳を傾けながら、これからのことを考える。目的地まであと少しだ。
「……ん?」
ふと、視線を感じた気がした。窓の外を見るが、特に変わったことはない。電車が停車した。俺は急いで降りてゾンビの中を探した。いた。たった1人。ボロボロの服を着て、怯えた表情で蹲っている彼女に近付き声を掛ける。
「おい、大丈夫か!?」
彼女は何も言わない。つーっと頬に涙が伝ってる。
ここにいてはゾンビに襲われかねない。
俺は彼女の手首を掴んで電車に乗り込んだ。
この荒廃した世界を走る電車にゾンビは入れない。何故だかは分からないが。
席に座って彼女を隣に座らせる。「あぁクソッ!」思わず悪態をつく。なんなんだこの状況は!
俺はどうしてこうなったんだ?誰か教えてくれよ!!
「……ひっぐっ」
彼女が泣き始めた。そりゃそうだ。訳わかんねぇもんな。
無言でハンカチを渡すと涙を拭いてこちらに返す彼女。
年齢は十六くらいか。大変だよな。
こんな世界で1人なんて。
「よく頑張ったな。もう1人じゃないぞ。今は仲間のいるシェルターに向かっているんだ。」
「私以外にも、生きている人が?」
「もちろんだ。俺はそこで生存者を探す任務を請け負っている。」
そういえば嬉しそうに微笑んだ。
俺は自分のことを話した。名前や年齢、職業なんかを。
すると、彼女も同じ話をしてくれた。
名前は橘 結衣(たちばなゆい)というらしい。
年齢は十六歳で高校二年生だと。
そして、この世界のことをある日朝起きたらこうなっていた。と話した。そうか。皆そんな感じだよな。
そう思った。シェルターへ向かう為電車に乗り続ける。
ドアが閉まり、線路を走り出す。俺と彼女は一言も話さずにシェルターへの景色をぼーっと眺めてる。
「あの…」
隣の座席に座る彼女が申し訳なさそうに話して来た。
「どうした?」そう聞けば、
彼女は伏し目がちに視線を逸らしながら
「シェルターには、お風呂や洋服はありますか?」
なんて事を聞くのだろうと思っていたから
あまりの質問に思わず笑ってしまった
「ふふ、あははっ……!あるに決まってるだろ?生活出来なきゃシェルターじゃない。」
「ありがとうございます…!」
嬉しそうに微笑む彼女を横目に俺らはシェルターに戻った。シェルターに戻ると、既に他の班が帰還していたようで、俺らの帰りを待っていたようだ。
「無事で良かった。それで、そっちの子が例の生存者かい?」
「はい、俺が保護しました。」
「それはよかった。それじゃ、君の名前は?」
「橘結衣と申します。」
「結衣ちゃん。よろしくね。」
「はい。」
どうやら彼女は元気になったみたいだ。
俺らはこのシェルターで生き残っている人達を保護する仕事をしている。俺はそこの職員だ。
そして今日も、また意味もなく電車に乗る。
この現実から逃げる為に。