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「あの、もう少しで着くって言いましたよね」
「い、言ったけど……」
「けど?って、全然つかないじゃないですか!」
どれだけ歩いても、一向に出口にたどり着くことは出来なかった。まるで、同じ場所をぐるぐる回っているような。永遠に出ることが出来ない地下道的な。足も棒になってきて、このままじゃ、体力を消耗する一方だと。かといって、ここから出られないと考えたら、引き返しても同じなんじゃないかと思った。
ルーメンさんも、ぜーはー、と息を切らしながら、進んでいる。はじめは繋いでいた手ももう繋いでいないし、私達の間には、ぎすぎすした雰囲気が流れ始めた。
どっちが悪いわけじゃないけれど、このまま疲れていったら、さらにこの空気が最悪になってしまうのではないかと。
(でも、なんで?)
ルーメンさんは、壁に手を伝いながら歩いている。だから、場所が間違っているわけじゃないんだろうけど。だったら、地下道が延びている? そんなことがあり得るのだろうか。私は、考えを巡らせたが、これと言ってまた答えが出ず、ただ歩くことしか出来なかった。
「おかしいですよね……エトワール様も気づいていると思いますが」
「う、うん。おかしい……んだよ。だから、どうすればいいかなって」
ネズミを倒して、少し気が楽になってこの状況だったから、もう何が何だか分からなくなってしまった。何ものかの介入によって、地下道が迷宮みたいになってしまったのではないかと。
また、考えられるとして、ネズミの中から出ることが出来ていないんじゃ無いかとも思った。その線はあり得るのだが、でも、あの時確かに手応えがあって。
(本当に意味分からない)
どんな魔法を使ったらこんなことが出来るのか。さすがに、この地下道が意思を持ってやっていると言うことはないだろうけど、ファンタジー世界ではあるし……メタ的ではあるけれど、あり得ないわけもなくて。
ただ、これ以上歩くのは疲れるし、見えている光が一向に近付いてこないこの状況に絶望さえ感じていた。小さな絶望が大きな絶望に変わっていくそんな気さえした。
私がその場にへたり込むと、ルーメンさんはバッと振返って、私の方に駆け寄ってきた。彼も、相当つかれているだろうし、ネズミの攻撃だって受けた。でも、私の身体を心配してくれるところを見ると、やっぱりねは優しいんだと思う。勿論、はじめから優しくなかったと思っていたわけじゃないんだけど。
「大丈夫ですか、エトワール様」
「ちょっと疲れちゃって。ごめん、少し休憩したらまた歩くから」
「そう……ですか。なら、先にいってみても良いですか」
「え?」
一瞬ルーメンさんの言っていることが理解できなかった。いや、言葉をそのまま受け取ってしまったのが悪いとは思っている。ルーメンさんは私が誤解したことに気づき、慌てて訂正する。
「本当にこの地下道に出口がないのか探ってきます。この光に向かって歩いて、出られたらむかえにくるので」
「そ、そうだよね」
「誤解してましたね、今」
「うっ」
図星で、反応が過剰になってしまった。それを、ルーメンさんに指摘されつつ、私は、彼がそれでいいですか? と同意を求めてきたため、頷くしかなかった。不安と言えば不安で、心配だった。だって、この地下道、私がいるから出口がないだけで、ルーメンさんは簡単に脱出できるのではないかと思ったからだ。もしそうだったとしたら、私はここに一人永遠に閉じ込められることになるし。そういうのがあったからこそ、私は、一人になりたくなかった。でも、彼についていけるほど体力が残っていない。
(ここは、任せてみてもいいかな……)
立ち上がろうにも気力が湧かなくて、私はその場にへたり込みつつ、顔だけを上げる。服はまだ濡れていて、重く、生臭い。
ルーメンさんも痛々しい痕が残っていて、服はボロボロだ。傷は治癒魔法で治したが、体力まで回復することは出来ない。
「あ、あの」
「何ですか。エトワール様」
「帰ってくるよね」
私は、不安がそのまま口に出てしまった。ルーメンさんはキョトンとした目で私を見ていたが、安心させるようにふわりと笑うと、はい、と親指を立てた。
「絶対戻ってきますし、出口見つけてくるので。待っててください」
「それ、フラグじゃないよね?」
「エトワール様、それを言ったら駄目だと思う……」
と、ルーメンさんは私の言葉に対し、不満を口にした。だって、かなりフラグを立てた人に見えてしまったから。
ルーメンさんは、肩を落としつつも、私に背を向けて歩き出した。壁に描いてある印を頼りにドンドンと前に進んでいく。そうして、あっという間に彼の姿は見えなくなった。光が先にぼんやりとあるだけ。
私は、冷たい石の床を触りながら、彼が帰ってくるまで暇を潰すことにした。といっても、ここから出たらどうするかの一人作戦会議で。
(エトワール・ヴィアラッテアは何をしようとしているの?これも、作戦のうち?)
地下道を使って逃げることを知っていたはずだ。やはり、何処からか監視されていて、私達の行動は筒抜けなのではないかと。考えるだけで恐ろしいが、それを出来るのは、闇魔法でしかあり得ない。監視魔法に優れているのは闇魔法だ。光魔法はそう言った、相手を陥れるために使う魔法は使えない。
となると、エトワール・ヴィアラッテアは既に闇落ちをして、魔法が変化していると言うことではないか。
(ヘウンデウン教と手を組んで、人工的魔物を作らせて……)
私を陥れて、身体を奪った後、何をする気なのか。
それが分かれば何か出来そうなのだが、それしか今、彼女の目的を知らない。愛されたいという思いが根源にあって、私を殺して時間を巻き戻して。私に成り代わったところで、私のポジションは悪役聖女で。
私の身体を奪ったところで、愛される保証はないのだ。リースが遥輝だったから、愛されたようなものだし……遥輝が、エトワール・ヴィアラッテア……この身体に入っているのが私じゃなければ、まず見向きもしなかったかもだし。
そもそもに、時間を戻した後、どんな風にこの世界が変わるのかも分かったものじゃない。だからこそ、そんなどうなるか分からない世界で生きようと何故彼女は思うのか。もしかしたら、他に策があるのかも知れないし、考えとか、記憶……とか、色々あるんだろうけど。
「考えても、仕方ない、ことかも知れない……けど」
私を今こうやって殺さないでいるのは、私を追い詰めるためだろう。私のメンタルが、かなり強いことに気づいて焦って色んな方法を使ってきているのかも知れない。なら、私が、彼女をかき乱せているってことでいいのだろうか。
私がそう思っていると、後ろから足音がした。魔力も何も感じなかったため、反応が送れてしまう。
(しまった……!)
背後をとられ、私は咄嗟に、魔力を集め、光の弓を作る。
「来ないで!来たら、うつから」
私がそう叫んで、弓を引くと、慌てたような声で、待ってください、と聞き慣れた声が響いた。
「る、ルーメンさん?」
ぼんやりとした暗がりから出てきたのは、ルーメンさんだった。彼は私を見るなりほっとしたが、私はあまりの衝撃、何故彼が後ろから現われたのかという驚きで、思わず手を離してしまった。ひゅん、と矢が放たれ、ルーメンさんの髪の毛をかすめる。彼はひっ、と何とも情けない声を上げていた。
「ちょちょっと、危ないじゃないですか、エトワール様!」
「ご、ごめん」
涙目で詰め寄ってきたルーメンさんに、私は謝ることしか出来なかった。
彼は、本気で怖かったのか、それ以降もずっと私に対して何か言っていたが、それよりも、どういった原理で、後ろからあらわれたか、それが不思議でたまらなく、私は彼の話が耳に入ってこなかった。