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扉の前で足音が止まる。しかし扉が叩かれないし声もかけられない。

外に誰がいるのか気になって、僕は頭を押さえながらベッドから降りた。

直後に「フィル様」と声がかかる。

なんだ…やっぱりラズールじゃないか。どうしてすぐに声をかけなかったんだろう?

「起きてるよ。入って」

「はい」

すぐに鍵が外され扉が開く。

部屋に入って「おはようございます」と挨拶をしたラズールが、とても険しい顔をしている。

「おはよう。どうしたの?何かあった?」

「いえ…」

ラズールは即座に否定したけど、明らかに怒っている様子だ。

僕が更に口を開こうとすると、ラズールが机に目を向けて少しだけ柔らかい表情になった。

「全部召し上がられたのですね。よかった」

「うん。僕は頑張らなきゃいけないから…。それにやけ食い」

「ふっ…やけ食いですか。それなら俺もつき合いたかったです」

「おまえが?やけ食いなんてしたことないだろう?」

「ありますよ」

「ふーん…、いたっ」

「どうされました?顔色がよくありませんね」

ズキンと頭が痛くなって、僕はベッドの端に座った。

ラズールが傍に来て、僕の額に手を当てる。

「熱はないようですが」

「大丈夫…頭が痛いだけ」

「まだ疲れが残ってるのかもしれません。確か薬があったはずです」

ラズールがベッドの横の棚の引き出しを開けて、白い粉が入った透明の瓶を取り出した。

「少しお待ちください」

「うん…」

机の傍に行き、瓶のフタを開けてガラスのコップに粉を少量入れる。そこに水を注いで戻ってきて、僕に差し出す。

「こちらをお飲みください」

「ありがとう」

僕は白く濁った水を一気に飲み干した。なんとも言えない苦い味に顔をしかめる。

「ふふっ」

「なに?」

「いえ、そのような顔も、幼い頃から変わってないですね」

「またそんなことを言う。おまえといると子供に戻った気分になるよ」

「いいのですよ、それで」

「ふふっ、おまえも僕の前では昔から何も変わってないよ。ところで機嫌は治ったの?」

「なんのことですか?」

空のコップを棚の上に置いて、ラズールが澄まして答える。でも何かを隠そうとしているように感じて、僕は更に問い詰めた。

「ここに来るまで怒ってたじゃないか。なにかあったんだろ。王の僕にも言えないこと?」

「…言う必要のないことです。とても些細なことですので、あなたは知らなくてもいいのです」

「ラズール」

「はい」

「些細なことでも全て僕に話して」

「必要ありません」

「ラズール!」

「本日もフィル様は部屋でゆっくり休んでいてください。鍵も開けないように。俺は仕事があるのでもう行きま……」

「フィル様!」

話してる途中から、荒々しい足音が聞こえていた。そして足音が扉の前で止まると同時に激しく叩かれ、トラビスの大きな声がした。

僕が入れと言う前に扉が開いた。

即座にラズールがトラビスに近寄り追い返そうとする。

「トラビス、昨日の話を聞いていなかったのか!この部屋には誰も来てはならないと話しただろう!」

「うるさいっ!今は緊急事態だ!あんたは絶対に知らせないだろうから俺が来たんだっ」

「余計なことをするな!早く持ち場に戻れっ」

今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな二人に、僕は大きなため息をつく。

頭が痛いのに大きな声を出さないでほしい。でもトラビスは、僕に何かを知らせるために来たようだ。ラズールが教えてくれないなら、トラビスに聞くしかない。

僕は二人に近づき「静かにして」と注意をする。

途端に二人はピタリと黙って、僕に向かって頭を下げた。

「僕は頭が痛いんだ。大きな声は頭に響く」

「申し訳ごさいません」

「フィル様、俺は大事なことを知らせに来ました!こんなことっ、あなたに内緒にしたままでいい訳がないっ」

「トラビス!」

トラビスがラズールの前に出て、僕の腕を掴もうとする。

その手をラズールが止めて、トラビスを睨んでいる。

トラビスも睨み返して、再び言い合いが始まりそうな雰囲気に、僕は目眩がして身体がよろけた。

「フィル様っ」

「大丈夫ですか!」

二人の手が同時に伸びて僕を支える。

僕はふらふらと椅子まで歩いて腰を下ろすと、トラビスを見た。

「トラビス、なにがあったのか教えて」

「フィル様」

「ラズールは黙ってて。おまえが僕に知らせようとしなかったこと、内容によっては罰を与えるから」

「…申し訳ごさいません」

「トラビス、話して」

「はっ」

ラズールが少し俯いて目を閉じた。

トラビスは僕の前で片膝をつくと、僕の目を見て話し出す。

「今朝早くに、バイロン国から使者が来ました」

「…バイロン国から?」

「はい。前王逝去せいきょの知らせを受けて、どうやら弔問に来られたようです」

「しかし…そのような心遣いの必要はないと、逝去を知らせる使者を送ったときに説明したのではなかった?」

「はい、しました。ですから他の国からは使者は来ておりません」

「ではなぜ、バイロン国からは…来たの?」

「あなたに会うためでしょう」

「…どういう…こと。まさか、使者って…」

「そうです。バイロン国からの使者は、バイロンの第二王子です」

「リアム…!」

僕は叫んで立ち上がった。

リアム!リアムが来てるの?この城にいるの?会いたい、今すぐに会いたい。会って抱きしめてキスをしたい。リアムの声を聞いて匂いと温もりを感じたい。

僕は頭の痛みも目眩も忘れて走り出した。

「フィル様っ!」

ラズールの止める声を無視して部屋を飛び出す。裸足のままだけど気にしない。廊下をまっすぐ走り、突き当たりの長い階段を駆け下りる。

階段を降りて外に出れば、中庭を抜けた先の客室にすぐに着く。もうすぐリアムに会えると思うと嬉しくて、おかしくなりそうだ。

しかし長い階段を半分降りた所で、背後から衝撃を受けて階段の下まで転がり落ちた。

「う…」

胸を強く打って息ができない。腕を突っ張って起き上がろうとするけど、右腕が痛くて力が入らない。右の足首もジンジンと痛い。

僕がモゾモゾと動いていると、ゆっくりと階段を降りてくる足音が聞こえた。

階段の上からトラビスの僕を心配する声がする。じゃあ、ゆっくりと階段を降りてくるのは。

「ラズール…」

「ダメですよ。昨日お願いしたではありませんか。あなたは、俺以外の前ではフェリ様なのです。それなのに、そんなに慌ててバイロン国の王子の元へ行って、どうするおつもりだったのですか?」

「…僕は…リアムに…」

会いたかったという言葉を飲み込んで、唇を噛んだ。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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