いつもお世話になっている白須等神社から黄泉醜女の契約の準備が整ったと遂に連絡が来た。
神様との契約は大半が有名所の神社で行う様で、白須等神社では俺が初めてだと言われた。
先日の県庁での支援内容の説明で契約費用の負担制度があったので早速申請し、同時に神社に申し込んだのだが、
神主さんが大手神社に研修に行く事になったので、契約実行まで結構待たされることになった。
そして契約実行の今日、いつもより数段上の装束を纏い、本格的な詔を聞きながら、俺の意識は、
堕ちていく。
螺旋の坂道の真ん中の穴の中、ただ只管に堕ちていく。
高さ・速度共に着地と同時に全身が砕ける事を確信できるものだが、不思議と死の恐怖が沸かないのは、自分がすでに死んでいるような感覚があるからだろうか。
「黄泉平坂」、螺旋の坂道を見た時の直感から、この場にいる自分が既に「死者」に分類されている予感がしたのだ。
死人が黄泉路の入り口で死に直す事も無かろうと達観しただけかもしれないが。
そもそもいつもの儀式の感覚とは随分と違っていたのだ。
いつもの契約が自分の複製を作ってそれに意識を載せて召喚されるような物だとすれば、今回は肉体から魂を直でブッコ抜いて人の形にコネ上げられたらソォイ!と放り込まれたようなそんな感じ。
え、大丈夫なの俺。無事に(生き)返れる?
長かったような、短かったようなフリーフォールの果てに辿り着いたのは、ザ・崖底とでも言うべき風景であった。ゴツゴツした地面が広がり、遠くに坂の登り口と洞穴の入口、そして竪穴式住居が見える。
何故見えるかと言うと、それらの近くに篝火が焚かれているからで、篝火の近くには、それぞれ古代の鎧を着込んだ兵士らしき人が立っている。歩哨だろうか?
何となく退路の確認のために坂道の登り口に近づくと、左右の端に控えていた兵士二人から槍を突き付けられる。
これはいけません。
そう思いつつ二人の隙を窺っていると、バシュッという感じで何かが頬を掠めた。槍で突かれたかと思ったが、そも二人は槍を突き付けたまま微動だにしていない。じゃあ何だ?頬を触ると出血を確認。慌てて後ろを確認すとる直径1m程のクレーター状の地面の真ん中に矢が刺さっていて、尾羽がまだ震えていた。矢!?ヤ、ナンデ!?篝火の灯りを頼りに坂の上から狙撃されたのか!?
慌てて坂の上に目を向けるが狙撃者の姿はそれこそ影も形も確認できなかった。アイエエエ、コワイ!?
「そこの御方、こちらへどうぞ」
竪穴式住居の中の人に呼ばれた気がしたので素直に招かれる。
「お招きに与り失礼させていただきます。私、現世にて冒険者なる稼業を営んでおります小野麗尾 守と申します」
「ご丁寧にご挨拶いただき恐れ入ります。今、家人の者が手当をさせて頂きますので少々お待ちください」
少ししてトコトコと可愛らしい足音を立てて一人の童女がこちらにやって来た。
「お待たせしたな、お客人。おひぃ様の命でお前の手当をする黄泉侍人(ヨモツハベリ)だ。それで、どこを怪我したんだ?」
頬の所を指刺したのだが、
「何だ、転びでもしたのか?唯のかすり傷ではないか」
「弓で射かけられたんだが」
「お前、死者のくせに黄泉の国から抜け出そうとでもしたのか?黄泉戦人(ヨモツイクサ)の皆様は坂を上ろうとしなければ無体な事をしないはずだが」
「坂に近づいたら槍を突きつけられて、矢を撃たれたんだが」
「ふむぅ。まぁ良いわ。ここは黄泉平坂。常世と現世の境目であり、この家はおひぃ様のお勤め所である」
「そのさっきから”おひぃ様”と君が言っている人は誰なのかな?ひょっとしたら僕が会いに来た人かもしれないんだけど」
「うぬは何を言っておる。うぬの様な何処の馬の骨ともしれぬ死者がおひぃ様に用があるなど何を企んでおる!」
「いや、僕の尋ね人が君の言う”おひぃ様”か分からないし、そもそも僕は死んでいないし」
「おのれ、怪しい奴め!そこに直れ!皆の者、出会え、出会ぇい!」
突如、童女が激昂すると、
「何々~?」
「お客様?お客様?」
「いらっしゃいませ~」
「遊ぼ?遊ぼ?」
さっき童女が出てきた奥の方からほぼ同じ格好の童女のお代わりが、そして入り口の外から槍の穂先が俺の喉元に突きつけられる。
何としたものか。起こった事態に窮していると、奥の方から、
「皆の者、鎮まりなさい。花、お客様をこちらにお通しして。皆はいつもの仕事に戻って」
何とも綺麗な声が響いてきて、
喉元から槍の穂先が引き戻され、
「「「「「おっしごと、おっしごと~」」」」」
と元気に姦しく童女達が戻っていく。
最初に出てきた童女(推定:はなちゃん)が俺を睨みつけながら、
「叱られた……。怪しい奴のせいでおひぃ様に叱られた……」
と、ブツブツ呟いてくる。
「お仕事しなくていいのかい、は~なちゃん♪」
「はなちゃん言うな!おひぃ様が付けてくれた大切な名前なんだぞ!お前みたいなやつが気軽に呼んでいい名前じゃない!」
「そっか。それは失礼な事をしてしまったね。申し訳ない」
何か泣き出しそうな気配を感じたし、大切な物に無配慮な事をしてしまった様なので速やかに心から謝罪する。
「ふん!仕方がないから許してやる!さぁ、おひぃ様がお待ちだ。急いで向かう…前に!水場に寄って傷の手当をするぞ!」
「よろしく」
「おひぃ様!申し訳ございませんがもう少々お待ちくださいませ!」
「ええ、急がなくても大丈夫ですよ」
水場……?
用水路の支流らしき物の傍で、何処かから持ってきた薬入れの軟膏らしき物を塗られる。
痛みが直ぐに消えたので不思議に思い、傷口のあった場所に触れると、
「おい、何をしている!? 傷が開いたらどうするんだ!」
「いや、もう完全に塞がっているよ。すごいね、その薬」
「当然のことである。おひぃ様が作られた薬だからな!」
いかん、最近金儲けの事ばかり考えていたから、現世に持ち出したらいくらの値が付くかとか考え始めてしまった。
こんな時は落ち着いて素数を数えるんだと(処刑)神父様も仰っていた事だし、
「そんな事は言っていませんよ!!」と、彼ならツッコミ入れて来るだろうなと益体も無い事を考えながら、
1・2・3・4・5・6・7・8・9・10……
うん。やはり素数は良い。どこら辺が孤独なのかさっぱり解らないが、何となくこれは良い物なのだろう。
「おい、大丈夫なのか?」
何故か不安げな表情で花ちゃんが聞いてきたので、ニチャアッと満面の小野麗尾スマイルで
「ああ、大丈夫だよ」
と言ったのだが、何故か怯えて
「ほ、本当か!?本当なのか!?実は花に怒ってるんじゃないのか!?」
急に挙動不審になったので、安心させようと頭に手を伸ばして撫でようとしたら全力で逃げられた。
解せぬ。
結局奇妙な追いかけっこは、部屋の隅に花ちゃんを両足を開き尻歩きで近づき追い込んだ後、飛び跳ねて角に張り付き閉じ込める”蝉ドンの極み”で追い詰めるまで続き、”おひぃ様”から呼び出しを受ける事で幕を閉じた。
花ちゃんの呼吸がかなり苦しそうだったので、不整脈とか持病の存在を疑ったのだが、
「お前の顔を見ない・声を聞かない事が特効薬だ。判ったら顔を削ぎ落して喉を切り裂け。いいか、今すぐにだ」
俺の顔が平均未満なのは重々承知しているつもりだったが、未だ嘗てここまで悪し様に罵られた事は……orz
「あの、花。お客様は……」
「あっおひぃ様。支度は終わりましたので今そちらに。ほら、お前も立って歩け!跪くのはおひぃ様の前でだ」
塩。支度とは一体……
連れられて向かった先には畳敷きの大部屋で、奥の床の間と思われる箇所は御簾で遮られている。
室内の灯りで人影が映し出されているので、おそらく”おひぃ様”が御わしあそばれるのだろう。
神前にてボーっと立っていると頭が高いとか言われそうなのでさっさと土下りたいのだが、それはそれで失礼だろうか!?
「どうぞ、お座りください。先程、黄泉侍人の者がお伝えしましたが、ここは黄泉平坂。現世と常世の境目にあたる処となります。
生者の方が来られる処ではないのですが……」
お言葉に甘えて正座にて着座。
「失礼、改めてご挨拶を。此れなる者、現世にて冒険者なる稼業を営んでおります小野麗尾 守と申します。
この度は、常世におわせられる黄泉醜女様の御力を御借り賜りたく罷り越させて頂きました」
「さりや![そうなのですか] 吾(アレ)が黄泉醜女と呼ばるる者なれば。[私が黄泉醜女と呼ばれる者です]
けふはことさらに遠い所より越しいただきかたじけなくさうらふ[今日はわざわざ遠い所からお越しいただきありがとうございます]
あぢきなきものなれど、食もさうらへばごやをらいかで[つまらないものですが、食事もございますのでごゆっくりどうぞ]」
そう言って、黄泉侍人に声を掛けると、
「お食事ですよ~」
「「「ごっ馳走♪ごっ馳走♪」」」
と次々にお椀やら何やらが目の前に運ばれてくる。
あれ?これってひょっとして黄泉竈食(ヨモツヘグイ)?
いよいよ以て死ぬが(ry?大丈夫?俺生きて帰れる?
見た目は(失礼だが)まともな料理に見える(料亭とかで出されそうな形式のガチなやつ)それを見ながらじっと考え込んでいると、
御簾の方から、
「ようせずはお気に召さざりきや……?[ひょっとしてお気に召しませんでしたか……?]」
と、お声が。
ふと入口の方を見ると、震えながらこちらの様子を窺う黄泉侍人の子らの姿が……
父さん母さん、お先に旅立つ不幸をお許しください。
守は、小野麗尾 守は漢なのです!!!
漢であり続けたいのです!!!!!
大きく息を吸い込み、ケツイを固め、
「いただきます!!!!!!!!!!」
漢小野麗尾 守、一世一代全身全霊、渾身のいただきますであった。
御簾の方から、
「きゃっ!」
という悲鳴と、
視界の端で黄泉侍人の子らが「「きゃ~」」とわちゃわちゃしているのが見えたが、事ここに至っては最早ただ食べるのみ!
まずご飯の代わりに盛られていたのは雑穀飯である。食べ慣れない味と食感だが、これもまた面白し。
汁物は筍と貝の吸い物であった。灰汁・砂共にしっかりと抜かれ&ダシがよくとられており、これまた美味し!
皿の上には焼き魚と鳥らしき何かの肉の焼き物が盛られていた。調味料が流石にないのか、素材の味100%の薄味だが、ウチの母さんはたまにこんな感じの薄味の味付けで料理を作るので食べ慣れた味でもあり問題無し!
食後の水菓子として山ブドウの盛り合わせと桃の櫛切りが出てきた。意外と食材豊富じゃないか?ここ……
「ご馳走様でした」
腹一杯になると気が抜けるのか、いただきます程威勢は出なかったが、特に問題は無いだろう。
ていうか、急に湧き上がる眠気の方が問題……zzZ
———————-以下後書き———————————————
ふいんき(ryを出す為にそれっぽい古文もどきを変換してみたテスト。古文もどきなので添削されても……困る(ガチ
本話に登場する黄泉侍人は、作者による想像あるいは妄想の存在です。(投稿日現在のこの小説以外に)現実に存在する如何なる資料にも記載が無いはずの存在ですので、神保町の古書店の発掘作業や知己の民俗学者・教授への問い合わせは徒労になる事を明記しておきます。
また、蝉ドンの極みはQTEに失敗すると股間に反撃を喰らい大ダメージを負ってしまうハイリスク・ノーリターンの奥義です。こちらも如くシリーズには存在しない架空奥義なので探し出そうとやり込んでも時間の無駄になります。万が一にもこんなのがキムタクが如くで実装されたら大炎上間違いなしやろなぁ……
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