テラーノベル
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#コスプレ
#ドS
路肩に止まった車内、街灯の光が真壁くんの横顔を淡く照らしている。
「全部、怜さんを独り占めしたかったからです」
その言葉が、耳の奥で何度もリフレインする。
契約という「偽り」の形が、彼にとっては必死な「本心」だったなんて。
「……ずるいわ」
私の口から漏れたのは、震えるような溜息だった。
「そんなの、卑怯よ。私、本気でバレるのが怖くて、必死で契約を守ろうとして…なのに、あなたは最初から私を……」
「ええ、卑怯ですよ。そうでもしなきゃ、怜さんみたいな鉄壁の女、一生俺のことなんて視界に入れてくれないでしょう?」
真壁くんは自嘲気味に笑うと、ダッシュボードから一通の封筒を取り出した。
それは、リビングの棚に保管していたはずの、私たちの指印が押された「結婚契約書」だった。
彼は迷うことなく、その紙を私の目の前で真っ二つに引き裂いた。
「っ、真壁くん!? 何してるの……!」
「契約は、今日で解除します。脅しで縛るのも、偽物の夫婦ごっこも、もうおしまい」
バラバラになった紙片が、足元に散らばる。
急に「盾」を奪われたような感覚に陥り、私は不安で体が震え出した。
これで、私たちは明日からただの上司と部下に戻ってしまうの?
あの甘い夜も、朝のコーヒーの匂いも、全部消えてしまうの?
「その代わり——」
真壁くんが私の手を取り、その甲に深く、誓うような熱いキスを落とした。
揺るぎない、真っ直ぐな瞳が私を射抜く。
「神代怜さん。俺と、今度は契約じゃなく、本当の結婚をしてください。秘密も、コスプレも、仕事での弱さも……全部俺が一生分、愛して守りますから…」
「……っ…」
喉の奥が熱くなり、視界が涙で歪む。
「氷の女王」なんて呼ばれて
誰にも頼らずに生きてきた私の脆い部分を、この人は最初から見抜いて、拾い上げようとしてくれていた。
「私……性格、可愛くないし、仕事には厳しいし、家ではダラダラしてるし……コスプレだってするわよ」
「知ってますよ。そんな怜さんを全部ひっくるめて、ずっと前から惚れてるんです」
「……バカね。本当に、バカなんだから……」
私は彼の手を握り返し、自分から彼の胸に飛び込んだ。
契約書なんてなくても、もういい。
心臓の鼓動が重なり合うこの場所こそが、私の本当の「聖域」なのだと、ようやく確信できたから。
私たちは、狭い車内で何度も何度も、昨日までとは違う、愛を確かめ合うような深い口づけを交わした。
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