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死闘の余韻が冷めやらぬ、書き割りだらけの撮影スタジオ。「カット! オッケーです!」
監督の声が響いた瞬間、それまでの凍りつくような殺気は霧散した。胡蝶しのぶを演じた彼女は、役の険しさを脱ぎ捨てるようにふぅと息を吐くと、一瞬だけモニターを確認し、すぐさま視線を泳がせた。
お目当ての人物は、数メートル先でスタッフと談笑している。
「童磨さーん!」
しのぶの衣装のまま、彼女は羽織をはためかせて駆けだした。劇中ではあんなに憎み、毒を喰らわせ、命を懸けて心中を図った相手。しかし今の彼女の瞳に宿っているのは、殺意ではなく蕩けるような愛着だ。
童磨を演じた彼は、彼女の気配を察して振り返るなり、いつもの飄々とした笑みを浮かべて両腕を広げた。
「お疲れ様、しのぶちゃん。今日も最高のキレだったね」
その胸に、彼女は遠慮なく飛び込んだ。周囲のスタッフが「あぁ、また始まった」と苦笑いして視線を逸らすのもお構いなしだ。彼女は彼の首に腕を回し、白橡色の髪に指を潜り込ませる。
「……もう、本当に嫌いになりそうでしたよ。あんなに酷いことばかり言って」
「演技だってば。俺だって、君をあんなふうに扱うのは心が痛んだよ?」
彼は彼女の腰を抱き寄せ、耳元で低く囁いた。撮影中の軽薄なトーンとは違う、彼自身の甘い声。しのぶはゾクッと背中を震わせ、彼の胸板に顔を埋める。
「嘘つき。あんなに楽しそうに笑っていたくせに……。お詫びに、たっぷり可愛がってくださいね」
彼女が上目遣いでねだると、彼は降参したように笑い、そのまま彼女を抱き上げた。楽屋へと向かう足取りは速い。
楽屋の扉が閉まると同時に、激しい口づけが交わされた。隊服のボタンを外す指先がもどかしく、二人は重なり合うようにソファへ倒れ込む。スタジオの冷たい空気とは対照的な、熱を帯びた吐息が静かな部屋に充満していく。
「しのぶちゃん、心臓がすごく速いよ」
「あなたのせいです……。さっきの毒の代わりに、今はあなたの愛が回って、頭がおかしくなりそう……」
劇中では叶わなかった「救い」と「融合」を、彼らは今、全く別の形で貪り合っている。彼女の細い指が彼の背中に爪を立て、彼はそれに応えるように、さらに深く彼女を求めた。
物語の結末を超えた先で、二人の情熱だけが激しく燃え上がっていた。
#たまに雑談