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落ちる。深い穴に。
落ちる。落ちる。深い闇に。
落ちる。落ちる。落ちる。深い闇の底に。
落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。真っ暗闇の底に。
落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。真っ暗闇の、奥底に。
落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。何も見えない真っ暗のその先に…更に濃い闇の中に。
落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。暗く、黒く、漆黒で暗黒な、暗闇の中に。
落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。落ちる。
落ちた。
黄金の花の、その上に。
…痛い。
ニンゲンはまず最初にそう思った。
痛みを堪えつつ、立ち上がって足元に視線を這わせれば、そこには黄金の花が無数に咲いていた。
どうやら、それがクッションになって助かった様だ。
ニンゲンは身体を触ってみた。
そして、落ちている間に、無我夢中で何かを掴んだ事を思い出す。
…木の枝だった。右手に力強く握っていた。
何の役に立つんだ。とニンゲンは苛立ち、枝を地面に叩きつけようとして止めた。
そして次に、頭に違和感を感じた。落ちている間は感じていなかった違和感だ。
何かが巻き付いているような感触の正体を確かめる為に、ニンゲンは頭に手を這わせた。
……………。
包帯だった。
ニンゲンの視界に軽く映る範囲でしか判断できないが、薄汚れていて、使い古された感満載の包帯だ。
それからふと、ニンゲンは頭上を眺めてみる。
……高い。
あそこから落ちて、何故生きていられるのだろう。
軽く疑問に思ったが、今そんな事を考えている時間も余裕も、ニンゲンにはなかった。
進もう。
少しして、ニンゲンはそう考えた。待っていても、何も起こらないだろう。
そして歩いてみて、ニンゲンは拍子抜けした。
発見があった。
数歩歩いた先に、ニンゲンの背丈よりも遥かに大きな装飾の施されたドアがあった。
否、ドアかどうかは分からなかった。何より、”ドア“と呼べるものが存在していなかったからだ。
強いて言うのなら、装飾のされた“横穴”…いや、”入り口“というのが正しいのかもしれない。
だが、それを定かにする知識をニンゲンは保有していなかった。
それを少し見てから、ニンゲンは歩を進めた。
そしてまたすぐに新しい発見を見つけた。
顔の描かれた花が、部屋の真ん中で陽の光を浴びながら鎮座していた。
かわいくもあるが、どこか不気味さを感じる。そんな笑みが顔に描かれていた。
誰が花に顔なんて描いたのだろう。悪趣味な輩もいるものだ。
ニンゲンはそう思いながら、その花を素通りしようとした時だった。
「ハロー!ボクはフラウィ!お花のフラウィさ!」
…喋るとは思わなんだ。
ニンゲンは思わず立ち止まり、驚き半分怯え半分を孕んだ視線を向ける。
それ見た途端、花は一瞬顔を強張らせたが、すぐに笑顔に戻ってこう言った。
「キミは…この地底の世界に落ちてきたばかりだね?」
地底。
その言葉に、ニンゲンのタマシイはズグンと跳ねた。
地底。ニンゲンなら誰でも知っていることだろう。
昔から伝わるモンスターとニンゲンの、耳にタコができる程聞いたおとぎ話。
それの、モンスターが封印された場所をなんと言っただろう?
地底だ。
そうして2番目に、ああ、コイツはモンスターなのか…と思うことにニンゲンは成功した。
「そっか。じゃあさぞかし戸惑っているだろうね」
ニンゲンは、この花…フラウィの言う通りだと思った。
今、ニンゲンは確かに困惑しているし、この状況に戸惑っていた。
「この世界のルールも知らないでしょ?」
続けてフラウィが言った言葉に、ニンゲンは、カクンと頭を傾けた。
ルール。そんな物が存在するのか。少なくとも、地上ではそんなものは無かった筈だ。
「それならボクが教えてあげよう」
ありがたいな。ニンゲンはそう思うと同時に、どこか胡散臭さを感じた。
だが、ニンゲンはルールを知らない為、ここはフラウィの厚意に甘えさせてもらうことにした。
「準備はいい?行くよ!」
いいよ、と言う前に勝手に話を進めたフラウィに、少しだけ不信感を抱きながら、ニンゲンはフラウィに近づこうとした。
だが、足は動かなかった。
「それはね。キミのタマシイさ。キミという存在そのものと言ってもいい」
もう一度足を動かそうとしたが、やはり動かなかった。
そしてニンゲンは、今自分の”タマシイ“が体の中に在らず、外に出ているのだと悟った。
「始めはすごく弱い…でも、LVが上がると強くなれるんだ!」
困惑するニンゲンを他所に、フラウィは話を続けた。
LV。ニンゲンにとって耳馴染みのない言葉に、ニンゲンは首を傾げた。
「LVっていうのは、 LOVE。つまり、愛のことさ!」
LVはLOVE。LOVEは愛。なるほど。分かりやすい言葉だ。
つまり、LV=LOVE=愛。ということらしい。
ニンゲンはまた一つ賢くなった様な気がして、誇らしげな気分になった。
「キミもLOVEが欲しいでしょ?待ってて、今ボクがLOVEを分けてあげるから!」
愛を分けるとはどういうことだろう?
ニンゲンは疑問に思い、少し考えてみた。
…………特にこれといった結果は得られなかった。
「この世界では、LOVEはこんなふうに…」
フラウィは一瞬言い淀むと、自身の体の背後から種の様な物を取り出して言った。
「白くてちっちゃな“なかよしカプセル”に入れてプレゼントするんだ!」
フラウィの体の横でフワフワと浮かんでいる“なかよしカプセル”は、フラウィの言う通り白くて小さい。あんな物のどこに愛が入っているのだろう。
ニンゲンは少し疑問に思ったが、どうせ考えても分からないと思ったので、考えることをやめた。
「さあ!カプセルを追いかけて!い〜っぱい拾ってね!」
カプセルが五つ程。ニンゲン目掛けて飛んできた。
ニンゲンは、フラウィに言われた通りにカプセルに触れてみた。
響いた音は。明らかに、ドン。だった。
「バカだね」
その言葉を聞いて、ニンゲンは、今自分が攻撃された事を理解した。
全身がズキズキと痛い。
いや、痛いなんてもんじゃない。
例えるならば、登山グッズなしで山を登って、頂上から落下したような感じだった。
ニンゲンの脳内を、クエスチョンマークが支配する。
何故フラウィは自分を攻撃したのか。あの言葉は嘘だったのか。
ふとフラウィを見てみると、先程までの優しい笑顔とは打って変わり、口を大きく開け、不吉な笑みを浮かべながら眉を吊り上げてニンゲンを嘲笑う様に見ていた。
「こんな絶好のチャンスを逃すわけないだろ」
フラウィは嗤いながら言う。
恐怖に震えるニンゲンをフンッと鼻で笑いながら、フラウィはニンゲンに死刑宣告を言い放つと同時に、実際にニンゲンに死を与えようとし始めた。
ニンゲンのタマシイの周囲に、フラウィのなかよしカプセルが円形に浮かび始めた。
逃げられない。
ニンゲンはそう思った。恐怖を感じていた。
「死ね」
言い終わるや否や、フラウィは甲高い声でゲラゲラ嗤っている。
少しずつ少しずつ、なかよしカプセルはニンゲンのタマシイの方に迫ってくる。
フラウィの嗤い声が、段々遠くなっていく。
これが死を感じると見ると言う走馬灯か。
ニンゲンはそう思った。死が近づくにつれて、妙に冷静になっていた。
なかよしカプセルが、ニンゲンの目と鼻の先にまで近づいた。
ニンゲンは、もう駄目だと思って、思い切り目を瞑った。
なかよしカプセルが体に当たった。
痛みは、なかった。