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9 - 第3章 1話 偽ヒロインと嘘

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2024年07月10日

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私はどうしようもない嘘つきだ。

この嘘で親もクラスメイトも喜んでくれる。求めてくれる。笑ってくれる。

私はヒロインを偽り続ける。

これで良いんだ。これで。


雨が降りそうな曇り空をぼんやりと見る。

私は今日、部活をサボった。

特に理由はない。強いていうなら買い出しが少し苦手だからだろうか。

皆と同じ空間に居るだけでも疲れる。誰かと二人っきりなんて、正直なところ嫌。

こんな本音を皆が知ったら驚くに違いない。

私は嘘をつき続けている。周りが望むなら、明るくて、元気なヒロインだって演じる。

心ではこんな姿望んではいない。

本当は静かに、流れに身を任せて過ごしていたかった。

嘘をつき始めたのはいつからだっただろうか。

ふと思い出してみる。

…確か、幼稚園生くらいから私は嘘を言うようになったはずだ。

くだらない、だけど幼い私には大事な嘘。

嘘つきになる前の幼稚園生であった私は友達がいなかった。話す子が全くいない訳じゃなかったけれど、友達とは呼べなくて満足できなかった。


「ねぇ、ママ!」

「どうしたの葵?」

話しかけちゃった…話せることなんて無いのに…どうしよう…

「あ、あのね今日…ゆ、柚葉ゆずはちゃんと遊んだの!」

「あら、そうなの?良かったわねー」

ママ、いつもよりも笑ってる…?嘘でも楽しいことを言えばママはもっと笑ってくれるかな…


それが嘘つきな私の始まり。些細なことだったけれど、あの時の私にはママが笑ってくれることが嬉しくて堪らなかった。

その時を境に私は嘘をつくようになった。バレてたかもしれないけれど、必死に嘘をついた。

ママの言葉、皆の言葉。私はどんどん飲み込まれていった。

「明るい子はモテるわよー」

「葵ちゃんって悩みとか無くて元気そうだよね!羨ましい〜」

「天知さんは私が見てきた子供達の中で一番優秀な子よ」

周りの言葉を聞いて、天知葵ヒロインを作っていった。


嘘で笑って。

嘘で友達作って。

嘘で人気者になって。


嘘の為に自分殺して。

嘘の為に嫌なことやって。

嘘の為に努力して。


皆が見ている私は偽物。

心は痛くて、ずっと悲鳴をあげていた。違う。これは私じゃない。やりたいことじゃない。私が叫び続けていた。

叫んだ分、抑え込んだ。本音を殺した。周りは本当の私なんて望んでないって。

嘘なんてつきたくないけど、求められたいなら、そうなるように偽るしかないんだ。

……だけど、本当は偽物じゃない自分を受け入れてくれる人が欲しい。親友が欲しい。

こんな、偽ヒロインじゃなくて、天知葵を。

愛して欲しい。

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