「んじゃ、おつかれ〜」
「あ。待って翔太」
仕事終わり。
颯爽と帰ろうとする翔太を慌てて呼び止める。
翔太は少し上目遣いで、小首を傾げた。
何それ。可愛いな。
「俺も出るからいっしょいこ」
「……いーけど。あんま待たせんなよ」
「わかってるって」
俺は残りの荷物を雑に詰めて、細い肩に腕を回すと、近っ!!と文句を言う翔太を無視して、みんなに手を振った。
「お先に〜」
「お疲れ阿部ちゃん、しょっぴーもまたね」
「ほなな〜」
ラウも康二も普段通り。
少し顔をこっちに向けただけで、世間話を続けている。思ったより仕事が巻いたので、二人でどこかに行く相談でもしてるみたいだった。羨ましい。
「じゃ、行こうか?遅くなっちゃう」
「待ってたの、俺の方な?」
口を尖らせる翔太に笑顔で応え、二人並んで外へと向かう。
翔太の体温があたたかい。
翔太って、もともと低体温だったくせに、トレーニングを真面目にするようになってから、体温が上がったんだって。俺はそこまで鍛えてないから末端冷え性のまんま。
ぶるる、と、寒がりの俺は、もうだいぶ冷たい11月末の陽気に身体を震わせた。
「……雨じゃん。どおりで寒いと思った」
「まじか」
外まで出て、しとしとと降る雨に、翔太がまた少し不機嫌になる。
「阿部ちゃん、雨降るって言ってなかったよな?」
「んー。たしかに。夜まではもつと思ってたんだけどねぇ」
「傘ねぇぞ」
「これからどこ行くの」
「俺は上がりだからサウナ。阿部ちゃんは仕事だろ?ご苦労さまぁ」
にやりと笑って、自分の肩から俺を払い除けると、翔太は近くのサウナにそのまま行こうとした。
俺は腕を掴んだ。
「えっ。なに?」
「ちょっと待って」
そして、鞄から取り出した折り畳み傘を翔太に渡す。
「これ使って」
「え?いいよ。サウナすぐそこだし。帰りはタクるから」
「いいから。使えよ」
強引に傘を押し付けると、翔太は困った顔をしている。
「いいって。気象予報士なのに、雨、降るって当てれなかったから」
「ふっ。それもそうだな」
笑顔の翔太が好きだ。
肩を組んだ時も、隣りを歩く時も、こうして細い腕を掴んだ時も、俺の心臓がどきどきしてるの、コイツ、わかってんのかな。
時々誘うような感じに俺を見てるの、本人は少しも自覚ないんだろうな。
「んじゃ借りるな。阿部ちゃんも風邪引くなよー」
しばらく見惚れて、呼び止めるタイミングを失ったと思っているうちに、翔太の姿はどんどん遠ざかって行った。
近くのタクシー乗り場まで相合い傘してもよかったな、なんてふうにも未練がましく思うけど。
好きがバレると困るから、もう少し、この距離に、慣れてから。
俺は鞄を頭に被るようにして、冷たい雨を避けながら、翔太の消えた方向とは逆方向の、少し遠くのタクシー乗り場まで足早に走り出した。
コメント
8件
かわいいです〜💚💙

本当だ〜😂 仕事終わったら、読みに来ます。