テラーノベル
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兵士団の指揮官の怒声が村に響いた。「全員、前に出ろ! この村は国境だ。守れなければ敵に蹂躙されるだけだ!」
ユウは木剣ではなく、今度は支給された鉄の剣を握っていた。
その重みは想像以上で、振り上げるだけで腕が悲鳴を上げる。
隣の青年、リオが顔を青ざめさせて呟いた。
「ユウ……俺、死ぬかもしれねえ」
ユウは口を引き結び、短く答える。
「死にたくなきゃ、振れ。剣を」
リオは震えながらも頷いた。
戦場はすでに地獄だった。
土の上に転がる死体、燃える家屋、血の臭いが鼻をつく。
敵兵の叫び、味方の悲鳴、金属がぶつかる甲高い音が響き渡る。
「ひぃっ!」
リオが恐怖に足を止めた瞬間、敵兵が突進してくる。
「来るぞッ!」
ユウは彼の前に飛び出し、剣を振り抜いた。
ガァンッ!
重い衝撃。腕が痺れる。しかし、剣王の加護が体を導く。
敵の刃を滑らせ、横から踏み込む。
「はぁぁっ!」
ズバッ!
敵兵の肩口に深く斬り込み、倒れた。
リオは腰を抜かして叫ぶ。
「ユウ……お前、どうやって……」
ユウは短く答えた。
「考えるな。ただ……生き延びるんだ」
敵が次々に押し寄せる。
ユウは息を荒げながら、必死で剣を振る。
頭の中では常に声が響く。
(止まるな……隙を見ろ……避けろ……!)
剣を振り下ろしながら、相手の体勢を見抜く。
踏み込みと同時に、腰をひねり、斬撃を滑らせる。
それは訓練で古老に叩き込まれた動き――だが今は本能のように体が覚えていた。
「ちっ……化け物か、こいつ!」
敵兵が恐怖に後退する。
ユウは答えない。ただ剣を握り直す。
恐怖に押し潰されそうになりながらも、足は止まらなかった。
「ユウ! 助けてくれ!」
別の村の青年が敵兵に囲まれていた。
ユウは走り出す。だが、間に合わなかった。
敵兵の剣が青年を貫き、血が飛び散る。
「っ……!」
ユウは怒りと恐怖のまま、剣を叩き込んだ。
ガギィン! 敵兵の刃を弾き、喉元を斬り裂く。
倒れた青年を抱き上げるが、目はすでに虚ろだった。
「クソッ……!」
リオが絶叫する。
「何で……何で俺たちがこんな目に……!」
ユウは震える声で言う。
「これが……戦争だ。助けられる命も、助けられない命もある」
戦いは長く続かなかった。
村の兵は押し負け、指揮官は討たれ、ついに村は敵に占領された。
捕虜として生き残った者もいれば、命を落とした者もいた。
ユウとリオは奇跡的に生き残り、敵軍に「戦で役立った者」として兵士団に組み込まれることになった。
リオは震えながら呟いた。
「俺たち、これからどうなるんだ……」
ユウは剣を見つめ、低く答える。
「生き延びるしかない。……それが、俺たちにできる唯一のことだ」
夜、野営の火のそばでユウは一人剣を振った。
空を裂く風の音が、戦場で刻まれた恐怖と共鳴する。
「……まだだ。もっと強くならなきゃ……」
その瞳には、死の恐怖を超えた、強烈な生存への意志が宿っていた。