テラーノベル
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空き地の土管の影、夕暮れ時の赤く染まった空気の中で、武は静香の前に立ちはだかっていた。いつもなら大声で威張り散らすはずの彼が、今は言葉を失い、ただ荒い息を吐いている。その巨体から放たれる威圧感は、静香を逃げ場のない沈黙の中に閉じ込めていた。静香は、いつもと違う武の瞳の奥にある熱に、本能的な危うさを感じて一歩後退した。しかし、その背中は冷たい土管のコンクリートに突き当たる。武の太く逞しい腕が、彼女を包み込むように壁に押し当てられた。
「……ジャイアン、どうしたの?」
震える声で問いかける静香。だが、武は答えなかった。彼はただ、自分よりも遥かに華奢で、柔らかな肩を強く掴んだ。暴力的なまでの力強さと、それとは裏腹な、触れることを恐れるような微かな震え。
武はそのまま、彼女の小さな身体を自分の広い胸板へと力任せに引き寄せた。静香の顔が彼の厚いシャツに埋まり、そこから漂う泥と汗、そして男らしい体温の混じった匂いが彼女の感覚を支配していく。
二人の鼓動が重なり、静かな空き地にドクンドクンと脈打つ音だけが響く。武は、これまで感じたことのない衝動に突き動かされ、彼女の髪に、そして耳元に顔を寄せた。
「……悪ィな、しずか。俺、もう我慢できねえんだ」
その掠れた声と共に、武は静香の身体をより深く、力強く抱きしめた。コンクリートの硬さと武の肉体の熱さに挟まれ、静香は逃げる術を失い、ただ彼から発せられる圧倒的な生身の熱量に飲み込まれていった。
夕闇が二人を包み込み、境界線が曖昧になっていく。そこには、ガキ大将としての武も、優等生としての静香もいなかった。ただ、本能のままに重なり合い、互いの体温を確かめ合う二つの魂が、夜の帳の中に沈んでいった。
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