無い…無い…無い…?どういう事??2人の身体検査はした。確かにした筈……。隠せそうなポケットや袖の裏やフードの中や服の下。どこに隠しても見つかりっこないっていう確信があるから何処を探しても見つからないの?
(どうして見つからないの?確かに部屋も探した上、今いる部屋のベッドを全部調べ、身体検査までしたのよ?何故見つからないの?この中のどちらかが確実に犯人……なのに何故証拠が見つかんないの?)
私はどうしようもない絶望感でいっぱいになった。体が重い、身体中から不安の汗と恐怖だけが滲み出てくる。心臓の鼓動が早まり崩れ落ちる。
「おい、大丈夫かいな。」
「てか貴方そこまでするのは分かるけど、まだ探して無いとこあるでしょ。」
「え?」
加奈子ちゃんはボソッと私に耳打ちした。
「人狼ゲームの次の日に最初に起きてきていたのは、実はあの栄太って男…。」
「!」
そうか、最初に起きてきたなら死体の中に隠す事だって出来るかも…。でも、それでも、彼がしたと言う確固たる証拠はどこにも無い。もし手紙が死体にでは無く彼の触っていたところに隠されていたとか、このステージのゲームで、人狼をやっていた人は手紙の対象外とされるならば間違いなく彼だと言うのは言える。ただ、彼だけではない。この加奈子ちゃんだって、殺害後に遺体に手紙を入れられる。加奈子ちゃんは灰色だ。取り敢えず遺体の中を探してから考えよう。
2人を部屋で待機させ、私は手紙を探しに遺体の横に座る。手を合わせ、静かに黙祷する。
(ごめんなさい。これは彼女の為でもあり、貴方の為なの。)
私は黙祷を終え、開かれた腹をゆっくり再度大きく広げ優しく臓器を出していく。
(死臭…腐敗臭かな。吐きそう…。)
申し訳の立たないことをしてしまっているとは私にも分かる。でも、こうしないと誰も救われない。誰も報われないよね。
臓物を掻き分け手探りで探し続け、どれくらいだっただろうか。気が付くと栄太はベッドで眠っており、加奈子ちゃんは眠たそうに頬を着き項垂れていた。
(これは?)
血を吸い、ベチャベチャした薄い物体ではあったが、間違いなく例の手紙だった。
「加奈子ちゃん!」
小声で加奈子ちゃんを呼ぶと、ビクッと身体を震わせ立ち上がり駆け寄ってくる。
「!!これって」
「そう、例の手紙。体の奥の方に強引に入れられていたのね。入っていた周りだけ、少し荒れているの。」
「でも、これだけじゃ」
「それだけじゃないの、この手紙の端を見て。」
加奈子ちゃんは手紙を暗い中マジマジと見つめる。
端が破れていることに気付き、彼女はハッと顔を変えた。
「でもこの端切れ…どこにあるんだろう。」
「それなら、栄太さんの部屋をもう一度探してみたら見つかるかも……。私1人だったから、加奈子ちゃんと探したら見えなかった物が見えるかもしれない!」
私がそう言うと、彼女はキョトンとしていた。
「…ん?」
「あ、だからよく言うでしょ?人の着眼点は違うって。」
「いや、全然言わないけど…。というか何それ。」
気まずい無言が数秒ほど流れた。
「と、取り敢えず探そっか」
「そ、そうだね。」
ガサガサ ガサガサ
「狭いし暑いし、布団ぐちゃぐちゃだし、私だったら有り得ないわ。」
「こんな事言わないであげて」
ガサガサ ガサガサ
「ん?」
「なに?」
はい、と手に渡されたそれをよく見ると黒い手紙の欠片。
見つかった、これで証拠が……。
ピンポン パンポーン
『Aliceでぇす。至急部屋に集まって下さぁい』
集まる?一体どういうことだろう?栄太が犯人だと言うことが今私たちの中で証明出来たから?
心を読める筈もないのにそれは……無いか。
私と加奈子ちゃんは静かに部屋に戻ると、飛び起きた栄太は何があったのか分からないと言った顔をしていた。
『そろそろいい頃合いだからぁ、犯人当てようかぁ。』
9話に続く
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!