青龍は
すべての神を喰らい尽くした。
神々の力を
魂ごとその身に取り込んでいく。
その瞬間——
青龍の体が震え
崩れ落ちるように
人の姿へと戻った。
力を使い果たした証。
その銀白の長髪が地に落ちる。
呼吸は荒く
体の芯が焦げ付くような痛み。
そして——
青龍のすぐ傍で
時也も膝をついた。
彼の体もまた⋯限界だった。
血に染まった着物が
風に揺れる。
唇が噛み締められ
顎が震えていた。
だが⋯⋯
その瞳は
まだ暗く鋭く光を宿していた。
そして
ふっと⋯細められた。
「⋯⋯青龍」
低く、静かな声。
「⋯⋯無理をさせて⋯すまない」
その言葉を聞き
青龍は僅かに目を伏せた。
この主は、何処までも優しい。
それが、誰の為でもなく—⋯
己の大切なものの為ならば
いくらでも修羅となる。
「⋯⋯僕に、ついてきて⋯くれるか?」
時也の声が、僅かに震えていた。
「無論に⋯ございます」
青龍は
裂けそうに軋む身体を起こし
静かに膝をついた。
地に手を付き
誓いを捧げるように。
「櫻塚家、現当主
我が主⋯⋯櫻塚 時也様」
その言葉を聞き
時也の瞳が微かに揺れる。
しかし
直ぐにまた、静かに細められた。
青龍は、わかっていた。
ー時也が、何をしようとしているのかー
ーそれでも、彼はただ従うのみー
ー何処までも、この男の為にー
「⋯⋯参りましょう」
青龍は
痛みを顔に出すこと無く
静かに立ち上がる。
「貴方様が⋯⋯
誰にも、利用されない世界へと」
次の瞬間——
青龍の体躯の中で
喰らい尽くした神威が
急速に消費され始めた。
まるで
何かが強制的に
引き摺り出されるかのように。
ゴゴゴゴゴ⋯⋯!!
大地が震え、空気が軋む。
地面が裂け
目の前に禍々しい光の渦が現れた。
青龍は、瞳を細めた。
「⋯⋯時也様」
時也は、その光を見つめていた。
何も言わず⋯⋯ただ、静かに。
その光が、強く
次元の裂け目となり
拡がっていく。
「⋯⋯行こう。青龍」
時也の声が、静かに響く。
そして——
二人の体が、
崩れ落ちるように力を失った。
しかし、青龍はその瞬間
最後の力を振り絞り
時也の血に濡れた身体を抱き寄せた。
「⋯⋯っ!」
強く、離さぬように。
崩れ落ちる二人を
光の渦が呑み込み
流していく。
風が唸る。
空間が捻れる。
次元が歪む。
光が、二人の姿を奪い
そして
彼らは⋯⋯
この世界から⋯消えた。
ただ、桜の花弁だけが
静かに、舞い落ちていた。
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