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――それほどに、大好きだった、あの頃から。
そして今だって。
(好きなんだ、ほんとうに、お前のこと大好きでどうしようもない)
朝起きてから眠りにつくまで、気を抜けば真衣香の顔が浮かんでくる。声を思い出して、切なくなる。
いつか届いてくれないか? 想っているだけでもいい。そんなふうに思ってた。
思っていたけれど、心はついて来ない。
(ちょっと思い出すだけで、こんな苦しいんだって)
逃げ出したくなる自分を振り払うように、首を大袈裟に振って。
スマホをポケットへ隠すようにして乱暴に仕舞い込む。
嫌なことを考えなくて済む方法なんて、よく知ってしまっているからだ。
(相手も遊びだからとか、夏美みたいに利用し続けなきゃいいだろとか、何ですぐ言い訳ばっか探そうとするんだよ)
振り払い切れ。そう、思いながら唇を噛んだ。
どうしても、なりたい自分がある。明確に、頭の中にいる。
(お前のこと好きだって、気が付いてからずっと)
“だから、逃げ出すな”と。
自分を鼓舞し、コートを羽織り鞄を手に取る。その勢いのまま玄関の扉を開けた。
寒い空気に、ほんの少しだけ、気を持ち直せたような気がする。
強くなりたい。