冬もそろそろ終わりが近づき、周りは進級や卒業などに不安や期待など、様々な感情を抱いている中。相変わらずショーの事を考え、そして頭を抱えている人がいた。授業中もお構い無しに機械を弄ったりしているが、今はただノートに向かい合い、演出案だけを考えていた。あれもダメ、これもダメ、と。いくつも案を出しては全て否定し、ゼロからやり直す。ただそれを繰り返していた。
珍しいな、とそいつ__類を見て1番に思った。止まらない案などを、まるで幼い子供のように瞳を輝かせながらノートに纏める姿とは違い、なんだか老いたというかなんというか。なんとも表しがたい表情で、黙々と続けていた。
『珍しいな。類がそんなに悩むなんて。』
「ん?…嗚呼、まあ僕も人間だし。悩むことはあるからねぇ」
なんて笑いながら言いつつも、ノートから目を離さない。ペンを握る手の力を弱めなかった。こんなんじゃ昼食すら食べない。食べ終わった弁当箱を片付け、類が購買で買ってきたパンに手を伸ばす。袋を開き、パンを口元へ近づける。あ、と大きく口を開いて被りつけば、味わいもせずに食べる。少しくらい休憩したらと思うが、これは言っても無理だな、なんて諦めながら、またパンを運んだ。
⭐⭐⭐
類がひとりで悩んでいるのを知っている。それを座長として、そして仲間として、掘っておくわけにはいかない。と、いうわけで。授業の合間合間にオレも演出案を考えてみた。普段少しアイデアを出したりはするが、ここまで考えるのは初めてかもしれない。類が満足するような、類らしい演出案を頑張って考えてみる。意外と考えるのは楽しく、それはそこまで苦ではなかった。
放課後。急いで荷物を纏め類の教室へと足を運ぶ。演出案を纏めたノートを手にしっかりと握りしめながら。
『失礼する!神代類はいるか!!』
「おや、司くん。そんなに急いでどうしたんだい?神代類はここにいるよ。」
驚いた顔をしながら纏めた荷物を持って、扉へと向かってくる。オレはさっき纏めた演出案を説明しようと、ノートを開き自信満々に見せた。
『どうだ!類!お前が悩んでいるようだったからな!オレも少しぐらい手伝おうと思って考えてみたんだ!!』
「……へぇ、いいじゃないか。……うん、これとかここを………いや、ここは…」
類がそんなに顎に手を当てながら、真剣に考え始めた。いつもの類の姿を見て、なんだか安心する。
『…………うん、いいね。次のショーにこれらも使っていいかい?』
「勿論だ!!その為に考えてきたんだからな!!有難く使え!!」
『嗚呼、そうさせてもらうよ。有難う、司くん』
それじゃあ帰ろうか、と歩き始めた類の背中を早歩きで追いかける。悔しいことにオレより大きいのに、類の背中は何だかとても小さく見えた。ぐらぐらと揺れて、安定感がない。階段を降りていく姿はよく言えば踊るように、悪く言えば酩酊しているかのように。類が低い位置へと移動する。
「司くん?」
隣に来ないオレを、振り返って確認してきた。オレはすぐに類の隣へと向かった。
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そう言ってくれるお前が好き…
好き…