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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第70話:【言い訳】「ただの蓄光塗料ですね」〜白日の下のスノーゴーレムと、二段構えの現実逃避〜
前回の深夜の「光る雪だるま」騒動から一夜明けた、限界集落の朝。
北海道の冬の太陽が、真っ白な雪原を眩しく照らし出している。
シロの『適温25度の絶対防壁』に守られた縁側で、俺は淹れたてのほうじ茶を啜り、小春ちゃんは朝食のトーストをかじりながら、庭の惨状……いや、異常事態を無言で見つめていた。
「……お兄さん。あれ、どう見てもおかしいですよね」
「……ああ。俺の知る限り、物理法則に真っ向から喧嘩を売っているな」
ジンバルにセットされたスマホの向こう側で、朝から集まった250万人のリスナーたちも、完全に沈黙したのち、一斉に草(www)を生やし始めていた。
庭の中央に佇む、俺たちが昨日作った高さ1.5メートルの雪だるま。
昨夜の深夜配信の際、俺はこいつが真珠色に発光している現象を『雪に混ざった発光バクテリアの化学反応』と断言した。
夜の暗闇の中でぼんやり光るウミホタルのような現象だ、と。
だが。
現在、時刻は午前九時。雲一つない十勝晴れの、強烈な直射日光が降り注ぐ白日の下である。
それにも関わらず、その雪だるまは、太陽の光すらも霞ませるほどの凄まじい『真珠色の輝き』を自ら放ち続けていた。
まるで、庭に二つ目の太陽が降臨したかのような、圧倒的な光量。
さらに異常なのは、その光が持つ「力」だった。
『……キュゥ』
雪だるまの足元では、キタキツネのコン吉とコン次郎が、発光する雪にスリスリと体をこすりつけて「あったか〜い」と溶けている。
光る雪だるまの半径3メートルだけ雪が完全に溶け、あろうことか、春の訪れを告げる『ふきのとう』までがフライングで芽を出していたのだ。
『おい主www』
『昨日の「発光バクテリア」説はどうしたwww』
『太陽より眩しいバクテリアがいるか!!』
『雪だるまが熱源(ヒーター)になってんぞww』
『真冬にふきのとう生えてるじゃねえか!! 生命力どうなってんだ!!』
『完全にシロ様の神聖オーラが定着した「聖なるゴーレム」だろww』
『言い訳のお時間です』
チャット欄は、俺の限界言い訳タイムを今か今かと待ち構える、悪魔のような共犯者たちで埋め尽くされている。
「お兄さん……どうするんですか、これ。さすがに微生物学じゃ誤魔化しきれませんよ」
小春ちゃんが、ジト目で俺を睨んでくる。
だが、俺は元ブラック企業で数々の理不尽なクレームを処理してきた、鋼のメンタルを持つ元社畜だ。
これくらいの矛盾、平然と顔色ひとつ変えずに乗り切ってみせる。
俺は咳払いを一つし、カメラのレンズを真っ直ぐに見つめた。
「……世界中の皆さま。どうやら、昨夜の私の見解には誤りがあったようです。訂正してお詫び申し上げます」
『誤りを認めた!?』
『主が謝ったぞ!? 明日は雪だな(もう降ってる)』
『ついにシロ様の奇跡を認める気になったか!』
「あれはバクテリアではありませんでした」
俺は、完璧なフラットボイスで、淀みなく言い放った。
「私が以前、趣味のDIYで使用した『超高輝度・長残光型蓄光塗料(アルミン酸ストロンチウム系)』の粉末が、バケツの底に残っていたのです。頭部パーツのバランスを整える際、あのバケツを使って雪を内側へと押し固めたため、その芯に粉末が混入し、強烈な太陽光を吸収して異常発光しているだけです。ええ、ただの『蓄光塗料』ですね」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、手に持っていたトーストを振り回しながら絶叫した。
「形を整えただけで、あんな電球みたいに光るわけないでしょ!! そもそも蓄光塗料って『暗闇』で光るものですよね!? 昼間の太陽の下で自ら大発光する塗料がどこにあるんですか!!」
『小春ちゃんの正論パンチ・モーニングセットww』
『アルミン酸ストロンチウム(神のオーラ)』
『昼間から自己主張の激しい蓄光塗料ww』
『適応力バグおじさん、ついに無機化学にまで喧嘩を売り始める』
「それに!」と、小春ちゃんは雪だるまの足元をビシッと指差した。
「雪が溶けてフキノトウが生えてるのはどう説明するんですか!! 蓄光塗料って、植物の成長を促進する熱源になるんですか!?」
「ふっ、甘いな小春ちゃん」
俺はほうじ茶を一口啜り、余裕の笑みを浮かべた。
「蓄光塗料が発光する際、ごくわずかな『熱エネルギー』が放出されます。それが雪だるま内部のパウダースノーと乱反射を繰り返し、局所的な温室効果(マイクロ・グリーンハウス)を生み出したのです。ええ、ただの熱力学と農業のビニールハウスと同じ原理ですね」
「だから、あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんのツッコミが、冬の限界集落に響き渡る。
「温室効果で真冬の地面から植物が生えてくるわけないでしょ!! どう見たってシロちゃんの生命力オーラが雪だるまから漏れ出してるんでしょうが!! おとなしく奇跡を認めなさいよ!!」
『温室効果(強制的な季節の進行)』
『マイクロ・グリーンハウス(神域)』
『言い訳の語彙力が無駄に高すぎるww』
『主、息を吐くように物理法則を歪める男』
俺と小春ちゃんの完璧な漫才(?)に、チャット欄は朝から大爆笑の渦に包まれていた。
だが、奇跡はこれだけでは終わらない。
『ミャウ』
縁側で俺たちの言い争いを聞いていたシロが、トコトコと庭に降り立ち、その光り輝く雪だるまの頭の上へと、ヒョイッと飛び乗ったのだ。
シロが器用に『足裏とお腹の結界熱だけを完全オフ』にして、バケツの帽子の横で誇らしげに香箱座りをする。
その瞬間。
ピカァァァァァァァッ!!
シロの体が雪だるまに触れたことで、真珠色だった発光が、突如として『ゲーミングカラー(七色)』へとグラデーションしながら輝き始めたのだ。
赤、青、緑、紫。
まるでライブハウスのレーザー照明のように、白昼の庭でド派手に光り輝く雪だるま。
「……えっ」
「……お兄さん、雪だるまがゲーミング仕様になっちゃいましたけど」
小春ちゃんが、呆れたように俺を見る。
配信画面は、もはやお祭り騒ぎだった。
『うおおおおおおお!! ゲーミング雪だるまwwwww』
『七色に光り始めたぞ!!』
『シロ様が乗った瞬間に色が変わるとか、完全にリンクしてるじゃねえか!!』
『蓄光塗料で七色に変わる説明してみろよおっさんww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master! I will buy the patent for that miraculous paint! Name your price! 10 million dollars!?“(主よ! その奇跡の塗料の特許を買う! 値段を言え! 1000万ドルか!?)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$500MeTubeギフト)=”Oh my God! I want to paint my next red carpet dress with that glowing snow!“(なんてこと! 次のレッドカーペットのドレスを、その光る雪で塗りたいわ!)』
世界中のVIPたちが、俺の苦し紛れの「蓄光塗料」という言い訳を真に受け(あるいは面白がって)、特許や塗料の買い取り交渉を仕掛けてくる。
「……石油王さん、シャーロットさん。これはホームセンターで買った市販品なので、特許も何もありません。それに、服に塗ったら静電気で火傷しますよ」
俺は額の汗を拭いながら、さらに限界を突破した言い訳を続けた。
「……皆さま、七色に光っているのは、シロの毛皮の静電気が、塗料のレアアース成分に干渉し、プラズマ発光を引き起こしているからです。ええ、ただの電磁気学的なスパークですね」
「もう無理がありますってばぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、たまらず崩れ落ちた。
「プラズマ発光で七色に光る雪だるまとか、完全にSF兵器じゃないですか!! もう、お兄さんの言い訳、全然可愛くないです!!」
『小春ちゃんが折れたwwww』
『SF兵器(雪だるま)』
『電磁気学的なスパーク(ゲーミング発光)』
『主の言い訳、ついに小春ちゃんのキャパシティを超える』
俺の意地でも奇跡を認めない『二段構えの現実逃避』は、250万人のリスナーたちに極上の朝のエンタメを提供した。
雪だるまの上では、シロが『ミャウ(私の力、すごいでしょ?)』と得意げに喉を鳴らしている。
その足元では、コン吉とコン次郎がフキノトウをクンクンと嗅ぎ、上空ではシマエナガ部隊が今日も完璧な防空フォーメーションを敷いている。
北海道の厳しい冬はまだまだ続く。
だが、この限界集落の庭先では、神獣の奇跡と、俺の無駄に専門的な言い訳が織りなす「世界一バグった平和な日常」が、七色の光と共にポカポカと輝き続けるのだった。
コメント
1件
**はる。だわ。** 第70話、めっちゃ笑ったわw 「ただの蓄光塗料です」って白昼の七色発光を物理で捻じ伏せようとするお兄さんの執念が凄い。石油王に特許買いたいって言われるとか世界規模のバグだし、シロが乗った瞬間ゲーミング雪だるま化するの熱すぎる。小春ちゃんの「もう無理がありますってばぁぁぁ!!」で崩れ落ちるところ完全に草。この人の言い訳を聞くために生きてる気がするわ…。次の言い訳も楽しみにしてる🔥