テラーノベル
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親が再婚するらしい。
そう突然告げられたのは、今からちょうど二ヶ月前のことだった。
別に反対する理由なんてどこにもなかった。
早くに父親を亡くし、女手一つで俺を育ててくれた母さんが幸せそうに微笑んでいるなら
息子としてはそれだけで十分だ。
応援したいと心から思った。
ただ────
「……まさか同じ高校だなんて、一言も聞いてないんだけど」
春の生暖かい風が吹き抜ける玄関前で、俺は完全にフリーズしていた。
俺の名前は相川翔
この春から高校2年生になった。
中身はどこにでもいる平々凡々な男なのだが、唯一にして最大のコンプレックスがある。
それは、平均を大きく下回る「チビ」な身長だ。
新調したばかりの少しぶかぶかな制服に身を包みながら、俺はこれから始まる新しい生活に
期待よりも一抹の不安を抱いていた。
新しいクラス、新しい教室内。
それだけでお腹いっぱいなのに、まさか今日から、自分の家に“義理の弟”までできるなんて。
「翔ー? 直哉くん、もう来てるわよー!」
奥のリビングから母さんの弾んだ声が響き、俺は喉の奥で重いため息を吐き出した。
直後、カチャリと静かな音を立てて内開きの玄関扉が大きく開く。
「はじめまして、兄さん」
頭上から降ってきたのは
まだ変声期を終えたばかりのような、けれどどこか低く心地よく響く声だった。
俺は自然と、視線を大きく上に傾けることになる。
(……背、でっか)
それが、彼に対する率直な第一印象だった。
新高校1年生だというのに、身長は優に180センチをゆうに超えているだろう。
色素の薄い、白っぽく柔らかな髪。
彫刻のように整った顔立ちに、すっと通った鼻筋。
どこかのファッション雑誌から飛び出してきたかのような、抜群のモデルスタイル。
一言で言えば、嫌味なくらいのイケメンだった。
それなのに、そいつは形の良い唇を緩め、妙に人懐っこく柔らかい笑みを浮かべている。
「田口直哉です。今日からよろしくね、兄さん」
「……あ、うん。よろしく」
圧倒的なビジュアルの暴力を前に、俺は気圧されて一歩後退りした。
しかし、直哉はその距離を詰めるように、さらに一歩踏み込んでくる。
(近い。いや、普通に近くないか……!?)
まだ出会って数十秒の初対面だ。
それなのに、こいつの距離感のバグり方はどうなっているんだ。
パーソナルスペースという概念が抜け落ちているとしか思えない。
そこへ、ドタバタと足音を立てて母さんがやってきた。
「翔くんは高2でしょ? 直哉くんはまだ高1でこの学校のこともよく分からないんだから、お兄ちゃんとしてちゃんと面倒見てあげてね」
「いや、別にこいつもガキじゃ――」
「兄さん!」
「うおっ!?」
反論しようとした瞬間、視界がぐるりと回った。
気がつけば、がっしりとした大きな腕が俺の肩を抱きすくめるように引き寄せていた。
耳元で、直哉の規則正しい呼吸の音が聞こえる。
近い近い近い!!
鼻先が触れそうな距離に、男の、それもやたらと良い匂いがする直哉の顔があった。
「さっそく、学校案内してほしいな~!」
「顔近ぇって!離れろ!」
条件反射で胸元を思いきり押し返すと、直哉は少しだけ意外そうに丸い目をパチくりとさせた。
だが、次の瞬間には、くすくすと楽しそうに喉を鳴らして笑う。
「ふふっ、兄さん、面白いね」
「……は?」
なんなんだ、こいつ。
新生活の初日から、俺の平穏なペースは木っ端微塵に乱されまくっていた。
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