コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
鬼龍院からもお母さまからも、離れたここでなら、誰にも遠慮なく彼を思ってぼんやりできる
はやくアパートメントへ帰って、毎日の日課の日記を書き、成宮北斗のことをあれこれ空想して楽しみたい
空想だけが今のアリスに許された楽しみだ。彼にキスをされてから日記の内容は彼のことばかり
ああ・・
今日の日記の書き出しが頭に浮かぶ
彼への気持ちはどう表現すればいいのかわからない
彼の手は大きくて力強く、その手で直に肌に触れてほしくてたまらなかった。彼の手のひらに乳房を押し付けたかった。彼の手のぬくもりをじかに乳首に感じたかった
あの時・・・・たしかに私の身体はそうしたいと叫んでいた
時と場所を考えれば、無理な事だとわかっていたので欲望をこらえた
あまりにも強い欲望で自分がどうにかなってしまいそうだった
なので恐ろしくなって、逃げるように彼のもとを離れたのだった
アリスは首を振って笑った
―これじゃセックスを試してみたいと思っている、フィジーと変わらないじゃないの―
時と場所が違えばそのようなことを、彼に頼めただろうか?
彼の手で・・・帯を外してほしい・・・
私にとって彼はみんなが噂するような、途方もない大金持ちの競走馬を育てている。変人の成宮北斗ではない・・・
私にとってあの人は・・・ただのあの人だわ・・・
燃えるような唇を持っている、とんでもなくセクシーな人・・・・
ひとたび口にしてしまえば、病みつきになる・・・
生まれて初めてアリスは男性と純粋に、身体を重ねる交わりを楽しみたいと思った・・・
彼を自分の体の中へ引き入れ、あのハンサムな顔の変化を眺めてみたい
昨晩の日記には、自分は頭がおかしくなったと書いた
気づけば毎晩成宮北斗と、したかもしれないみだらなことを想像している
彼の唇はとても柔らかくて、その舌はベルベットのようにしなやかだった
そしてキスをしている間中
彼が私の手をどのように握っていたかを思い出したら、あれはまるで愛撫の一つだったと言ってもいい
彼のセクシーさは女性の手を握るだけでも、簡単にすませられないようだった
親指を手首に滑らせ、手首の内側の敏感な部分を探り当てて、しなやかな指で手のひらの付け根を円を描くように撫でながら・・・
アリスの口の中の舌も同じように円を描く、そしてぐっと舌が入ってきたと同時に、互いの指を絡ませた
まるで私はもう彼のものであることを伝えるかのように、手を強く握られ・・・・
キスを通して二人の間に走ったきらめきを感じ取った
アリスはオレンジ色の空を眺め、そして大きくため息をついた
いくら彼を思って空想しても・・・・
彼みたいな人にはもう二度と会えないだろう。自分は一生このまま独身なのかもしれない
そうしたら、人生でたった一度のあの素晴らしいキスをこうして心に秘めながら生きていくのだろうか・・・
ここの生徒に音楽は教えてあげれても、男性の事は彼女達の方がよく知ってるようだ・・・
でもあの人との一瞬だったけど、あれほどの素晴らしいキスを体験したのは、自分の少ない男性経験の中でも誇れる事だ
その時西の回廊からピアノを弾く音が聞こえて来た
アリスの音楽室からだ
「?こんな時間に?誰かしら? 」
アリスは音楽室に向かって歩き出した
音楽室に近づくにつれ、このピアノ演奏者はとても手慣れていると思った
アリスはまるで音に引き寄せられるように段々足早になり。どうしても演奏者の顔を見たくなった
音楽室の窓がわずかに開いていて、そこからショパンの清らかな調べが流れてくる。アリスが換気のために開けておいたのだ
アリスは扉を少し開いて確認しようと、顔を覗かせた
演奏者は誰?
そしてその場にかたまった
信じられない
ピアノを弾いているのは成宮北斗だった