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お呪い と かいて おまじない と 読む 。
「 お 呪 い 」
森の奥には、昔からこう言い伝えられていた。
——“好きな相手に解けない関係を結びたければ、お呪いを使え”
それは祈りに近い儀式であり、同時に呪いでもあった。
願えば願うほど、相手は離れられなくなる。
ただし代償がある。
“本来の関係”は、二度と戻らない。
俺はその言い伝えを、半分遊びで信じていた。
「ねえ、prちゃん」
いつものように、袖をつかむ。
「お呪いってさ、本当にあるのかな」
prは本を閉じずに答える。
「あるわけないだろ。迷信だ」
「でもさ、もしあったら?」
「くだらない仮定だ」
そう言いながらも、ページをめくる手が少しだけ乱れていた。
その森には、小さな祠があった。
誰も使わなくなった祈りの場所。
そこに置かれた石板には、こう刻まれている。
——お呪いを施す者は、心の一番深い願いを差し出せ
「ねえ、prちゃん」
その夜、俺はいつもより静かだった。
「一回だけ、試してみない?」
「は?」
prは即座に眉をひそめる。
「何をだ」
「お呪い」
「ふざけるな」
即答だった。
でも俺は笑っている。
「俺さ、prちゃんがいなくなるの、嫌なんだよね」
その一言で、空気が変わる。
prは一瞬だけ黙る。
「……お前は、いつもそうだな」
「そうって?」
「勝手に重いことを言う」
でも、その言葉はいつもより弱かった。
結局、二人は祠の前に立っていた。
やるつもりなんてなかったはずなのに、足はそこにあった。
「本当にやる気か」
prの声は低い。
「やらないなら、ここに来てないよ」
俺は石板に触れる。
冷たい。
でも、不思議と安心する冷たさだった。
「お呪いの手順は簡単だよ」
俺は小さく笑う。
「願いを言って、相手に触れるだけ」
「そんなもので何が——」
言いかけて、prは止まる。
俺は、まっすぐ見ていた。
逃げ道のない目だった。
「prちゃん」
呼び方が、やけに柔らかい。
「俺ね」
一拍置く。
「ずっと一緒にいたい」
その言葉は、祈りだった。
でも同時に、縛りでもあった。
prは息を吐く。
「……くだらない」
そう言いながら、手を伸ばす。
触れた瞬間。
石板が、かすかに光った。
風が止まる。
森が静かになる。
何も起きていないようで、何かが確実に変わった。
帰り道。
俺はいつも通りに歩いている。
「ねえprちゃん」
「なんだ」
「なんかさ、安心するね」
「何がだ」
「わかんないけど」
prは違和感に気づいていた。
距離が、消えている。
物理的なものではない。
もっと深いところの“距離”。
離れようとすると、なぜか足が止まる。
見えない糸のようなものが、どこかに引っかかる。
「……やったのか」
prの声は少し低い。
俺は振り向いて笑う。
「うん」
「お前、何を願った」
俺は少しだけ考えてから言う。
「秘密」
その瞬間だった。
胸の奥が、妙に熱くなる。
それは怒りでもなく、恐怖でもなく。
もっと厄介なものだった。
“離れたくない”という感情が、勝手に強くなる。
prは気づく。
これは呪いだ。
でも同時に——
自分の中に最初からあったものでもある。
「prちゃん」
俺がもう一度呼ぶ。
今度は、少しだけ近い距離で。
「ずっと一緒にいようね」
prは返事をしない。
できない。
ただ一つだけ確かなのは、
もうこの関係は、選んだものではないということ。
けれど不思議と、拒絶したいとは思えなかった。
森の奥では、祠がまだ光っている。
願いは叶う。
ただしそれは、優しい形ではない。
そして二人は知る。
お呪いとは——
願いを叶える代わりに、自由を少しずつ奪うものだということを。