テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
31
#魔道具職人
こはる
357
bouton
896
「こんなに食べて大丈夫なんですか?」
「問題ないのニャ。どうせ明日インガンダ・ルマを食べたら、全部出るのニャ」
だから出るとかいう話は、女子から聞くとどうにも……
というのはともかくとして。
ミーニャさんも、そしてアライアさんも、とんでもない量を食べている。
2人とも、お腹周りの体型が明らかに変わっているのがわかるくらいに。
「ただ流石に、もう動くのが辛いのニャ。取りに行くのは諦めるのニャ。しばし消化吸収に全力を出すのニャ」
そう言ってミーニャさんは、椅子の背もたれに思い切り寄りかかった状態で目を閉じる。
「同意。我ながら頑張った。自分で自分を褒めたい」
アライアさんも同様に、目を閉じて動かなくなった。
いやアライアさん、自分の食べ過ぎを褒めるのはおかしいだろう!
口には出さないけれど、心の中では思い切り突っ込みを入れた後、
ため息をついてから、ジョンに相談してみる。
「どうするジョン、2人とも動けない様だけれど」
「どこのテーブルも似たような感じだしさ。放置しても問題ないんじゃないか」
確かに他のテーブルの猫獸人さん達も、椅子にもたれかかって動けない状態の様子だ。
テーブルに突っ伏すのではなく、背もたれにもたれているのは、胃袋に詰め込みすぎて前屈みになれないからだろう。
「横になると逆流するから、椅子に座るのが正しいのニャ。これはこれで意識が遠のく感じで気持ちいいのニャ。こうやってしばらくすれば、またお腹が空くのニャ。そうしたらまた食べるのニャ。これが前夜祭の正しい過ごし方ニャ」
何というか、惨憺たる状態に見える。
しかしホウトン村的には、前夜祭はこういう状態で過ごすのが正しいらしい。
わかった。そういう異文化だと思うことにしよう。
理解しようとしてもきっと無駄だ。異文化なのだから。
ということで……
「それじゃ、俺とジョンは先に帰っていますから」
借りた家に戻ることにする。
実際、俺やジョンだって、限界近く食べているのだ。
それに今日も、それなりに動いている。
気がつくと結構疲れていたりするのだ。
「もっとここで粘って、食べまくればいいと思うのニャ」
「いや、十分食べましたから」
ということで家へと向かって、二階へ上がって。
「それじゃ、また明日」
ジョンと別れて、そしてベッドに倒れ込む。
◇◇◇
目が覚める。
目を開けて窓の外を見ると、空が白みかけていた。
ドーソンの家にいたら、舌平目拾いに出るくらいの時間だろうか。
何となく、家の中の魔力を確認する。
ジョンは自室にいるし、アライアさんも自室にいる。
かなり食べていた様だけれど、無事に戻ってこれた模様だ。
しかしミーニャさんの魔力は、この家の中では感じない。
ということは、まだ集会所前の広場のテーブルにいるのだろうか。
この季節の気温は、早朝に外にいても肌寒さは感じないというか、むしろ快適なくらい。
風邪をひく心配はないけれど、それでも大丈夫か気になる。
様子を見に行った方がいいかもしれない。
ミーニャさんなら問題ないとは思うけれど、俺の常識的には。
昨日は出歩いたままの服装で倒れるように寝てしまったので、シャツもズボンも乱れた状態だ。
しかし前世では、着替えないまま徹夜作業をして、翌日は通常勤務なんてのはよくあること。
身体洗浄魔法と衣服洗浄・乾燥・皺取り魔法ですっきりだ。
家を出て、祭りの会場である広場へ。
俺やジョンが去ったころと比べると、更に酷い状態だ。
椅子にぐったりともたれかかって、口を半開きにした状態で動かない者多数。
うつろな目で、それでも更に何かを食べている者少数。
それでも汚れた皿やゴミ、更には食べすぎて吐いただろう痕跡なんてのは残っていない。
魔法で見ればわかるが、そういうものが無かったわけではない。
きれいに掃除されて、跡形も残っていないのだ。
おそらく優秀なスタッフが裏で動いているのだろう。
なんて思いながら、昨日と同じテーブルでぐったりしているミーニャさんに声をかける。
「ミーニャさん、おはようございます。大丈夫ですか?」
「いい、ところに、来た、の、ニャ」
大丈夫じゃない!
「治療魔法を使える人のところに、連れて行きましょうか?」
「大丈夫、なの、ニャ。思い切り、食べて、息を、思い切り、吸い込み、にくい、だけ、なの、ニャ」
食べ過ぎて、身体に目一杯食べたものが詰まり、呼吸だの会話だのも困難な状態の模様。
そこまで人は、食べることが出来るのだろうか。
本で読んだら信じられないようなことでも、実際に目の前で見たら認めざるを得ない。
というのはまあ、置いておいて……
ミーニャさん、かなりよれよれ状態だ。
服も、髪も、顔も。
おそらく徹夜で、食べて休んでを繰り返し続けたのだろう。
「そろそろ、寝ないと、本番、が、辛いのニャ。ニャので、お願い、ニャ。部屋の、ベッドに、運んで、ほしい、ニャ。あの、収納で、出来ると、思うの、ニャ」
確かにこれは、一度家に戻って寝たほうがいい。
俺の魔法収納を使えば、問題なく運べるし。
「わかりました。家の部屋まで運びます」
「頼む、ニャ」
人間が入れる方の魔法収納にミーニャさんを入れて、家へ。
帰る前に、ざっと周囲を見てみたが、やっぱり酷い。
知っている中では、ホーニャさんがヘイニャさんと同じテーブルで、さっきまでのミーニャさんと同様に椅子にもたれかかって動けなくなっていた。
あの目の毒で脇が甘いぶかぶかTシャツと、角度を変えれば危険なショートパンツは、更によれよれになっていて隙間拡大中。
じっくり見ない方がいい。
ヘイニャさんも似たような状態だ。
服は少しはましだけれど。
なおヘイニャさんが連れてきた男性は、見当たらない。
借りた家に帰ったのだろうか。
この件で別れて、ハートマークが増えるようなことにはならないだろうか。
あと村長のはずのウーニャさんも、やっぱり食い倒れていた。
倒れていないのは、料理担当のターニャさんくらい。
ムーニャさんはいないけれど、家に帰ったのだろうか。
なお食い倒れているのは猫獸人さん、それも女性ばかりの模様。
他の種族も、男性も見当たらない。
なおピンク色の腕章をつけた普人女性が5人、こちらは行き倒れずに椅子に座ったり巡回したりしている。
状況から見るに、この人達が片付けだの掃除だのをしてくれているのだろう。
冒険者ギルドあたりから依頼を受けて。
なんてのを確認しつつ、家に到着。
2階に上がって、ミーニャさんの部屋の扉を開けて、そして俺は不用心に開けたことを後悔する。
服が思い切り脱ぎっぱなしで床に転がっている。
特にベッドの横に落ちているあれ、間違いなく脱いだ下の方の下着だ。
しかし今のミーニャさんの状態を考えると、入らないという選択肢はない。
なのでその辺は努めて見ないようにして、ベッド横へ。
掛け布団をめくり、そして収納からミーニャさんを寝た姿勢で出す。
「ありが、とニャ。あと服が、きつい、の、ニャ。脱がして、欲しい、ニャ」
流石にそれはアウトだ。
ちょっとだけ惜しい気もするけれど、誘惑に屈してはいけない。
「脱ぐのは自分でやってください」
「うー、了解、ニャ」
「それじゃ、何もなければ、10時のお祭り開始に間に合うように起こします」
「わかった、ニャ」
ということで、俺は極力何も見ないようにドアに向かい、廊下に出て、そして扉を閉めた。
少しもやもやするから、外を歩いてこよう。
そう思いつつ、階下へと向かう。
コメント
1件
いやあ、今回もすごい光景でしたね…「食い倒れ」という名の異文化、めちゃくちゃ生々しかったです。特に「呼吸がしにくい」レベルの満腹状態をリアルに描くあたり、世界観の説得力が半端ない。ミーニャさんの頼みをスルーする主人公の理性、ちょっとホッとしつつも「惜しい」って思ったのは内緒です(笑)。ピンク腕章の片付け部隊とか、この村の運営の裏側がちらっと見えるのも好きです。