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かんな
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なんとかこの場を繋ごうと、柊吾は居間をぐるりと見回した。
シンプルで余計な物のない部屋。ふと、前々から引っかかっていた素朴な疑問が頭をかすめた。
「あの……黒瀬さんって、どうしてこの部屋を選んだんですか?」
「え?」
「あ、いや……ここ、僕たちの部屋と同じで2DKですよね? 一人で住むには、少し広すぎないのかなって……思って」
逃げるように口走った質問だった。けれど、言い終えた瞬間、瑞樹の雰囲気がわずかに変わった気がした。
眼鏡の奥の切れ長な瞳が、ほんの少し遠くを見つめるように揺れる。
瑞樹は持っていた湯呑みを静かにローテーブルへ置くと、低く、どこか静けさを孕んだ声で呟いた。
「……探していたんです」
「え……?」
「大切な人を、探していたんです。ずっと……。ある日突然、何も言わずに消えてしまって……。それで、心配であちこち探し回って、色々な人に聞き込みをしたり、情報を集めたりして、この町にたどり着いたんです」
「そう、だったんですか……」
そんなに熱心に探し回るほど大切な人——。恋人か何かだろうか? それとも、兄弟?
ふと、柊吾の脳裏に突然出演が途絶えたあのAV男優の姿が浮かんだ。瑞樹の真剣な告白に対して不謹慎極まりない連想をしてしまった自分にパニックになり、柊吾は慌ててぶんぶんと首を振った。
(いやいやいや! いくら顔が似てるからって! あの動画の人が消えた時期と、探してる時期が被ってる気がするからって! そんな漫画みたいな偶然あるわけないだろ僕のバカ!!)
「……柊吾さん? どうかしましたか?」
突如として一人で頭を振り始めた柊吾を、瑞樹が不思議そうに覗き込んでくる。
「っ、なんでもないです!! 虫が!! 今、目の前を小さな虫が飛んでて!!」
「虫……ですか?」
「は、はい! そ、それで……その、大切な人は……見つかったんですか?」
これ以上墓穴を掘らないよう、必死に話題を元に戻す。
『大切な人』が誰なのか、恋人なのか、家族なのかすら分からない。けれど、その存在のためにわざわざこの町までやって来て、この部屋を用意し、今も待ち続けているという事実が、重く柊吾の心にのしかかった。
瑞樹は一瞬だけ切ないような、それでいてどこか恐ろしいほど愛おしそうな笑みを浮かべ、柊吾を真っ直ぐに見つめた。
「ええ。……すぐ近くに、いましたよ」
「……っ、そう、だったんですね。あ、じゃあもうすぐここに引っ越してくるんですか?」
「いえ。傍で見守っていられたら、それで充分なので」
感情の読めない笑顔でにっこりと笑いながらそう言う彼の言葉に、妙な引っかかりを覚える。
近くで見守りたいだけ。だったらこの近くにある単身用マンションでもよかったはずだ。セキュリティ的にも防音性、気密性、どれをとってもこのボロアパートよりいい気がするのに。
(答えになってない……し、何より条件が矛盾してないか……?)
介護士としてしっかり働いていて収入も安定しているはずの男が、わざわざ防音性も気密性も最悪な古い木造アパートの2DKを選び、わざわざ隣に住み、ただ「近くで見守る」だけで満足している。
(単身用のマンションなら、もっとセキュリティも防音もしっかりしてるのに……なんでわざわざ僕の隣の、この狭くてボロい部屋なんだ……?)
思考を巡らせれば巡らせるほど、目の前に座る男の優しげな笑みの裏にあるものが読めなくなり、背筋にツッと冷たい汗が伝った。
コメント
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うわ、この回、めっちゃ不気味で好きです……。「大切な人を探していた」って告白の後に、すぐ近くにいるって微笑まれるの、ゾワッとしました。しかもわざわざ柊吾の隣のボロアパート選んでる時点で、もう答え出てる気がするんですけど! 柊吾が頭の中でAV男優と紐づけてパニックになるシーン、笑ったけど逆にその線が濃厚になってきて怖いです。設定の矛盾を柊吾自身が気づき始めてるのも、じわじわ来ますね。続きが気になる……!