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━━━かすみさんは、俺にとってはかけがえのない光だった。足元だけじゃなく、その先をも照らしてくれる綺麗で目が潰れるほど眩い光。かすみさんだけが頼りで、希望だった。そのはずだった。
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2年前のある夜、街頭もほとんど無く人の気配も物音も一切しない町外れの田舎を歩いていた。理由は単純で泊まる家も泊めてくれる人もいないし、なによりひたすらヤツから逃れたくて逃亡していたからだ。狭く人っ子一人いない田舎のすぐ隣はだだっ広い樹海で覆われていた。いや、樹海の中にこの幻のようなまるで先程まで人が住んでいたような空気を漂わせる『空間』があると言った方が正しいのかもしれない。
「…ったく、こんなことなら飯だけ食って逃げればよかった…。あともう少し負のエネルギーがあれば今からでも飛んでこんな場所抜けていたのに…はぁ、歩いてでも抜け出すか。」
右肩に抱えていたエネルギーが残り少し重たくなったバールをブンブンと空振りしながら言う。
「おや、その必要はありませんよ。」
吐き捨てるようにダラダラと1人で愚痴を吐いていると後ろから聞き馴染みのある、不思議な雰囲気を持つ声に話しかけられた。
「……かすみぃ…」
左手に絵画を持ち、右手を腰に当ていかにも怒った教師のような佇まいのかすみが立っていた。かすみは深い溜息をつき、頭を掻きながら少し苛立たしそうに答える。
「さんをつけてください、ヴァールさん。何度注意されればその態度直るんですか?いつまで経ってもそんなかんじだから外に出られないし、俺にも説教されるんですよ。自覚あります?」
言葉を連ねるにつれ少しづつ怒りが湧き出て声が大きくなっていることに気づいた。それでも怯まず、むしろこちらまでイライラしてきたので抑えたものの強めに返答する。
「はっ、そーだな。でも俺はあんた従う気はねぇよ。なにが悲しくてあんなところでこき使われなきゃならんのか。頼むからひとりにしてくれ。」
そういうとかすみは先程より少し表情を和らげ、お気持ちお察ししますと言いながらこちらへゆっくりと近づいてくる。しかしいつもと足音の大きさも音も、歩き方も違う気がした。
「でも、ここから逃げてもヴァールさんは絶対に見つかりますし必ずあの施設に戻されます。想像の何百倍も酷い仕置を食らって心が壊れても、あの人たちなら死ぬまで追い詰めるでしょうね。」
なにか様子がおかしい。ニヤニヤとこちらを直視しながら距離を縮められる。どうしてかはわからないが、あの目に睨まれると視線が離せず動けなくなり抵抗しづらくなってしまう。心理的な問題か、それともなにか能力なのかは未だにはっきりしていないが、ただ一つ分かるのはこのかすみはこちらの考え全てを読み取っているのだ。証拠は無いが本能がそう悟っているため、露骨に手を出すことが出来ないのが難点だ。
「…俺を見るな、俺に寄るな!この化け物!」
「酷いですねぇ人を化け物呼ばわりなんて…。まぁいいです、貴方さえ帰せば俺の仕事は終わりなので。あぁ可哀想なヴァールさん…さぁ、あそこに帰りましょう。どんな悲鳴が聞けるのか楽しみで……」
頬に手を伸ばされ触れられると思った瞬間、かすみのズボンのポケットに入っていたスマホがピリリっと大きな着信音を響かせる。ちっと舌打ちをして苛立たしそうに右手をポケットに突っ込み着信に応答する。
「はい、なんでしょう…。あぁそのことなら俺がやっときましたよ、はい……ヴァールさん?あー、早めに連れて戻りますんで…はい…はい、わかりました、では。」
変わらずイライラとしながら電話を切り、戻るぞとドスの効いた声で一言吐き捨てると先程歩いていた道を反対方面に進んでいく。無謀にも背中を見せながら。
見られていない今がチャンス…!
生まれ持った才能か気づけば身についていた才能かはわからない。得意技のひとつに物音を一切たてず相手を殺せる、悪役には相応しく羨ましがられるような技術を持っていた。そっと右肩に抱えていた古びたバールを構える。心の奥底に溜め込んでいた負のエネルギーを全開に注ぎ込みゆっくりとかすみに近づく。だいぶと離れた先程の距離から、少し手を伸ばせば首根っこを引っ捕まえれそうな所まで近づけた。
これでぶっ殺してやる。
そう思い常人であれば触れただけで死に至るほど強力なエネルギーを背負ったバールを上げ、脳天目掛けて勢いよく振りかぶった。
ガゴンと鈍い音が響く。しかしよく見るとバールが当たったのは頭ではなく、真っ黒に塗りつぶされた絵画であった。瞬時にこちらを振り返りガードしたのだ。
「……馬鹿ですねぇ。」
かすみはそう嘲笑うと左手に持った絵画でバールを受けつつ右手でこちらの首をガッと絞める。苦しく息もできないほど力強く大きい手を振りほどくなんてことはできず、お互い攻防戦が続き立ち往生していた。両手で持った強力な力を持つバールを離すことなんて許されずもうここで死ぬかもしれないと一瞬考えがよぎる。
そんなことお構い無しにかすみはだんだん力を強めてくる。目が飛び出そうになり涙が止まらず今にも吐きそうだ。苦しい、痛い、今にも叫びたい気持ちを怒りに変えバールに念を込める。
「無駄ですよ。こんな状況で貴方が勝てるわけないじゃないですか。本っ当に変わらない馬鹿だ。」
「……っバカはどっちかな?」
声を振り絞りそういうと何かを察したのか、さっきまで暗く笑っていた目を開き首を絞める手を離し後ろへ下がろうとする。が、こちらの攻撃が1歩早くかすみが手に持っていた絵画がバリッと鈍い音を立てて割れ落ちた。しかし非常に強い力を持ったバールは止まらずそのまま左腕に勢いよく当たると、骨が砕けボタッと手と地面に落ちる。げほげほと突然酸素が入りむせていると、かすみの顔が真っ青になり耳をつんざくほど大きな叫び声をあげ尻もちをつきながら後ろへ下がっていく。
「あ゛…あぁ…お前、お前こんなことして許されると思っているのか!?なんたって俺の腕を…いっ……。絶対お前を殺してやる、どんな方法を使ってでもお前を殺してあの人に認めてもらう!あの人のお傍にいられるのは俺だけで……」
「…っうるせぇよ…!」
怒りを込めながら片手で思い切りバールを振ると、先程まで散々怒鳴り散らかしていた声がやみ首から上が体から切り離されべちゃっと畑の水際に転がっていった。反応なのか、瞬きを1度するとそのまま泥水の中へ落ち青い髪だけがふよふよと浮かぶ。左手と首を切り落とされた体はそのまま後ろへ倒れ反応で痙攣していた。ボタボタと切り口から垂れてきたのは血ではなく、黒い液体でありみるみる土へ吸収され薄黒くなっていく。
「ぐっ、咳が苦しい…。しかしやっぱり偽物だったか。突然話しかけられたし、絵画が壊れた時点で確実に怪しいと思ったんだ。今施設の方では実験が行われているし、そもそもあの人の能力で俺の居場所はすぐにはバレない。絵画もあの人の能力で破壊不能に作られてるし、なにより…」
「ヴァールさん!はぁっ、やっと見つけた…」
息切れと靴で地面をザリザリと擦る音と聞き馴染んだ声がし、そっと後ろを振り返る。
「あぁ、遅かったな『かすみさん』。もう雑魚処理終わっちまったよ。」
「そうですか、ヴァールさんにお怪我がなくてよかったです…ってか勝手に外に出ないでください!こんな夜遅くまで出るのも危ないですし、探すのいつも俺だし、俺の能力じゃわかってもすぐそこに駆けつけれないですよ…。」
悪いな、と頭を掻きながら返す。首を絞められたり死にそうになったりはしたが、なんとかかすみさんが巻き込まれる前に終わらせられて良かったと心から安心する。
かすみさん、貴方は本当に天才で本当に愚かな人だ。
自分が脱走した時は絶対にかすみさんだけが迎えに来る。集団で来ると逆にこちらの怒りを買ってしまうと考えた施設の勝手な思いつきだ。まぁ実際そうなんだけどね。
今日もまた無理とは分かっていながらも、心のどこかにある希望に縋りもう一度聞いてみる。
「…かすみさん、今日も少しだけいいか?」
「またですか?次こそ本当に怒られても知りませんよ。」
そう言いつつも付き合ってくれるかすみさんの優しさに安心と不安を感じる。死体処理は後でやっとくかと後回しにし、狭い田舎の道をゆっくりと歩きながら2人でお喋りしていく。話さなきゃと焦りを感じつつも中々いえなかったことを少しづつ口に出していく。
「…かすみさんってあの施設から出たいとか思わねぇの?」
そういうと顎に手を当てて少し考える素振りを見せる。
「そうですね外の世界を見てみたいとは思います。本や写真でしか見たことない『普通の生活』とか『家族』とかみてみたい…不思議ですよね、本当にそんなの存在するんですかね?」
あはは、と変なのというふうに笑うかすみさんをみてやはり出る気はないようだと改めて感じる。その度に胸がギュッと締め付けられるような感じがしてとても苦しい。出来ることならかすみさんと出たいと思うばかりだ。
「なぁ…出ようぜ、こんなところ。」
そういうとかすみさんは、目を開きこちらを見る。
「俺、かすみさんと2人で外に行きたいんだ。俺にはかすみさんしか信じられる人がいないし、かすみさんがいるからこそ俺も頑張って生きようと思うんだ。だから、今からでも2人で脱出しないか?」
「……。」
かすみさんが歩みを止め、下を向く。一、二歩進んだ辺りでこちらも止まり後ろを振り向くと、左手に持っていた絵画を両腕で口元を隠すように抱えていた。少しして恐る恐るこちらを見る。
あぁ、やはり……。
目を見てわかった。あそこから出たくない、外の世界が怖いという恐怖と、外の世界が気になるという好奇心が入り交じった目だ。
「ごめんなさい…。」
「…知ってた。」
いつもの事だ。この人は脱走する気もあの施設を離れる気もない。最低限の部屋があり、最低限の食事もあり、最低限の会話もできる。しかも今の自分たちの立場的に出来ることしたいことは許可も要らずできるため、何不自由なく過ごせている。しかし今日こそは本音を聞いてやると言葉強めに攻める。
「なぁかすみさん、頼むよ。もうこれで何回目のお願いかは忘れたが俺は絶対にかすみさんと出たい。出て2人で気ままに過ごしていきたい。かすみさんの思う『普通の生活』には程遠いかもしれないけど、少なくともあの場所よりはきっとマシだ。本当にお願いだ!」
突然大声を出してしまいビクッとかすみさんの肩が震える。そのまま1歩後退り、再度下を向いたまま目を合わせなくなった。しばらくして歩み寄り力が入り下がらなくなった肩に優しく両手をかけ、もう一度聞く。
「…かすみさん、貴方の本音を聞かせてくれ。お願いだ。俺はどうしても…」
そこまで言うとグッとこちらを突き飛ばし二、三歩距離をとる。突然突き飛ばされた衝撃と困惑で固まり声をかけようとするとかすみさんの手にぽたぽたと涙が落ちるのが見えた。
「すみません、ちょっと1人にしてください。」
そういうと待ってという声も届かずどこかに走り去っていってしまい、真っ暗な闇の中その姿はすぐに見えなくなってしまった。
やりすぎた…。
とっくに深夜になってしまった星空の下、その場にしゃがみ1人反省会を開く。こんな事は今まで無く、いつも笑って誤魔化していたかすみさんに酷く拒絶されたことに思っているよりショックを受け目がうるうるするのを感じた。
かすみさんといたいだけなのに、どうしてこうも距離を置かれるのか。元はと言えばあの人がずっと外の世界が気になると話していたから、わざわざこちらも長い間策を練っていたというのに。
やはりかすみさんはあの施設に毒されている、洗脳されている。だったら俺が元のかすみさんに戻してやらないと…。
そう思い少量ながら残ったエネルギーを集中させ目を瞑り施設への方角を定めると、地面に蹴り跡が残るほど勢いよく飛び出した。樹海というのは、1度入り込むと通常の人間ではほぼ確実に出られない程生い茂った大森林。それがここでは計り知れないほどの広範囲に広がっているため迷えば確実に死ぬ。体が覚えているのか勘が鋭いのかはわからないが、あの施設を脱走してから一度もたどり着けなかったことはなかった。
数分も走っていると不自然なほど白く、見上げると首が痛くなるほど高い壁が建っている。門番に説明すればすぐに通してもらえるが、あまり人と話したくないため裏から回りなんとかエネルギーが足りてジャンプで乗り越えれたのが幸運だった。壁の中に入ると3棟の大きな建物のうち、いちばん大きな真ん中の扉に入る。
目を抑えたくなるほど明るい室内によろめいていると、少し先のちょうど中央の階段から人が歩いてくるのが見えた。
「やっと帰ってきたかヴァール君、もうお夕飯はなくなったよ。カレーだったのに残念だね。それよりひとりで戻ってくるとは、ヴァール君も成長したのかね?おっと、かすみ君はどうした?大事な同僚を捨ててきたのかい?あぁ、それともなにか怒らせるようなことを言ったのかね?」
「うるせぇよ。てめぇ…佐藤には関係ねぇ。」
喋りながら目の前に立つ佐藤をぐっと押し避け、階段を上る。その後ろから無言でついてくる佐藤に鬱陶しさを感じながら自分の部屋へ戻るため早足で歩く。
こんなヤツ気にせず、さっさと戻ってさっさと風呂に入って何も考えずに寝よう。
そう思っていると、またボソボソと話しかけてくる。
「そんな急がなくてもいいだろう?かすみ君を泣かせたぐらいでそこまで気にするようじゃ、今後やってけないぞ?もうすぐここから居なくなるというのに、あまりにも悲しいお別れだな。」
その言葉と同時に、時間が止まったように静かになる。いや、頭が真っ白になり一瞬音が聞こえなくなったという方が正しいだろうか。その一瞬が1分にも一日にも長く感じた。
かすみさんが、いなくなる?
どういう事だと理解出来ず振り返ると、佐藤が少しシワのある顔でメガネをあげながらニコッと笑う。しかし目は全く笑っておらずいつもの様に深淵のような暗く深い光を吸い込むような瞳でこちらをじっとみつめている。
漠然とした恐怖とかすみさんがいなくなってしまうという突然の報告で、胸が苦しくなり冷たい床に座り込むと佐藤は続けざまに言う。
「そうだ、君には話していなかったかな?明日にある数年に1度しか行われない特別な実験、完璧な人体生成実験がある。その実験はあまりにも危険で死者が出ることだってある。もちろんかすみ君を含む皆は参加する、君を抜いてね。」
そう聞くと余計に意味がわからなくなり過呼吸が酷くなってくる。目の前がぼやける。鼻水と涙が止まらず止めようにもそこまでの余裕はなく顔を両手でおさえ引っ掻くように力を入れる。
なんでなんで、今更そんなこと言われても…
「わかるわけないだろ、と言いたいのかな?」
驚きくしゃくしゃになった顔を勢いよく上げる。顎を掴まれぐっと老けた顔が迫ってくると、またニコニコしながら話始める。
「かすみ君から、君は参加させないで欲しいとお願いされたんだよ。なにか知られたくないことがあるらしくてね。」
「どう、して…。あの人は、あの人は俺を…俺を助けてくれて…お、恩人で…俺はあの人しか…。」
ぱっと手を離され重くなった頭ががくっと落ちる。力無く垂れる腕は動かず、足は感覚が無くなったようにピクリともしない。頭の中はかすみさんの事でいっぱいだった。
いつか一緒に外へ出て普通の生活をしようと2人で言った時、俺しか信じれる人はいないと伝えてくれた時、楽しくご飯を食べて遊んでよく喧嘩してそれでもお互い助け合って…。なにがかすみさんをそうさせ、どう動かしたのか全く検討もつかなかった。ただただ今は苦しくて怖くて吐きそうで仕方がなかった。しかし、これだけは聞いておきたい。
「…かすみさ、んは…何を隠している…教えてくれ…」
重たい頭をなんとか上げ、光の無い目でこちらを見下ろしている佐藤に聞く。ふっと鼻で笑い面白いといいながらしゃがむとゆっくり、簡潔に話し始めた。
「そうだねぇ。最近新しく入ってきた子がいてね、その子とかすみ君はかなり仲良くなっていたよ。あのほとんど心を開かないかすみ君が珍しいと思ってね、聞いてみたんだ。そしたらかすみ君は少し迷いながらも言った。」
『この人なら、俺のやりたいことも一緒に成し遂げてくれると思うんです。だから、俺はこの人を信じる。この人と出ます。』
「…ってね。」
全く意味がわからなかった。新しく入ってきた子というのはきっと実験体の事だろう。しかしそんな使い捨てのゴミが、かすみさんを信用して…いや、奪った?かすみさんを洗脳して俺を悪者と見立て自分を善だと思い込むように操った?
考えれば考えるほど馬鹿な妄想になっていくのは自分でもわかっていた。しかし、佐藤の表情からは嘘を言っている雰囲気はなかった。もしその話が本当だとして、自分はどうするのか、かすみさんとはどうなるのか。
だんだんと怒りが込み上げてきた。今まで見捨てられた、かすみさんが消えてしまう、そういった不安や悲しみが熱湯のように泡を吹き始め顔が赤くなるほどイライラしていた。
ずっとずっとかすみさんの夢でもあった外に出たいという気持ちを信じて、一生懸命かすみさんに張り付いてやっと信頼を掴んで、いざ2人で逃げようって時にこれ?
「ふざけんなよ!!俺があんなゴミ共に負けるわけないだろ!なんの為にアイツの信用を買ったと思ってるんだ?裏切った…そう裏切ったんだよ!俺を騙して踏み台にして、それであんなゴミと軽々しく外に出ようと…?ははっ、冗談キツイぜ…。」
もはや悲しい、苦しいという感情など一切なかった。あるのは1つ、自分を裏切ったかすみさんに復讐してやるという思いだけ。
殺してやるだけじゃ済まない。なにか強く恐ろしい、二度と離れないトラウマを植え付けるほどの思いをさせてやりたいと。
そう思った直後、今まで動かなかった腕や足が戻り、止まらなかった涙すら流れることを忘れ勢いよく立ち上がる。一瞬ふらっとしながらも思いのおかげか、思いのせいか、目に光はなくその顔は復讐の二文字に溢れた殺気立った顔をしていた。
「その顔…あぁ、ヴァール君その顔が見たかったんだよ…!今までの君は大変つまらなかった。しかし、そこに憎悪が生まれるだけでこんなにも素晴らしい作品になるのか…。よかろう、私は君を支援しよう。応援しよう。」
そういう佐藤の顔を見るとこれまでにないほど楽しんでいるようだった。だがそれでいい、アイツに復讐できるなら、なんだってよかった。絶対にこの手で全てを葬ってやる。もちろんこちら側へ戻す気もまた和解する気もなかった。苦しめて苦しめて、それが最高潮に達した時この手で終わらしてやると決めた。もう何もいらない、誰も信じない。信じられるのは己自身だけだ。
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「なぁ、あんたはいつも聞いてくるよな。どうしてこんな酷いことをするのかなんて、分かってるくせによ。あんたを逃がしてどれだけ経ったか、こうやって肩を組むのもいつぶりか、なんでもいいさ。もうどうでもいいんだよ。」
『ま、待ってくろんさん!わ、私たちのことわからないの!?なんで、なんでこんなおかしく…』
『相棒、下がれ!ここは暁さんと俺でなんとかするから…!鮫、頼んでもいいか?』
『ふーん、仕方ないなぁ。』
「…ほらみてよ、だんだん面白くなってきたよ。あ、寝てるんだったね。せっかく一緒に見ようと思ったのに残念だよ。まぁいいさ、目を覚ました時の反応楽しみにしてるぜ。かすみさん。」