モートが走り出すと同時に後方からも激しい羽音が追ってきていたが、モートは気にせずに何色にも見えない魂が乗る車両へと走り続けた。
滝のような雨となった空からの血液によって、全てが赤い色に染まる。
―――
アリスは目をつぶり両耳に手を当てた。バサバサと何もかもを覆いつくすかのような鳥の群れの羽音が近づいてきていた。
「このままここで避難していましょう。さあ、賭けの時間です。モートくんに全てを賭けましょう」
「ちょっと、オーゼムさん? 賭けって何のこと?」
「……」
更に大きな音になる羽音を恐怖したシンクレアが震える声を発したが、隣で目をつぶるアリスは不気味な羽音がすぐに消えることを信じていた。
アリスの耳に次第に凄まじい羽音が聞こえなくなって来た。
車窓から外を見ると、バラバラと無数の鳥の肉片が無残に落ちていく。
その時、ドタドタと連結部分のドアから一人のサラリーマンが大勢のゾンビを連れて速足で歩いてくるのが見えた。
オーゼムはそれを見て、オールバックを整えて呟いた。
「ふふっ、またもや死者ですか……リッチーですね」
アリスとシンクレアは小さな悲鳴を上げる。
「死者? リッチー? あのサラリーマンの人がですか?」
「そうです。アリスさん。人の形に騙されないでください。れっきとした死者ですよ。それも儀式によってなり果てた強力なアンデッドなのです」
サラリーマンと死者の群れがこの車両に着くと同時に、天井から体中を真っ赤に染めたモートが床に着地した。
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