テラーノベル
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夜中、出久はひとりで目を覚ました。
隣では、かっちゃんが眠っている。
いつもなら寝返りを打つたびに抱き寄せてくる腕も、今は布団の上に静かに置かれていた。
出久はそっと身体を起こした。
眠っているかっちゃんの顔を見つめる。
「……かっちゃん」
返事はない。
「……いつも、ありがとう」
小さな声で呟いて、出久は微笑んだ。
かっちゃんは、いつだって自分を大切にしてくれる。
失敗しても、泣いても、何もできない日があっても、隣にいてくれる。自分が自分を嫌いになりそうなときでさえ、何度でも好きだと言ってくれる。
それが、どれほど嬉しいことなのか。
きっと、かっちゃんが思っている以上に。
「……僕ね、かっちゃんに会えてよかった」
声が震えた。
「かっちゃんがいなかったら、僕……今、こんなふうに笑えてなかったと思う」
出久は布団の端を握り締めた。
かつては、夢を語ることさえ怖かった。
誰かを助けたいと思う気持ちを笑われて、何度も自分の存在を否定されて。それでも諦めきれなかった夢を、いつしか口にすることすらできなくなった。
ヒーローになれなかったことだけが悲しかったわけじゃない。
誰かに、ただ一度でいいから。
「君なら大丈夫だよ」と言ってほしかった。
自分のことを、信じてほしかった。
そんな願いを、いつの間にか諦めていた。
「……僕、ずっと、誰かに必要とされたかったんだ」
ぽたり、と涙が落ちた。
「でも、かっちゃんは……僕が何もできなくても、僕のこと、好きって言ってくれるんだね」
そのとき。
「……デク?」
背後から、寝起きの声がした。
出久は慌てて振り返った。
「か、かっちゃん……起こしちゃった?」
「……お前、何で泣いてんだ」
勝己は身体を起こすと、出久の顔を覗き込んだ。
出久は首を横に振ろうとした。
けれど、勝己の手が頬に触れた瞬間、堪えていたものが溢れた。
「……っ、かっちゃん……」
「おう。ここにいる」
「……僕、ここにいてもいいのかな」
勝己の手が止まった。
「……は?」
「僕、ヒーローにもなれなかったし、今はヴィランだし……誰かに誇れるような人間じゃないし……」
「出久」
「それでも、かっちゃんは僕のこと、好きでいてくれる?」
最後の言葉は、消えそうなくらい小さかった。
勝己は何も言わず、出久を抱き締めた。
いつものように、ふざけて頬を揉むことも、からかうこともしなかった。
ただ、壊れ物を扱うみたいに優しく、背中を撫で続けた。
「……バカ野郎」
「……っ、ごめ……」
「謝んな」
勝己は出久の頭を胸に抱き寄せた。
「お前、まだわかってねェのかよ」
声が少し震えていた。
「俺が好きなのは、ヒーローになれたお前じゃねェ。誰かに褒められるお前でも、何かができるお前でもねェ」
出久の髪に顔を埋める。
「……俺が好きなのは、緑谷出久だ」
「……っ」
「笑ってるお前も、泣いてるお前も、失敗して落ち込んでるお前も。自分のことが嫌いになっちまうお前も……全部、お前だろうが」
勝己は一度言葉を切った。
そして、出久の顔を両手で包んだ。
「お前が自分を信じられねェ日があったら、俺がお前を信じる。お前が自分のことを大事にできねェ日があったら、俺がお前を大事にする」
赤い瞳が、まっすぐ出久を見つめていた。
「でもな、いつかお前自身も、自分のことを大事にできるようになってほしい。俺がいねェと何もできねェなんて、そんなふうになってほしいわけじゃねェんだ」
「……かっちゃん」
「お前には、お前の人生があんだよ。俺はそこにいたい。隣で笑って、一緒に飯食って、くだらねェことで喧嘩して……そんで、また仲直りしてェんだ」
勝己は少しだけ笑った。
「……俺、お前と生きてェんだよ。出久」
出久の目から、また涙が零れた。
けれど今度は、さっきとは違った。
「……僕も」
震える手で、勝己の服を握る。
「僕も、かっちゃんと生きたい……。明日も、明後日も、その先も……ずっと、一緒にいたい」
「……おう」
「……僕、かっちゃんの隣で笑っててもいい?」
勝己は、泣きながら笑った。
「当たり前だろ」
そして、出久の額に自分の額をそっと合わせた。
「……お前が笑ってくれることが、俺は一番嬉しいんだよ」
出久は、とうとう勝己の胸に顔を埋めた。
「……かっちゃん、大好き……っ」
「……俺もだ」
「……ほんとに、好き?」
「何回聞くんだよ」
「……何回でも、聞きたい」
勝己は一瞬目を丸くして、それから優しく笑った。
「……じゃあ、何回でも言ってやる」
出久の頭を撫でる。
「好きだ。大好きだ。愛してる、出久」
ひとつひとつ、確かめるように。
「……明日も言ってやる。明後日も、その次の日も。お前が聞きてェなら、何回だって言ってやる」
「……っ、うん……!」
「だから、今は寝ろ。明日になったら、また一緒に飯食おうぜ」
「……肉じゃが、作ってもいい?」
「おう。俺、あれ好きだしな」
「……えへへ。じゃあ、いっぱい作るね」
「作りすぎんなよ。……いや、いいか。残ったら明日も食えばいい」
出久は涙を拭いながら笑った。
勝己はその笑顔を見て、ようやく安心したように息を吐いた。
二人は再び布団に入った。
勝己が腕を広げると、出久は迷わずその胸に収まった。
「……かっちゃん」
「ん?」
「……僕を見つけてくれて、ありがとう」
勝己はしばらく黙っていた。
それから、出久を抱く腕にそっと力を込めた。
「……見つけたんじゃねェよ」
「……え?」
「俺も、お前に見つけてもらったんだ」
出久は顔を上げた。
勝己は少し照れくさそうに笑っていた。
「お前がいたから、俺は今、ここにいられる。……だから、礼を言うのは俺のほうだろ」
「……かっちゃん……」
「ありがとな、出久」
勝己は目を閉じ、出久の髪を撫でた。
「……俺のところにいてくれて、ありがとな」
出久はもう一度、勝己の胸に顔を埋めた。
今度は、泣きながらも笑っていた。
窓の外では、夜が少しずつ明け始めていた。
世界が二人をどう呼ぼうと、過去が消えることはない。
二人がしてきたことも、傷つけた人々のことも、なかったことにはできない。
それでも。
明日、一緒に朝ご飯を食べる約束がある。
その次の日も、きっと。
「……かっちゃん、おやすみ」
「……おう。おやすみ、出久」
勝己は最後にもう一度、優しく囁いた。
「……明日も、隣にいろよ」
出久は目を閉じて、幸せそうに笑った。
「うん。明日も、隣にいるよ」
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コメント
1件
いやあ、もう、胸がぎゅっとなりました……! 夜中に出久くんが一人で目を覚まして、寝てるかっちゃんに「いつもありがとう」って呟くところから、もう涙腺が緩みっぱなしでした。「好きなのは緑谷出久だ」って言い切るかっちゃんの台詞、最高に格好よかったです。お互いを見つけて、お互いを必要としてるのが伝わってきて、朝ごはんの約束が何より幸せな未来に見えました。素敵な物語をありがとうございます🌷