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鳥の歌声、書き手もなく

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鳥の歌声、書き手もなく

35 - 第35話とりさまAIとニャル

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2022年07月31日

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それから2週間ほど経過していた。

つばさはまだ自分の身体に慣れていないものの、日常生活に支障はなかった。

ただ一つ問題があるとすれば、それは―――

「ねぇねぇ、つばさくん~」

白衣を着た葵がベッドの上で猫撫で声を出す。

彼女は最近、毎日のように診察と称して保健室に通っている。

その理由を知っているのは、自分だけだ。

「あーあ、羨ましいなぁ。あたしだって行きたかったよぉ」

放課後。いつものメンバーが集まった部室で、友梨佳が不満の声を上げた。

「仕方ないだろ。俺達と違って、あの人にとっては仕事なんだから」

「それはわかるんだけどさぁ」

口を尖らせる友梨佳の隣では、綾乃が机の上に突っ伏している。

そんな二人の様子を見ていた真尋は、溜め息をつくしかなかった。

三人で顔を突き合わせて話し合っている内容は、もちろん八坂家の居間で起こった出来事についてである。

真尋達はニャルラトホテプ星の住人であり、地球外生命体でもあるニャルラトホテプ星人の少年──つまりクトゥグア(炎髪灼眼)の弟にして、邪神探偵と名乗るシャンタッ君とその飼い主の少女・久遠寺伊織と共に、ある事件を解決したばかりなのだ。そして事件解決のお礼という事で、伊織の家に招待された真尋達だったが、そこで奇妙な現象に巻き込まれてしまう。

それは、突如として現れた謎の扉によって吸い込まれた先に広がっていた、見知らぬ異世界だったのだ! そこでは、地球侵略を目論む宇宙海賊による世界征服計画が進行中で、しかも地球人であるはずの真尋まで狙われている始末。さらに、謎の組織に追われているという少女までも現れて──!?

「……真尋さん、どうかされましたか?」

突然黙り込んでしまった真尋を見て、クトゥグアが不思議そうな顔をしていた。だがそれも当然だ。いきなりこんな事を言われても、普通なら信じるわけがない。

それにしても、どうして自分はこんな夢物語みたいな話をしてしまったのだろうか。真尋自身にも分からなかった。ただ、自分一人で抱えているよりも誰かに打ち明けてしまった方が楽になるような気がしたのだ。

そうだ。きっとこれは夢なのだ。目が覚めれば自分の部屋で布団の中にいて、いつもどおり学校に行って放課後になればニャルラトホテプたちと馬鹿騒ぎをするに違いない。そんな日常が続く限りは、夢の中でも現実でも大して変わりはないのだが。

そしてまた、夢の中の光景が変わる。

真尋はどこかの公園にいた。滑り台があって砂場があってブランコがある。どこにでもある普通の公園だ。だが、なぜか見覚えがあった。

目の前には、二人の少年がいる。片方は真尋と同じ年頃の子供で、もう片方はまだ小学生くらいに見える男の子。どちらも半袖短パンという格好をしているが、顔つきが似ているところを見ると兄弟かもしれない。二人共、両手にそれぞれ何かを持っていた。それは、黒い色をした棒のようなもので── そこで場面が切り替わった。今度は夜の街中である。場所は先ほどの公園とは違うようだが、やはり似たような雰囲気の場所であった。

少年二人は相変わらず手にしている棒状のものを振っている。すると、そこから光が発せられた。火花ではなく電気だ。

そしてまた振ると今度は光とともに轟音が響いた。雷鳴ではない。

彼らは電気を発生させる棒を持っているのだ。

「……あれは何をしているんだろう?」

疑問を口にしたつばさだったが、すぐに答えが出た。

少年の一人がこちらに向かって走ってきたからだ。

だが、彼の顔を見て驚いた。

それは、つばさの顔をした少年だった。

つばさとそっくりな顔をしていたのだ。

(双子!?)

彼はつばさを見つけるなり、抱きついた。

彼女は反射的に抱きしめ返そうとしたが、寸前で思い留まった。

今の自分は男なのだ。

それに気づいたとき、目の前にいるのは自分の弟だとわかった。

名前は翼(よく)。小学五年生。背が低く痩せている。運動神経抜群で勉強はあまり得意ではないが、ゲームが得意だ。趣味は読書と漫画を読むことで、好きな食べ物は甘いもの全般。嫌いなものは特にない。将来の夢は小説家になること。そんなところだろうか。

彼女は自分のことをあまり語らなかった。そしてそれは僕も同じだった。

彼女が語った数少ないエピソードの中に、「好きな人はいる」というものがあった。僕はそれを耳にした瞬間、心臓が締め付けられるような感覚を覚えた。そのときはまだ、それが恋だということにも気がついていなかったのだけれど――。

***

彼女と初めて会ったときのことを思い出しているうちに、電車は目的の駅に到着したようだった。ドアが開くと同時にホームへと流れ出す人波に乗って、僕も車内から抜け出す。改札口を出てすぐ目の前にあるバス停に向かいながらスマホを取り出してみると、時刻はすでに午後三時を過ぎていた。約束の時間まであと一時間ほどあるため、とりあえず近くの喫茶店に入ることにして歩き出したところで、ちょうどバスから降りて来たらしい女性と目が合った。

彼女はこちらに向かって軽く会釈をしながら近づいてくると、僕の隣に並ぶようにしながら口を開いた。

「こんにちは、久村くん。待たせてしまってごめんなさい」

「いえ、全然待っていないんで気にしないでください。それにしても、まさか白崎先輩の方から呼び出してくれるだなんて思ってもいなかったです」

「実は少し用事があったものだから……でもこうして久しぶりに会うことができたわけだし、結果的に良かったわね」

そう言って微笑む白崎結衣さんは、僕の一つ上の学年にあたる高校二年生であり、中学時代からの知り合いでもある。そして同時に、先日突然告白されて付き合うことになった相手でもあったりするのだが……。

「それで、わざわざ呼び出さなくてもメッセージアプリを使ってくれればよかったんじゃないですか? 別に今日くらい学校で話す機会もありましたし」

「だって、せっかく恋人同士になれたというのに会う理由がないというのは寂しいじゃない? だからと言ってデートをするにしてもどこに行くとか考えていないし……」

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