テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「斧と短剣は任せろ! お前たちは二人で盾と長剣を持ってる2匹をやれ」
ルーザーさんは斧持ちのゴブリンと激しく打ち合いながら、石などを投げてくるゴブリンシーフと戦ってる。凄い視野の広さ、あれは真似できないな。
「マスター! 僕の後ろに!」
ルーザーさんの戦いに目を奪われているとジャンが声を上げる。僕は僕の戦いをしないと。
「盾で体制を崩します! その時にもう片方を一気に仕留めましょう!」
「わ、わかった!」
ジャンの指示でチャンスを待つ。何度目かの敵からの攻撃をジャンが躱して盾で攻撃を当てる。体制を崩し、しりもちをつく敵を確認してすぐにもう一方のゴブリンに飛び出す。
「ギャギャギャ!?」
急に二人から攻撃されたゴブリンは驚愕してたたらを踏む。その隙を見逃さずにジャンが腕を切り落とす。痛みでもだえるゴブリンに僕は剣を首に当てる。
「か、固い!?」
まるで石でも叩いたかのような感触に驚く。銅の剣のせいじゃない。僕のせいだ。僕は弱すぎる。
「ギャ!」
「うわ!?」
しりもちをついていたゴブリンが立ちあがって襲い掛かってきていた。僕は剣で長剣を受け止める。
ギリギリギリと銅の剣と錆びた長剣が火花を散らす。凄い力だ。普通のゴブリンじゃないのが伺える。
僕は片膝をつく。ジャンを見ると腕を切り落とされたゴブリンの首を切り落としてる。僕よりも明らかに強いな。
「待たせたな」
「ギャ!?」
ジャンを羨ましく見ながら鍔迫り合いをしていると、ルーザーさんがゴブリンの背後に立って剣を突き刺す。
ゴブリンはビクビクとけいれんをして息絶えていく。
「ハァハァ……」
敵がいなくなると自分が予想以上に疲れているのが分かった。息も絶え絶えで吐く息が苦しい。
「落ち着け。呼吸だけを考えろ」
「ハァハァハァ」
ルーザーさんが背中をさすってくれる。過呼吸気味になっていることにも気が付かずにいた。
戦いってこんなに疲れるのか。初めてゴブリンを倒した時と違う。命の危機をはっきりと感じる戦いだったせいか?
「マスター。危険は脱しました」
「ハァハァ。あ、ありがとうジャン」
ジャンは息も切らさずに冷静に報告してくる。これ以上の魔物はいないってことか。安心した。
「ルティ……。いや、ジャンか。ありがとうな。お前がいなかったらムラタは助からなかったかも」
「……あなたからの礼はいりません。私はマスターのためにいるのですから」
ルーザーさんがお礼を言いながらジャンの頭を撫でる。とても愛おしいものをめでるように。
「ルーザーさん……」
「……はは。失ったものを重ねてすまねえな。そうだよ、ルティは俺の弟の名だ。瞳の色は全然違うのに……女々しい男だよおれは」
彼の姿を見て僕はとても悲しくなった。弟さんを重ねていると思ったからだ。
思った通り、彼はジャンを弟さんと重ねていた。とても悲しくジャンを撫でているルーザーさん。そんな彼の手を鬱陶しく振り払うジャンは僕の背中に隠れる。
「マスター。帰っていいですか?」
「あ、えっと。まだ……」
ジャンは隠れながら聞いてくる。しかし、ルーザーさんに見られるのはよしておいた方がいいよな。
「ムラタ。もう見たから帰しても大丈夫だ。お前のスキルだろ? 安心しろ。俺は誰にも言わない」
ルーザーさんの言葉に僕は驚いて見つめる。すると彼は頭を下げてきた。
「嫌な予感がしてお前をつけてたんだ。弟、ルティを失ったあの時のような感覚だった。何もない所からル……、ジャンが出てきた。遠くで見た時は弟に似てるとは思わなかったんだがな」
ルーザーさんは申し訳なさそうに話してくれる。何度もジャンのことをルティと呼んでしまう姿はとても痛々しい。
「マスター」
「あ、ああ。ありがとうジャン」
「いえ、これが僕の使命ですから」
ジャンが声を上げる。僕はお礼を言って帰還を促す。彼はお辞儀をして消えていった。
「……本当に弟じゃないんだよな」
「そんなに似てるんですか?」
「ああ、瞳以外は瓜二つだ」
ルーザーさんは消えていくジャンを見てため息のように声をこぼす。僕の問いかけに嬉しそうに答えると天を仰いだ。
「剣ありがとうな。ってボロボロになっちまったな」
「あ、僕のもですね」
ルーザーさんが視線を元に戻すと銅の剣を返してくれる。刃がボロボロの銅の剣が2本。思わず二人で顔を見あって笑ってしまった。
「俺のナイフで魔石を回収しよう。久しぶりの自分で仕留めた魔物の魔石の収入だ」
ルーザーさんは嬉しそうにナイフを取り出すとゴブリン達の魔石を回収する。少し大きな魔石、バンゲルさんから武器を買えるくらいのお金になるかな
「そういや~、レベルは上がらなかったのか?」
「あ! そういえば……まだみたいです」
ルーザーさんの声で気が付いた。ジャンが倒したのは1匹。ルーザーさんに取られた形になっちゃったのかもしれないな。
苦労したのに残念だ。まあ、命が助かっただけよかったか。
「よし! これだけあればおしゃかにした武器分を出してもおつりがくるだろ」
ルーザーさんが魔石回収をし終えて声を上げる。彼の解体はジャネット並みに綺麗にできていた。僕は気持ち悪くなりながらもしっかりと見させてもらった。今度は自分でやらないとね。