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みあっち
それでは、
どうぞ。
ーーーー
ガチャ、と玄関の重たい音が夜の静けさを裂いた。
胸の奥が、きゅっと縮む。
廊下を踏む足音はゆっくりで、少しだけ引きずるような音が混ざっている。
その癖を、私はもう知っている。
次の瞬間、リビングの扉が開いた。
長髪がふわりと揺れる。
けれど、その輝きより先に目に飛び込んでくるのは頬にできた青紫の痣、切れた口元、制服の袖から覗く擦り傷。
今日“も“だ。
テーブルの上にあらかじめ広げておいた救急箱。
消毒液、ガーゼ、絆創膏。
準備している自分が嫌になるのに、準備しないでいる方がよっぽど怖い。
🤍「、…おかえり。」
声はできるだけ普通に。震えないように。
柚葉は何も言わず近付いてきて、ソファに座っていた私をそのまま包み込むみたいに抱きしめた。
体温が高い。少し汗の匂い。鉄の匂いも混ざっている。
🩵「……、ただいま。」
小さく、低い声。
その一言に無事に帰ってきたことへの安堵と、また傷ついてきたことの悲しさが一緒に押し寄せる。
私はそっと彼女の腕を解いて、向かい合う。
🤍「、座って。」
柚葉は素直にソファに腰を下ろす。
こういう時少しだけ子供みたいになる。
袖を捲ると肘のところが大きく擦りむけていた。
消毒液を含ませたガーゼを近づけると、彼女は分かりやすく顔を顰める。
🩵「……それ、嫌い。」
🤍「知ってる。」
🩵「しみる、。」
🤍「知ってる。」
わざと淡々と返す。目を合わせると、柚葉はほんの少しだけ視線を逸らした。
ガーゼが触れた瞬間、ぴくっと肩が揺れる。
🤍「…、じっとして。」
🩵「……痛い。」
🤍「私の方が痛い。」
そう言うと柚葉はちらっと私を見る。
その目に少しだけ罪悪感が浮かぶ。
私はわざと少しだけ眉を下げた。悲しそうに。
それだけで、柚葉は観念する。
それからは何も言わず、ぎゅっと唇を結んで耐える。
何度も繰り返してきた光景。
もう慣れているはずなのに毎回胸が締め付けられる。
絆創膏を貼りながら、私は静かに聞いた。
🤍「今日は、…なんで喧嘩したの?」
柚葉はすぐには答えない。
指先が制服の裾をもじもじと掴む。
🩵「、向こうが喧嘩売ってきた、…。」
いつもの言い訳。
🤍「…、本当にそれだけ?」
🩵「だって、……あいつら…くれあの、こと…」
そこまでで、全部わかる。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
私は体が弱い。病院にかかるほどじゃ無いけど、激しい運動はできない。
発作みたい急に苦しくなることもある。
それを良く思わない人がいることも知ってる。
でも、私は慣れていた。慣れてしまっていた。
🩵「……、何も、…何も知らないくせに。」
🩵「くれあが好きでこうなった訳じゃないのに、…バカたちがあんなふうに……」
拳がぎゅっと握られる。
🤍「だから、かっとなってやったの?」
遮ると柚葉は一瞬だけ迷って、それからこくりと頷いた。
その姿がどうしようもなく愛おしくて、苦しい。
🤍「ありがとう。」
柚葉が目をまん丸くして驚いた。
まさかありがとうと言われると思ってなかったのだろう。
前の停学のことを思い出す。
柚葉が虐められていた子を見つけ、いじめっ子をボコボコにした。
でも、結局虐められた子を助けたのに、柚葉だけが停学になった。
誰も、本当の理由を聞こうとしなかった。
みんなは柚葉を悪魔と決めつける。
でも、私は、…私だけは……彼女を普通の人間と思いたい。
クラスメイトに言われた言葉もまだ覚えている。
『なんであんな子と付き合ってるの?』
『脅されてるなら先生に言おうか?』
違うのに。何も知らないくせに。
🤍「でもね、私を守るために柚葉が手を汚して欲しくない。悪者になって欲しくない。」
私は彼女の頬に、そっと指を触れる。
🩵「別にっ、私は……」
🤍「だめ。」
はっきり言う。
柚葉の眉が寄る。
🤍「みんなが柚葉を悪魔みたいに言っても、私は知ってる。誰かを守る時しかその拳使わないって、。」
🤍「でもね、私は柚葉が1人で戦うのが嫌。私のことで傷ついて帰ってくるの、…嫌。」
柚葉は視線を落とす。
🩵「だって、放って置けない…。」
🤍「私も。」
🤍「柚葉が傷つくの、放って置けない。」
🤍「悪者にならなくていい。私のために、…私ちゃんと自分で立つから。」
🤍「柚葉は悪魔じゃない。私と同じ高校生。、ちゃんと卒業したいでしょ?」
🤍「同じ学校で、同じ制服で。退学とか、停学とかじゃなくて。」
🩵「……くれあ、ずるい。」
🤍「うん。」
柚葉が小さく笑う。
その笑顔が好き。
だから私はゆっくり彼女を抱きしめる。
🤍「守ってくれなくていい、とは言わない。でも、殴らないで守れる方法一緒に探そう。」
制服越しに伝わる鼓動はまだ早い。
傷だらけのヒーロー。
でも、私はヒーローなんていらない。
ただ隣にいる、普通の柚葉でいい。
隣でいてくれるだけで、それだけで十分なんだから。
end.