コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
爽やかな気候がここ数日続いていた。
ここ最近天宮さんとの関係が良好で、学校生活もまさにバラ色、絶好調だった。
ここ一ヶ月、わら半紙の出来事から始まり、ちりとりとプリンの交換をして、そして明日からまた隣には大好きなさっちゃんがいると思うだけで、それだけで幸せだった。
秋の外の空気が僕の心をさらに「青春」させていた。
現在の俺: 「そんなに天宮さんのことが好きで、授業中もあんな感じでよく成績落ちないね。」
K(僕): 「わら半紙にも書かれたように、天宮さんに頭いいって思われているみたいだから、成績落ちるわけにはいかないよ。
もっと頑張らないとね。
学年1番になってこそ、本当の頭がいい人だもん。」
現在の俺: 「そのくらいのモチベーションがないと、勉強もしないか。」
K(僕): 「それに天宮さんのせいで成績落ちたら親に何を言われるか、わからない。」
現在の俺: 「なるほどね。」
10月下旬に中間テストも終わった。
吹奏楽の部活の終わりに小石さんは天宮さんに声をかけた。
小石さん: 「大好きなさっちゃんからプリンもらったことだし、Kから好きって言われた?」
ニヤニヤしながら小石さんは天宮さんに尋ねた。
さっちゃん: 「そんなのないよ。」
小石さん: 「え、どうして?」
目を丸くした小石さんは続けて問いかけた。
小石さん: 「Kはさっちゃんのこと、好きなはずなのに…」
さっちゃん: 「私に言われても…」
小石さん: 「まだ言われないの? あいつ、鈍い男だね。 でもプリンは食べてくれたんでしょ。」
さっちゃん: 「おいしかったって。」
天宮さんはニコっとして言った。
さっちゃん: 「怪人21面相が言ってた。」
小石さん: 「なに、怪人21面相って? あの事件の? どういうこと?」
さっちゃん: 「違う違う。 冗談でKが書いたんじゃない?」
そう言って僕の書いた手紙を渡して見せた。
小石さん: 「はー? 馬鹿じゃないの? そんなくだらないことよりもさっちゃんにちゃんと言うことあるでしょ。 まあ、でもやっぱりさっちゃんのこと好きみたいね。」
さっちゃん: 「真面目かと思ったけど、こんなこと言えるんだって思ったけどね。」
小石さん: 「あー、前向きな発言に変わっている。 うんうん。 じゃあ、今度こそつきあっちゃう?」
さっちゃん: 「・・・」
小石さん: 「え? そうする?」
さっちゃん: 「・・・ そうしようかなぁ。 ・・・ でも私からは恥ずかしくて言えないよ。」
小石さん: 「それなら、いい考えがあるんだけど。 明日金曜日でしょ。 私たちも部活休みだから、明日、Kをつかまえてさっちゃんに告白させちゃおうと思うけど、どう?」
川野: 「何の話? 告白って?」
同じ吹奏楽部の同じクラスの川野さんが二人の話に入ってきた。
小石さん: 「そうだ。 さっちゃんと二人にしても、Kは言えない思うから、みんなの前で告白させちゃおうか?」
川野: 「誰がさっちゃんのこと、好きなの? Kって聞こえたような気がするけど。」
小石さん: 「そう、そのKだよ。」
川野: 「え? K? そういえば2学期もさっちゃんのこと、班員に最初に指名したもんね。」
川野さんは前のめりで話に加わった。
小石さん: 「それに、ちゃっかり隣の席にずっと座っているよ。」
さっちゃん: 「ちゃっかりって…」
小石さん: 「好きじゃないとそこまでしないでしょ。 最初は偶然と思ったけどね、よく考えたら怪しいよね。」
川野: 「Kで意外と積極的なんだ。」
小石さん: 「でもそうでもないみたいよ。 さっちゃんがプリンをあげたのに、まだ告白してこないみたい。」
川野: 「この前の家庭科の? あげたんだ。」
さっちゃん: 「うん…」
天宮さんは照れながら頷いた。
川野: 「あら~。 それで本当にKはさっちゃんのこと、好きなの?」
小石さん: 「本人から直接聞いているからね。」
川野: 「え? すごい。 どうやって聞き出したの?」
小石さん: 「いつもさっちゃんのこと見ているから、どうなのって問い詰めたの。 そしたら顔真っ赤にしていたから、これは間違いないなって思ったから、ちょっと意地悪して、好きじゃないなら3学期はさっちゃんはうちの班にもらうからって言ったら、白状したんだ。」
川野: 「そんなことでさっちゃん好きって言っちゃったの? 馬鹿だねー。」
小石さん: 「まさかそんなことで言うとは思わなかったけどね。
本当にそういうところ、抜けているよね。」
さっちゃん: 「あんまり悪く言われると複雑なんだけど・・」
小石さん: 「ごめんごめん。」
川野: 「それにしてもさっちゃん、もてるね。」
さっちゃん: 「そんなんじゃ…」
またさっちゃんは俯いた。
川野: 「肝心のさっちゃんはどうなの? Kのこと、好きなの?」
さっちゃん: 「え~…。 うん、多分。」
川野: 「多分?」
小石さん: 「いいのいいの。 恋愛ってそんな感じで始まるんだから。」
川野: 「それで、どうするの?」
小石さん: 「二人は両想いだから、Kにみんなの前で逃がさないようにして告白させちゃおう。」
川野: 「Kじゃ、そのくらいしないとさっちゃんに告白しないかもね。」
小石さん: 「そうでしょ。 私もそう思ったんだ。」
さっちゃん: 「ねえねえ、楽しんでない?」
小石さん: 「そんなことない。 さっちゃんたちのためだもんねー。」
川野: 「そうだよねー。」
さっちゃん: 「もう、絶対楽しんでる。」
小石さん: 「それでね、明日、放課後に二人の告白式を行おうと思うだけど、立ち会ってくれる?」
川野: 「「告白式」っていいね。」
小石さん: 「でしょ。」
さっちゃん: 「みんなの前で…?」
不安そうなそぶりを見せた。
川野: 「さっちゃんは告白されるのを待っていればいいんだよ。」
さっちゃん: 「Kにそんなんじゃないって言われないかな?」
小石さん: 「絶対絶対大丈夫。 Kはさっちゃんのこと、大好きだから。」
川野: 「明日が楽しみだよね。」
さっちゃん: 「やっぱり楽しんでる。」
小石さん: 「これでうちのクラスで3組目のカップル誕生だね。 私がKを連れてくるから、川野さんはさっちゃんのそばにいて。」
川野: 「わかった。」
現在の俺: (さっちゃんは「僕」のこと、嫌いではなかったと思うけど、小石さんに乗せられてだんだんその気になったんじゃないかな?)
翌日の金曜日の11月2日。
空は雲一つない晴れ、朝は寒いものの、昼には18度と過ごしやすい日になっていた。
午前午後の授業は終わり、最近にしては何にもないつまらない1日だった、はずだった。
知らないのは僕だけだった。
K(僕): 「明日は文化の日で休みだから、早く帰って何しようかな?」
放課後、帰ろうとすると小石さんがまた話しかけてきた。
小石さん: 「ちょっといい?」
前回も小石さんに声をかけられたが、その後、プリンをもらったりして、天宮さんとの接点が増えたことに感謝していた。
K(僕): 「いいけど、何?」
小石さん: 「さっちゃんからプリンもらったでしょ? 返事は?」
K(僕): 「ありがとうって、言ったよ。」
小石さん: 「そうじゃなくて・・・。 さっちゃんのこと、好きなんでしょ?」
K(僕): 「ちょっと・・・声が大きいよ。」
小石さん: 「好きならはっきりさっちゃんに告白したら?」
小石さんはそんなのお構いなしだった。
その他: 「誰が好きだって?」
K(僕): 「だから・・声が大きいって。」
小石さん: 「さっちゃん、待っているよ。」
K(僕): 「えっ、今日? えっ、今? 急にそんなこと・・・」
小石さん: 「今に決まっているでしょ。」
ふとみると、天宮さんはうつむいて教室の後ろ側の窓側に川野さんたちと立っていた。
小石さん: 「さっちゃんのこと、好きなんでしょ。」
K(僕): 「大きな声だと、天宮さんにもみんなにもばれちゃう。」
ハル: 「Kは天宮のこと、好きなの?」
K(僕): 「まぁ…」
いつもいきなりで、心の準備なしだ。
それにそんなこと簡単にできたらやってるわけで、好きだなんて言ったこともないから、どんな顔して言ったらいいかも分からなかった。
女子クラスメート1: 「なになに? どういうこと?」
女子クラスメート2: 「え、何が始まるの?」
川野: 「Kがさっちゃんに告白するって。」
おまけにプリンのときと違って、周りを気にせず言うから、残っていたクラスメート数人もざわつき始めた。
中学生にもなると、女子中心に同級生の好き嫌いに興味津々だった。
K(僕): 「みんなの前でなんてできるはずがないでしょ。」
現在の俺: (一種の公開処刑だったなぁ・・)
さっちゃん: 「・・・・・」
K(僕): (小石さんはもううちのクラスの男子と交際しているので、簡単に物事を進めようとするけど、お節介なのか、楽しんでいるのか、真剣に協力してくれているのか、どういうつもりなんだ?)
ハル: 「K、言っちゃえば。」
K(僕): 「簡単に言うけど… (天宮さん、わら半紙に気になる人がいるって書いてあったし、そうなると、みんなの前でふられるんでしょ。)」
現在の俺: 「当時はそんなこと考えていたけど、今思えば小石さんがセッティングして天宮さんがいたこと自体、段取りはOKだったんだろうね。)
ハルのほか、数人のクラスメートも教室の後ろ側に集まってきた。
クラスのほぼすべてが協力というよりは野次馬だったと思う。
同じ班でも最近話できてきたくらいで、いきなりの告白はハードルが高かった。
そうこうしているうちにこの出来事を聞きつけたクラスメートが少しづつ集まってきて、5-6人程度だった「観客」は10人以上に増えてきた。
まさにクラスレクレーションの様相だった。
男子クラスメート1: 「あいつ、天宮のことが好きだったんだ。」
女子クラスメート1: 「そうみたいよ。」
男子クラスメート1: 「天宮はKのこと好きなの?」
女子クラスメート: 「どうだろうね…」
K(僕): 「・・・・」
たとえ天宮さんと二人きりでも憧れの人が目の前だと完全フリーズするのに、さらに観客付きなら第一声すら発することができるはずがなかった。
ただ天宮さんとしばしば目が合うだけだった。
現在の俺: 「こういうときってネガティブな外野のひそひそ話はよく聞こえるんだよね。」
小石さん: 「ほら、さっちゃんのこと、好きなんでしょ。」
K(僕): 「…」
小石さん: 「さっちゃんが待ってるよ。」
こんなやりとりをしているうちに、30分程度が過ぎ、午後4時30頃になっていた。
外は黄金色に染まって、微かに金木犀の香りがしていた。
その他: 「好きなら言っちゃえばいいのに。」
K(僕): 「・・・・・」
さっちゃん: 「・・・・・」
K(僕): 「・・・・」
長い沈黙が続いた。
小石さん: 「早くしなよ。 男でしょ。」
川野: 「好きって言えばいいのに・・・」
小石さんはしびれを切らしたのか、僕の背中を押して、天宮さんの方に連れて行かれた。
眼の前、ほんの10cmのところに恥ずかしそうにうつむいている天宮さんがいた。
K(僕): 「(近すぎる)」
さっちゃん: 「・・・・」
K(僕): 「(やっぱりかわいいんだなあ)」
小石さん: 「早く!」
K(僕): 「あ、天宮さんのことが・・・・」
照れているさっちゃんは一段と可愛くて、一目惚れしてからずっと大好きな天宮さんが今、OKだすのか、出さないのか分からないが、目の前で告白されるのを待っていることは間違いなかった。
僕も緊張していたが、天宮さんも緊張しているように見えた。
そんなかわいらしい、可憐な姿を見たら、さらに恥ずかしくなった。
小石さん: 「もうじれったいんだから。 さっちゃんの方から言う?」
さっちゃん: 「えー・・・」
天宮さんもその性格から自ら言うタイプでもないから、どちらから言い出せる状況ではなく、ちらちら僕のほうを見ては、うつむくの繰り返しだった。
さっちゃん: 「・・・・・」
小石さん: 「好きって言うだけで、いいんだよ~」
現在の俺: (今考えてみるとすでに付き合うことは前提で、ただ「けじめ」のセレモニーだったのだろう。
「さっちゃんから」って小石さんが言う自体、この時点での両想いは確定であったし、天宮さんには事前の「打ち合わせ」があったにちがいなかった。)
とはいってもその当時の僕には分かるはずもなく、こんなやりとりで5時に近くなってきた。
篠井先生: 「まだみんないるの?早く帰りなさい。」
担任の篠井先生が教室にやってきた。
だが、すぐにまた外に出ていった。
小石さん: 「もう時間がないから、二人とも付きあうでいいよね。」
しびれを切らして、小石さんは僕と天宮さんに向かって言った。
下校時間のチャイムがなり始めた。
K(僕): 「うん。」
さっちゃん: 「うん。」
チャイム中に僕と、その後に天宮さんも頷いた。
照れている天宮さんは最高に可愛かった。
K(僕): 「(頷いてくれた…)」
初めて自分が好きな人と両想いになれた瞬間だった。
まさか、こんな日になるなんて思いもしていなかった。
集まった皆はもっと面白い展開を期待していたかもしれなかったが・・・。
現在の俺: (やっぱりこれが精いっぱいだよな。)
みんなも下校のチャイムに急かされて帰宅の準備をしていた。
天宮さんは一連の「儀式」が終わると、小石さんたちの方へ頬を赤らめながら走っていった。
5時過ぎだとすでに日は沈んでおり、辺りは暗くなり始めていた。
帰宅時は北風が少し強く吹いていたため、自転車はペダルをこがなくてもどんどんスピードがでた。
最初は実感わかなかったが、途中から心は自転車のタイヤのように踊っていた。
K(僕): 「もともと僕の一目惚れで、天宮さんが僕を認識する前から、僕は天宮さんのことが好きだから、二人の間には「温度差」もあったけど、それでも付き合ってくれたんだ。 だから大切にしなきゃっといけないし、嫌われないようにしなきゃ。 もともと僕には手の届かない高嶺の花のような天宮さんが好きになってくれたのは奇跡だよね。」
現在の俺: (まだ中学生だった僕は、彼女ができたって言っても、小学校からの延長で「両想い」になることが出来たとの認識だったんだろうなあ。)
いつもは4時過ぎには帰宅していたが、結局5時30頃帰宅した
K(僕): 「ただいまぁ♪」
母親はさすがに子供の変化に敏感だった。
母: 「今日は遅かったけど、何かあったの?」
K(僕): 「特にないけど…♪」
それを聞いて妹が自分の部屋からでてきて、妹とすれ違い、僕は二階の自分の部屋に行った。
妹: 「お母さん、お兄ちゃんニヤニヤしてたよ。 気持ち悪い。 絶対何かあったよ。」
自分の部屋に入って、ちょっと疲れたけど、幸せな瞬間を堪能していた。
K(僕): 「わら半紙の意味不明な一文のこともあったけど、ちりとり、プリンを経て、小石さんの「お節介」のお陰で、天宮さんと付き合うことが出来たんだよね。
一ヶ月位の出来事だったけど、こんなに幸せでいいのかな?」
現在の俺: 「人生の絶頂期だもんね。」
K(僕): 「うん。 あ、でも、ちょっとくらい教えてくれてもよかったのに。」
現在の俺: 「歴史が変わったら困るから、基本、言わなけないよ。 でも、よかったでしょ。」
K(僕): 「ん? でも、待って。 未来の僕がいるってことは、後悔している未来の僕がいて・・・。 どうやってふられたの?」
現在の俺: 「細かいことは言えないけどね。 とにかく好きすぎて消極的になるなよ。」
K(僕): 「よく分からないけど、でも幸せだから頑張る。」
この時の「僕」は理解できる状態ではなかった。
告白後、辺りは急に暗くなっていた西門の付近では、天宮さんたちの「反省会」が開かれていた。
小石さん: 「男なんだから、ちゃんと告白してくれないと困るんだよね。 さっちゃん、ごめんね。」
川野: 「でもよかったね、さっちゃん。」
さっちゃん: 「うん。 急だったし、みんなの前だったからだよ。」
川野: 「あら、庇い合うなんて恋人同士みたいだね。」
小石さん: 「もう、自覚が出てきてよろしい!」
さっちゃん: 「もう、からかわないで…」
3人で顔を見合わせて笑った。
小石さん: 「そういえば今月末に西高の吹奏楽の定期演奏会があるんだよね。 行くよね?」
さっちゃん: 「うん、行くつもり。」
川野: 「いつだっけ?」
小石さん: 「11月30日。 それで、さっちゃん。 Kを誘って一緒に行ったら? 初デートに・・・ね。」
さっちゃん: 「デート?」
川野: 「いいなぁ、デート…」
さっちゃん: 「来てくれるかな?」
川野: 「あれだけさっちゃんのこと好きなんだから誘いにはOK出してくれるよ。」
さっちゃん: 「期末試験前じゃない? 当日は学力テストの日だっけ? 勉強頑張っているみたいだし・・・」
小石さん: 「私はテストなんて関係ないし、デート優先だけどね。」
川野: 「そうだよ、断るはずがないよ。」
小石さん: 「とりあえず誘ってみたら。」
さっちゃん: 「そうしてみるね。」