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引越し後の狭山さんちに行くのは、千歳は初めてだ。外観を見て、千歳はほめていた。
『きれいなマンションだな!』
「新婚だしねえ」
チャイムを押すと、狭山さんがにこやかに出迎えてくれた。
「どうぞどうぞ、お入りください」
「こんにちは、よろしくお願いします」
『こんにちはー! 今日、ワシも写真撮らせてもらっていいか?』
俺は千歳の頼みを補足した。
「千歳のほうが料理の写真撮るのうまいんで、レポ記事に千歳の写真も使おうかなと思って」
「あ、そういうことなら全然撮ってください。作るところも、あとでぼかしてもらえれば全然人入れて撮っていいですから」
『ありがとう!』
奥にはもうおっくんもいて、俺たちに挨拶しかけたが、千歳を見てギョッとした顔をした。
「こんにち……え、千歳さん? なんか前とだいぶ違う感じですね……?」
『あ、こんにちは。ちょっと今成長痛みたいな感じで、この姿から変われないんだ。それ以外は全然元気なんだけど』
「そ、そうですか……ちょっ、ちょっと和泉さん、いいですか?」
おっくんは俺を部屋の隅までひっぱって行き、ヒソヒソ声で(え、何あの美少女!? どういうこと!?)と俺に聞いた。
俺もヒソヒソ声で答えた。
(千歳はいろんな霊の集合体なんだけど、あれが核の霊の姿なんだって。成長痛みたいなのが今起きてて、しばらく核の霊の姿しか取れないんだ)
(あんなきれいな子と一緒に暮らしてんの!? おかしくならない!?)
(何も思わないわけじゃないけど……俺はやましいことは一切してないので)
一度抱きしめたけど、緊急事態だったからノーカンにしてくれ。
(すご……)
(千歳、あんなだけど今の姿の自己評価低いみたいだから、あんまいじんないであげて)
(わ、わかった)
俺とおっくんは「すみませんでした、なんでもないです」と言いながら元の位置に戻り、狭山さんの「じゃあ、みんな手洗いうがいしたら料理始めましょうか」の言葉でことを始めた。
洗面所で手とのどの洗浄をすませ、台所に入らせてもらった。割と調理台が広くて、今日使う食材がゴロゴロ置いてある。うわー、丸鶏って初めてちゃんと見たかもしれない。なつめも栗も銀杏も揃えてある、本格的だ!
狭山さんが、ザルに上げたお米を指さして言った。
「もち米はもう浸水してあるので、あとは丸鶏に詰めちゃうだけです。他の材料も詰めるか一緒に煮るかだし、参鶏湯煮るのが一番時間かかるんで、参鶏湯から先に始めますね」
狭山さんは、家庭で料理担当というだけあって、手際よく作業を進めていった。
丸鶏に塩コショウしたあと、もち米と高麗人参を丸鶏のお腹に詰めて竹串で縫って蓋をする。ネギと玉ねぎを大ぶりに切る。しょうがはすりおろして丸鶏にまぶす。丸鶏を鍋に入れ、ネギ類・栗・なつめ・にんにくもどさっと入れて、水を入れて煮込み始めた。俺と千歳は各工程の写真を撮り、おっくんは狭山さんにコツを聞きながらメモをしている。
狭山さんがまな板を洗いながら言った。
「次はスープですね、切って煮るだけですけど。ゴーヤの肉詰めのタネが少し手間かかるかな」
おっくんが首を傾げた。
「全体的に、味付け割とシンプルですね」
俺は薬膳的な知識を口にした。
「薬膳って素材の効能を活かす料理だから、素材の味を活かす方向のが多いですね。あと、あっさりした味付けで消化しやすいものが夏バテには合うから、揚げ物とかのこってり系にはあんまり行かないので」
「なるほど、油使うの、肉詰め焼くときくらいかな?」
狭山さんが冬瓜を切りながら言った。
「うち、テフロンだから油使わなくて済みますよ?」
「油も別に悪者じゃないんですけど、夏って胃腸が弱りがちだから、そういうときは油脂控えめでやるといいので、コツと言えばコツですかね」
「なるほどー」
おっくんはまたメモした。その間にも、狭山さんは具材を切って冬瓜のスープを仕込み、肉詰めのタネを練り始めた。輪切りにしたゴーヤに片栗粉をまぶし、タネを詰めてフライパンでじゅうじゅう焼く。
『うまそう! 肉詰め、うちでも作ろうかなあ』
「薬膳って意識しなくても、夏のおかず的にいいですよね、ゴーヤチャンプルーより材料の数少ないし」
そういう訳で、しばらく焼いたり煮込んだりしてすべてのメニューが完成した。参鶏湯、冬瓜とトマトと豚肉のスープ、ゴーヤの肉詰め、緑豆薄荷茶。緑豆というのはもやしの発芽前の豆で、薄荷ともども体の熱を取る作用が高く、夏の薬膳ではよく使われるのだ。
みんなでいただきますタイム。夕飯には早い時間だが、今日はこれを夕飯にしよう、と千歳と話していた。
おっくんが参鶏湯を口にして言った。
「なつめって初めて食べましたけど、なんかこのほのかな甘味がいいですね」
『ワシも初めてかも。高麗人参って、別にまずくないんだな』
「特に苦いとかないよ、多少薬臭いけど」
狭山さんは参鶏湯を真剣な顔で食べている。
「スケジュール的に夏バテできないんで、今日のこの料理で夏に備えます……!」
確かに日本の夏は年々激しくなっている。今日のこの料理会は、参加者の健康によかったかもしれない。
冬瓜スープも肉詰めもおいしく、お茶もすっとくる感じがたまらなかった。
『うまかった! 狭山先生、ありがとう!』
千歳が満点の笑顔で言うので、狭山さんも笑った。
「いやあ、お粗末様でした」
「狭山さん、料理うまいですねえ」
俺はお世辞じゃなくそう言った。味がいいだけでなく、料理している姿がとても慣れていたので。
狭山さんは照れくさそうだった。
「へへへ、まあ一応、家の料理担当なので」
おっくんが「しかし、これまた、狭山誉女性説が増えそうですね……」とつぶやいた。狭山さんは愕然とした。
「またです!? 料理男子ってことで広めてもらえません!?」
「和泉さん、よろしく」
おっくんが俺にニヤリと笑うので、俺は「タイトルに料理男子って入れますよ」と返事した。
そういう訳で、料理会は無事に終わり、俺と千歳は家に帰ったのだが。
今日の料理で精力がついてしまったのか、翌日、千歳はマイナーチェンジした姿を披露することになった。
#幽霊
凛道桜嵐 新
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#日常
がくじゅつてき・あかげ
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わーい
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コメント
1件
めっちゃほっこりした……!狭山さんちの料理会、みんなでわいわい薬膳作るの楽しそうで、読んでてお腹すいてきました(笑)千歳ちゃんの見た目変わったことにおっくんがギョッとしてたの、めっちゃリアルで笑った😂 高麗人参とかゴーヤの肉詰め、めちゃくちゃ美味しそう…。最後の「マイナーチェンジした姿」で締めるのも千歳ちゃんらしくて可愛いなあって思いました🤍 ていうか、もう434話も続いてるんですね…!?すごい…