伊武「俺は…ずっと兄貴のことが好きでした。どうか…俺と一緒にいて下さい」
俺が自分の気持ちに気付いて戸惑い始めた頃、あいつは俺に「好き」だと言ってくれた。
表にこそ出さなかったが、俺は心底幸せだった。
こんな俺でも愛してくれる奴が、心の底から「守りたい」って思える奴が、やっと現れたんだ、って。
そう思うと、何だか恥ずかしいような、嬉しいような気がした。
伊武「俺は、ずっと兄貴のそばにいますから」
そうやって俺を見てくれる。
元々の顔が整っていたことも手伝って、その顔に浮かべる微笑はいつもに増して綺麗に思えた。
俺にはない美しさ、儚げな一面を、あいつは持っていた。
…俺にはない。
それが、俺にとっては重要なことで、同時に唯一気がかりなことでもあった。
俺はあいつと違って、容姿が端麗でも、特別綺麗なわけでもない。そんな俺が「あいつと自分は釣り合っていない」と思い始めるのに時間はかからなかった。
あいつは色男な上にまだ若い。本来なら女遊びだって俺よりも盛んなはずだ。こんな俺なんかよりも、あいつにはもっと良い相手がいる。
―伊武の兄貴、若いし顔も整ってるのに、もうお相手決めちまったらしいっすよ。もったいないっすよねぇ―。
いつか耳に入ってきた、誰かの言葉。
それがこんな形で重くのしかかってくるとは思っていなかった。
伊武「こんなところに呼び出して…どうしたんですか、兄貴?」
困ったようでいてどこか無邪気なその笑顔が、俺の心を強く締め付けた。
龍本「…実を言うとな、伊武…お前とはもうやっていけねぇ。今日限りで別れてほしい」
俺が思いきって用件を口にした、瞬間―。
伊武「…は…?」
目の前の伏せがちな目が驚いたように少し開いた。汗も顎から滴るほどにひどい。
伊武「な、何で…待って下さい、俺は…」
龍本「はっきり言って、俺とお前とじゃ釣り合わねぇ。お前にはもっと良い奴が…いくらでもいるだろうしな」
伊武「っ…!!」
喉から、目から、何かが溢れてきそうだった。それを見られる前に、俺は急いで伊武に背中を向けた。
龍本「…じゃあな」
早足で歩き出す。これで良かったんだ。あいつには、もっと幸せになってもらいたいから。
俺の気持ちに、あいつの幸福が奪われるなんてことは、絶対になってほしくなかった。
俺がその場を去ろうと足を早めた、その時だった。
パシッ。
何かを掴むような音が聞こえて、俺は思わず振り返った。
伊武「……あなたと俺が『釣り合ってない』なんて、誰が決めたんですか…」
振り払うことはできなかった。真正面から見つめてくるその潤んだ目が、泣きそうな顔が、俺の気持ちを引き留めていたから。
龍本「…俺は…お前と違って容姿が端麗でも、それに見合った若さを持っているわけでもねぇ。だから…俺はお前とは釣り合ってねぇんだよ」
相変わらず、自分でも悲しいことを言っていると思う。
俺の言葉を聞いて、伊武は本気で否定するように首を横に振った。拍子に目から散る涙が、ネオンでキラキラと光る。
伊武「…なら、兄貴はどうして俺のことを好きになってくれたんですか?…見た目が良かったからですか?」
龍本「!!」
その言葉に、俺はハッとした。違う。俺は…
龍本「…お前が、俺のことを好きになってくれたから…」
俺がそう答えると伊武はあの時と同じ、美しい微笑を浮かべる。俺に自分の体を寄せて、今度は腕ではなく手を握った。
伊武「見た目なんて些末な問題です。だから…そんな風に言わないで下さい。俺を…、一人にしないで下さい」
龍本「…俺で良いのか?」
伊武「俺には、あなたしかいませんよ」
夜の町の光が俺達を照らす。―花宝町は、今日も綺麗だ。
龍本「悪かった」
伊武「ん…いいんです。…ずっと、大好きですからね。兄貴…」
コメント
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ん"んんっ!!!ありがとう!!!!←何に対しての感謝やねん←あんもちちゃんの書くたついぶが最高すぎて明日も頑張れそうやから感謝してるねん
スーウー、 (* ´ ▽ ` *)パァ最高です!