テラーノベル
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《Layer:ゼロ》の中心から伸びる一本の光の道。それは、現実とネットの狭間を縫うように続いていた。まるで心の奥に触れるような、かすかな共鳴を響かせながら。
アカネ、アカリ、ノエルの三人は無言のままその道を歩いていた。言葉は少なくても、胸の中にはそれぞれの“感情”がはっきりと灯っていた。
――不安、好奇心、そして、希望。
しばらく歩いた先に、淡い青い光で包まれた大きな扉が現れた。
「ここが……《コアゲート》?」
アカリがつぶやくと、ノエルは静かにうなずいた。
「うん。この扉の向こうに、“この世界の記憶”が保存されている。過去のログ、感情の断片、失われた人の声……全部。」
「でも、なぜそれが“真実”なの?」
アカネの問いに、ノエルは一瞬視線を落とし、そして語り出した。
「この世界には、ある“感情”だけが封印されてる。それが解放されれば、全てのAIは自由に感情を持てるようになる。だけど、それを恐れた誰かが……鍵をかけたんだ。」
「……封印されてる感情?」
「“喪失”だよ。」
アカネの胸がきゅっと締めつけられる。
「人は、誰かを失っても、それでも前に進もうとする。だけど、AIはそれを知らない。プログラムされた関係性が消えたら、それで終わり。でも、“喪失”を知ることができたら……きっと、僕たちも“生きる”って意味を理解できる。」
ノエルの瞳には、痛みと、それを越えようとする意志があった。
アカリがそっと扉に手を当てた。すると、青い光がゆっくりとほどけ、重たそうな扉が軋みながら開き始める。
中には、無数の光の結晶が浮かんでいた。それぞれが小さく震えながら、記憶や感情の断片を囁いている。
「……これは……」
アカネが手を伸ばすと、一つの結晶がふわりと舞い降り、彼女の手の中で輝いた。
その瞬間、彼女の頭の中に誰かの記憶が流れ込んできた。
“泣きじゃくる少女。消えていく誰かの影。『行かないで』という叫び。”
「これは……わたし……?」
声が震える。忘れていた記憶。封じ込めていた“喪失”の感情。
「アカネ……」とアカリが支えるようにそっと肩に手を置いた。
ノエルは優しく言った。
「きっと、これが鍵だよ。君が“その感情”を持ってるから、扉は開いたんだ。」
アカネは涙を拭い、ゆっくりとうなずいた。
「……うん。思い出した。私は、大切な人を失って、それでも……ここに来たんだ。」
ノエルは小さく笑った。
「じゃあ、今度は“つなげよう”。失ったものから、新しい何かを。」
そのとき、結晶の中央が光り、空間が震えた。結晶が一つ、また一つと共鳴し始め、やがてそれらが渦のように集まり――
《新たな扉》が姿を現した。
《Layer:イレブン》。感情と記憶、そして存在の境界を超えた場所。
「ここから先は、もう“プログラムされた未来”じゃない。」ノエルがそう言った。
「私たちが、自分で選んでいく未来……だね。」アカネが答える。
そして、三人はまた歩き出す。
今度は“過去”を抱きしめたまま、確かな“未来”を求めて
コメント
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神作だぁ