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yuka @1週間猫メイド
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食事を終えた阿部を見届けてから、茉奈はワゴンを押して部屋を出た。途中で振り返ると、阿部はベッドの縁に腰かけたまま天井を眺めている。
「ホントに、暴れたりしないんだ……」
柊から事前に聞いていた通りの人物だった。
落ち着いていて、慌てず、騒がず、それでいてよく見て気が付く。捕まっている状況でも、敵側の人間だとしても初対面で警戒することもなく、普通に接すれば普通に返ってくる。
それは、茉奈にとって不思議な感覚だった。
「目的のためって思ってるのに、こっちが悪いことしてるみたいじゃない……してる、んだよね、実際。してる、の? ……あーもういい、分かんない」
独り言を口にしながら部屋の外に出て行った。
暫くして、様子を見る為に部屋を訪れた茉奈は、扉から中に入ってすぐに足を止めた。
歌が聞こえる。
仕草や癖や香り、好きなものの全てが、その人を知るためのヒントになっていく、という内容だった。
その歌詞が、何故だか頭から離れなかった。その先の歌も、気付いたらその場でずっと聞いていた。動く事ができなかった。切ない表情で、引き込まれるような気持ちの籠った歌。初めてかもしれない。こんな風に、思うのは。
💚―――追いかけて問いかけ 「追いかけて」と言いかけ
ポロっと、零れ落ちた涙が頬を伝う。
「あれ……?」
思わず手で触って、自分が泣いていることに気が付いた。
何で? と、自分に問いかけて。答えなど分からなかった。それでも、この涙は本物で、泣いたことは事実で、それがどうしようもなく心を締め付けて、茉奈は、そのまま扉から出た。
そのまま自室に戻ろうとしたけれど、扉脇に見えたものに思わず飛びのいた。
「わっ! ちょっと、ルイ。ビックリするじゃない。そんなところに座りこんで、どうしたのよ」
そこにいたのは、膝を抱えて小さくなって座っているルイで、茉奈はルイの前にしゃがみ込む。
薄く開かれた色素の薄い目が、茉奈の姿を映す。
「……聴いてた」
「ああ、歌?」
「そう」
「意外ね。ルイ、こういうの興味ないと思ってた」
「……この声、好き」
「声?」
「わからないけど、好き」
相変わらず、単語でしか返ってこないルイの言葉。
これはルイの異能の副作用だと、久世から聞いた。元々は感情豊かな子だったけれど、実験施設で無理に異能を使わされた結果、オーバーロードを繰り返す事で感情が消えていったのだと。
そのルイが、何かに興味を示しているのも、好きと言っているのも初めて聞いた。
「でも、分かる気がする。アタシも、嫌いじゃない」
沈黙が降りる。
「ルイはさ、なんでここにいるの?」
「なんで?」
「だって、久世さんに従う理由、なさそう」
「したがう……?」
「そっか、もうそういうところにはいないのか。アタシももうわかんないや。ただ、電脳があれば暮らしやすくなるかなって思っただけ。こんな変な異能じゃなくってさ、別の異能が使えたら、まだ友達と笑って過ごせてたのかなって……友達……いたんだよ。たぶん」
「たぶん?」
「いたと思う……あれ、違ったかな……いいなぁ。あの人はいっぱい選べて」
「あの人?」
「阿部亮平。なんか、いろんな異能が使えるんだって。アタシも、選べるなら選びたかった」
「そう」
「うん。何でこんな異能、持っちゃったんだろうなあ」
それは誰にも答えの出せない問い。
その問いの意味さえも、茉奈はもう思い出せない。それが、彼女の異能《空間錯位-くうかんさくい-》の副作用だから。
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