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ガタンと揺れて馬車が止まった。ティアナは馬車から降りと、大きな門の前で立ち尽くす。城に来るのは初めてだ。年に数回城では舞踏会が行われるが、出席した事はない。理由は単純で、母達が出席するからだ。極力関わりたくない。

ティアナは今は、アルナルディ家の屋敷で暮らしてはいるが、広い屋敷内では他の家族と顔を合わす事はほぼなかった。


不審な目を門兵から向けられる事数秒、兵士がティアナへと足を一歩踏み出す。その事に思わず身体をびくりとさせた時だった。


「俺の客人だ、下がれ」


昨日豹変したままのミハエルが、やはり威圧感満載で現れた。兵士をひと睨みすると、彼等は慌てて正式な礼を取り「失礼致しました!」と叫んだ。額に汗が滲んでいる。その光景に、学院内では身分などを忘れがちだが、やはり彼が王子なのだと改めて実感した。


「遅かったな」


ついて来る様に言われ、ティアナはミハエルの一歩後ろを歩いて行く。

遅かったと言われたティアナは、眉根を寄せ、彼の背をジト目で見た。彼から言われた通り昼過ぎに来たのに、まさかそんな風に言われるとは、納得出来ない。だが相手は王子であり、しかもティアナはお願いをしている側なので文句は言えない。


「申し訳ありません」

「まあいい。兄上達は今中庭で昼食を摂っている。その後は、公務に入ってしまう。そうしたら今日はもう機会はない。モタモタするな」


(そういう大切な事は事前に言って下さい!)


と心の中で突っ込みながら、足早にミハエルの後を追った。






◆◆◆


レンブラント達は、普段通りの顔ぶれで城の中庭で昼食を摂っていた。

そんな中で、最近同じ話題ばかりだと、レンブラントはうんざりしていた。しかも延々とクラウディウス達に揶揄わられて、玩具にされている。


「あれだけ熱烈に君を想っているんだ。男として応えるべきだと私は思うがな」


クラウディウスは、食後のお茶を優雅に啜る。一見すると真面目に話している様に見えるが、明らかに口元がニヤついているのが分かる。


「だよな、俺も同感! 毎回現れては令嬢達に挑んでは弾かれ、それでもまだ諦めない。いや〜、凄い根性だよなぁ、尊敬するな、正に愛だなぁ」

「柱の陰から貴方を見つめる彼女は、本当に健気としか言いようがありません。此処はレンブラント、貴方から歩み寄ってさしあげては如何ですか?」


この七日程、レンブラントが社交の場に顔を出す度に、例の令嬢が姿を現す。無論女性に付き纏わられるのは珍しくないので、始めは気に留めていなかった。だが流石にこうも毎回だと嫌でも気になってくる。酷いと同じ日に二回も現れたりする。昼間、鑑賞会に現れ、その夜の夜会にも出没する……。

しかも彼女の容姿は珍しく目立つので、どんなに女性達に囲まれ距離があろうと視界に入り厄介だ。


「僕の事はほっといて貰えるかな。そもそも僕は子供に興味はないんだ」

「子供って、彼女確か十代後半くらいだろう? 立派なレディと言えるんじゃないか」


確かに子供は言い過ぎだが、レンブラントは余り年下は好まない。精々二、三歳くらいなら構わないが、それ以下は論外だ。そもそも話も合わないし、年下で離れているとなれば極度に甘えてくるのは目に見えている。我儘を言われたり、泣かれたりと、おもりなど真っ平ごめんだ。

無論家柄は大事だが、そこは譲れない。


「年が離れているのは苦手なんだよ、特に年下はね。知っているだろう」


そう言いながらレンブラントが大きなため息を吐いた時だった。


「失礼致します。クラウディウス殿下、ミハエル殿下がお見えです」


侍従が足早にやって来ると、そう告げた。意外な人物の名前にレンブラントのみならず、皆一様に眉を上げる。


「ミハエルがか。構わない、通せ」


ミハエル……この国の第三王子だ。この国には三人の王子がいるが、正直言って余り仲は良くない。クラウディウスとミハエルは可もなく不可もない関係でまだマシといえるが、クラウディウスと第二王子の仲が最悪だ。王位、権力をめぐり昔から歪み合っている。


「失礼致します、兄上。お食事中、申し訳ありません」


赤みを帯びた金色の髪と灰色の鋭い目が印象的なミハエルは、やって来るなり軽く会釈をした。

【拝啓、天国のお祖母様へ】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

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