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悲しい音がする。
炭治郎からは、形容しがたいくらい悲しい音がする。
すべてが終わった。無惨は無事に消えてなくなった。これからは鬼なんぞに怯えて暮らす人たちもいないし、失われる命を悲しむこともないんだ。
縁側で善逸はそう考えながら、ぼうっと洗濯物を干している自分の友人、竈門炭治郎を見ていた。
太陽の下。生きている。あのとき、炭治郎が戻ってきてくれたことが、なによりの救いだった。
「……炭治郎。」
立ち上がり、善逸は炭治郎の前に行く。
「どうしたんだ、善逸」
「それ、手伝うよ。」
指差したのは炭治郎の手だった。
「干してくれるのか?」
「うん。」
「そうか。ありがとうなあ、善逸」
そう笑う炭治郎に、善逸は見ていられなかった。
この頃、炭治郎の様子がおかしい。物忘れがひどくなっていくし、目も見えづらくなっている様子だ。
いまだって、干し終わったばかりの洗濯物を、洗って干し直している。そんなんじゃ、いつまで経っても終わるわけがないのに、炭治郎はそれに気がつかない。
……痣者は二十五歳以上は生きられない。それが彼が背負った代償らしい。だけど、炭治郎はまだ十六歳だ。二十五歳までにあと何年あると思っている。
二十二歳になった富岡も不死川は、物忘れをすることはないし、視力も悪くなってきていない。それどころか、いまもなおピンピンしていて、本当にあと三年後に亡くなるのか疑いたくなるほど、元気なのに、……
どうして、炭治郎だけが、こんなにも苦しまなくちゃいけないんだ。
「……今日はいい日差しだなあ。洗濯日和だなあ」
「……そうだねえ、炭治郎」
「そういえば、禰󠄀豆子と伊之助はどこに行ったのかなあ。また山菜でも採りに行ったのかなあ」
(違うよ、バカ。おまえの薬をもらいに行ったんだよ。アオイさんのところにさ、禰󠄀豆子ちゃんと伊之助が、わざわざ山を降りて行ってくれたんだよ。おまえが行かないなんて言うからさ)
そんな思いはゴクリとの飲み込み、
「アオイさんのところ行くって」
とだけ答えた。
「そうなのかあ。じゃあ、俺も一緒に行けば良かったなあ」
「行こうって誘ってたよー? でも炭治郎が山菜採らなくちゃって聞かないから」
「えー? 俺、そんなこと言ってないぞ」
「忘れん坊だなあ」
そのときふと、炭治郎から悲しい音が聞こえてきた。鼻がつんと痛くなるような、胸が締め付けられるような、悲しい音。
「……」
炭治郎はきっと、気がついているのだと思う。もう自分の命は長くなくて、周りがそんな炭治郎を気遣っていることくらい。鼻が良い彼だから、きっとわかっている。
「……禰󠄀豆子ちゃんと伊之助が帰ってきたら、二人でどこか行こうか」