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引き続きレイミ=アーキハクトです。目標が決まりましたので、早速行動に移ります。
『マルテラ商会』を利用するにしても、会わなければいけないのは会長クラス。アポイントメントなんてありませんから、まさに袖の下が必要になります。
ただ、会長を相手にする場合お金だけでは信用を得られません。ここは商人の真似事をしてみましょうか。
幸い手元にはお金以外に、万が一に備えての品があります。これは『暁』のドルマンさんが持たせてくれた瓶。中身は農園で収穫されたブドウ等の農作物から作られたワインです。
ドルマンさん達は武器の開発・生産を中心にしていますが、豊かで味の良い農作物に目を付けた彼等はお姉さまの許可を取り付けて暇な時に酒造を開始しました。
ここで帝国のお酒の事情ですが、基本的に生産性を優先しているのでハッキリ言って味は良くありません。少なくとも流通している酒は美味しくありません。酔えれば良いと言う感覚ですね。
で、ドルマンさん達が片手間に製造したワインなのですが、飲んだ皆が狂喜乱舞する程の味でした。まあ、前世で地球のお酒を知っている私としてはまだまだ味に満足は出来ませんが、流通しているものとは比べ物になりません。
ここでドルマンさんは里から酒造を専門としているドワーフを数人呼び寄せて、専用の酒造小屋まで用意して本格的に酒造を開始しました。これが二年前のお話。
当初は『暁』内部での消費分しか生産できず僅かな余剰分は贈り物として利用されていましたが、今年から生産量が増して外部への販売を始めようかと言う話が出ました。
そこで私が西部へ向かうことを知ったドルマンさんが営業用に持たせてくれたのです。こう言うのは『黄昏商会』の領分だとは思うのですが、今回は助かりました。
これを売り込んでみましょう。少なくともこの世界のお酒しか知らない人にとって、このワインは衝撃のはずですからね。
私は直ぐに宿を飛び出して、道行く人に訪ねながら『マルテラ商会』本店を目指します。幸いメインストリートのど真ん中に存在しており、三階建ての大きな建物が見えてきてましたが。
……うわー……外装が黄緑一色。何だろう、もしかしてマーサさんと似たような感性の持ち主なのでしょうか?なんだか不安になってきましたよ?
マーサさんは良い方なのですが、ピンクに対する拘りは周囲を苦笑いさせるレベルですからね。
私物全部がピンクなのは、正直引きました。私服は自重してくれていますが。
ちなみに私の服装は、まさに村娘スタイルです。もちろん夏なので半袖、頭には布巾を被っています。足元はサンダルスタイル。と言うより、この世界では裕福な人以外は草履やサンダルスタイルです。現代日本の感覚では理解が難しいですが、革で足を覆う靴を作るには職人の技が必要ですし革そのものも高価です。
なにより村人レベルになるとその日暮らしが当たり前ですから、そんな靴を買う余裕なんて無い。必然的に自分で編んだ草履やサンダルが主流になります。冬は寒そうです。
……まあ、出稼ぎに来た村娘くらいには見えますかね。ただ、見る人が見れば私の服の素材が真新しいものであることを見抜けるはず。庶民は服を着回すのが当たり前。服だって高価ですから。
ですが、私の服はエーリカが仕立ててくれたもの。生地も上質なものみたいですし、侮られることはない、はず。
黄緑の塗装に彩られた建物に多少気圧されながらも私は正門から中へと踏み込みました。
流石は代商人、吹き抜けの一階は大勢の人が慌ただしく行き交い、たくさんの荷物が運び込まれていました。良かった、内装は黄緑ではなくて落ち着いた感じですね。
私は往来を邪魔しないように注意しながら進み、受付らしき場所まで辿り着きました。
「ようこそ、『マルテラ商会』へ!ご用件を伺います」
対応してくれたのは身なりの良い受付嬢でしたので、用意していた言葉を紡ぎます。
「初めまして、『黄昏』から参りましたレイミと申します。この度帝国西部でも生産物の販売を行いたいと思い、先ずは『マルテラ商会』様へご挨拶に参りました」
「『黄昏』の方、ですか」
やはり『黄昏』の名前は知られていますね。農作物や紙、石鹸などは帝都を中心に大人気ですからね。貴族が奪い合うレベルで。
それを直接卸すのですから、『マルテラ商会』としても無視は出来ないはず。
受付嬢は私に断りを入れて奥へ向かい、誰かと……上司かな?と話を始めました。
いきなり会長とは言いませんが、先ずは重役に話を通せれば後々楽になります。
そう考えていたら、上司らしき男性が此方へ近付いてきました。
「お待たせ致しました。何でも『黄昏』の方だとか。本日の御用向きは、ご挨拶だと伺いましたが」
「その通りです。やはり西部で商売をするなら『マルテラ商会』にご挨拶をしなければ。ささ、こちら詰まらないものですが、お納めください」
私は持ち込んでいた『黄昏』産の果実、まあリンゴですね。それを差し出します。
この世界のリンゴは酸味が強くてとても食べられたものではなく、主に家畜の餌として利用されていますが『黄昏』の農園で収穫されたリンゴならば。
「美味いっ!いや、驚きました。リンゴがこんなにも美味しいとは」
試食した上司の印象は悪くない様子。
「今回はリンゴだけをお持ちしましたが、他にも様々な農産物を取り扱っています。味については自信を持ってお勧めできますよ」
「ええ、リンゴを美味いと感じる日が来るとは思いませんでした。帝都で人気の理由も分かります」
「ここでは流通していないのですか?帝都にはそれなりの量を卸しているはずですが?」
「残念ながら、帝都の貴族様方が粗方買い占めてしまいまして。レンゲン公爵様もお召しになられたことはないかと」
おや、使えそうな情報。
「なんと、女公爵閣下が!?それはいけません。少ないですが、献上品としてお納めしたく思います。何とかアポイントメントをとれませんか?」
「私ではどうにも……今会長がいらっしゃるので、相談して参ります」
「よろしくお願いします。これ、少ないですがお納めください」
私はそっと金貨を二枚取り出して握らせました。
「こっ、こんなに」
「手付け金とご理解を。もちろん会長にも別にご用意しております」
「たっ、直ちに!少々お待ちを!」
まあ賄賂でいきなり二百万円をポンと渡されたようなものですからね。後は上手く会長との話を済ませて、カナリア様とお会いできるように取り計らって貰わないと。