コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
俺が『無銘・永訣』を抜くより先に、晃弘は行動を既に起こしていた。
無数の斬撃を浴びせられ、大破寸前だった電車の強度上限を最大まで引き上げ、 乗客を護る為に斬撃を貫通しない壁と盾を生成。 その後、俺が居るであろう場所まで盾を構えながら猛ダッシュ。――― この間、約一分半。
短い猶予の中で乗客を護る最善の選択を取り、尚且つ仲間の援護に向かう。組織内のベテラン錬金術師でも難しい動きを、現に晃弘は難無くこなした。
そして、予め俺が『黒影・深層領域』内にメモを保管し、それを晃弘が回収する。 内容は「敵が『妖』の類」、「既に『妖力』を付与した弾丸を準備済み 」という事。
『黒影・深層領域』の中に手を突っ込み、メモを回収した晃弘は速攻で錬成を開始。
―――あの時、あの森で会った時と全く同じ銃を錬成する。一撃で必ず仕留める事が出来る上物を。
現場に到着した晃弘は、冷静に照準を合わせ、傷だらけで今にも死にそうな俺の奥、鎌を持つ『妖』の男を捉える。
「良く持ち堪えた、妖術師。後はこの爺に任せな」
最終兵器、化け物も獣も『妖』をも穿つ事が出来る銃。名を『双縄猟銃』。
空間支配系統魔術師『沙夜乃』を討伐した、日本最強と謳われている妖術師に、『双縄猟銃』を保有し、鋼鉄の異名を持つ錬金術師。
この瞬間、異様の最強コンビが誕生した。
「―――晃弘さん!!」
通常の猟銃とは比べ物にならない程の弾速で、俺の呼ぶ声を合図に『双縄猟銃』が火を吹く。
前に『妖』との戦闘した際は『黒影・深層領域』で回避したが、今は使えそうにない。体全身が傷だらけで、尚且つ妖力が残り僅かとなった。
最後の足掻きとして使った『焼炎』で大半が持っていかれたのだろう。………まぁ、使った事に悔いは無い。
――― 俺の耳元スレスレ、あと数ミリのズレが生じていれば頭が吹っ飛んでいただろう。
『妖』に対して完全なる特攻持ちの弾丸が、鎌男の胸より下、左上腹部を貫通。人の形をした肉を抉り、爆弾の様に弾が爆散する。
「――――ッ!!」
『妖』に隙が出来た。
予想外の攻撃を食らった挙句、内側から妖力による侵食が始まった身体が耐えきれずに、悲鳴を上げているのだろう。
『………あの錬金術師、拡張弾頭の構造を理解しているのか!!それも戦時に扱われていたモノと全く同じ!!………クハッ、面白いではないか!!』
いつもの事ながら、俺は常時『治癒の術』を使用している。ある程度の傷は癒え、辛うじて腕を動かせるまで動ける。――― ならば、取るべき行動はたった一つ。
負傷し、体が仰け反った鎌男に最高の一撃を打ち決める。
「鞘が外れなくても使えるモンは使えるんだよ!! 『無銘・永訣』!!」
鎌男に痛手を負わせる分には 申し分なしの強度、そして『太刀 鑢』より短い刀身が故に振りが速い。
しかし、鎌男もまだ諦めておらず、晃弘では無く俺目掛けて鎌を振り下ろす。体勢は仰け反った状態ではあるが、謎のバランス力で体勢を維持していたのだ。
『無銘・永訣』の振りと、『妖』の鎌の振り。どちらが速く攻撃を食らわせれるか、その一瞬で戦いの全てが決まる。
――― 時間が、スローモーションの様に遅く感じ、俺の『無銘・永訣』がゆっくりと、鎌男の頭蓋を斬る為に動き続ける。
もしこの攻撃が届かなければ、俺は再び死ぬ。何としてでも攻撃を当てなければ―――!!
「………っなぁんてな!! 」
実の所『治癒の術』の使用を解除すれば、もう一回妖術を使える程の蓄えはある。 ならば、絶対的チャンスの今、ココで使うのがベスト。
「―――蹂躙喰者!!」
空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦闘前、偽・魔術師との戦いで使用した術。 腕に黒龍が宿り、手を翳した先に居る者を喰らい尽くす。
しかし、妖力が足りない状態で使用したら、術は弱体化される。効果範囲内は精々3m弱が限界。
鎌男の心臓は既に晃弘が『双縄猟銃』で破壊している。残るは首、脳を直接破壊すれば『偽・魔術師』と同じように身体が崩壊して死ぬだろう。
だとすれば、黒龍が狙うべきは一箇所のみ。
「好きなだけ喰いまくれ!!」
鎌男の頭部に向かって、黒龍が迫る。
黒龍を鎌で弾くか。――― 無駄だ、弾丸程ではないとは言え、なかなかの速度で移動している黒龍に間に合わない。
直接、妖術師を斬撃で斬るか。――― 不可能、鎌はまだ振り下ろされておらず、二人の頭上で停滞している。
残された道は―――、無い。
「……っヨウジュツシィ”ィ”ィ”イ”イ”イ”イ”!!」
初めて聞く鎌男の叫び声が電車内に響く。 そのまま俺の『無銘・永訣』と鎌男の鎌が振り下ろされ―――
鎌男の頭部が勢いよく弾け飛んだ。
「「―――ッ!?」」
違う、これは俺の黒龍が喰らった訳では無い。俺の黒龍はまだ、鎌男に届いていない。
別の何かが、この鎌男の首を吹っ飛ばしたのだ。
首の飛んだ方向はこちら側、晃弘のいる方向へ飛んだ。故に、晃弘が撃った訳でもない。
けど、鎌男の奥には誰も居ない。
振り下ろされる寸前だった鎌は地面へと落ち、鎌男の体は勢いを付けたまま倒れ込んだ。危うく俺の顔と鎌男の体がぶつかりそうになったが、ギリギリな所で避けた。
「………っぶなぁ、どうにか間に合った……って所かな?」
何処からか声が聞こえる。いや、すぐそこに居る。 俺の立っている場所のすぐ右にある座席で、一人の小柄な少女が座っている。
二度も経験した俺なら見なくても感じられる程に 鋭い眼に、背筋が凍る様な圧迫感。 あの時と同じ感覚。
「………魔術師、なのか!?」
「い〜や、私は正式に言うと魔術師じゃないさ、なんたってこの力は借りたモノだからね」
「君たちの呼び方で言うと……『偽・魔術師』だったかな? 」
『偽・魔術師』、この少女はハッキリと聞こえる声でそう言った。天敵である妖術師の目の前で。
今すぐに『無銘・永訣』を横に振れば斬れる。けど、体全身が動かない。行動を拒絶している。
恐れているとかの話では無い、現に晃弘も動こうとしているが、足元が固定されているかのように止まっている。
「無駄だよ、君たちは気づいてないみたいだけどこの列車内に仕掛けを施して置いたんだ。私が魔法を展開した瞬間に―――、全てを凍らせれるようにね」
そうだ、足元をよく見れば直ぐに気づけたはずだ!!
まるでソコに存在しないとでも言いたげな程に透明で透き通った『氷』が、俺達を拘束している。
相手が氷なら炎を使えば対抗出来る。俺の『焼炎』を使えば……!!
「だから無駄だって、君の火力じゃこの氷は絶対に溶かす事は出来ない。――― それに、私は君たちと話をしに来たんだから」
目の前の彼女は少女らしからぬ笑顔、まるで悪魔に似た表情で言う。ケタケタと笑いながら。
「………偽・魔術師が俺達に何の話があるってんだ」
「すんなり聞いてくれる人間は好みだよ。率直に言って、私は魔術師を殺したい。 そして、この話をした理由はもう分かるでしょう?」
「妖術師君。君たちの目的である『魔術師を討伐する事』と私の目的が 一致 している、つまり魔術師を殺す為に協力して欲しいんだ」
「………は?」
この少女は今なんと言った。 魔術師を殺すとそして目的が一致している?協力して欲しい?
少女は『偽・魔術師』であり、妖術師でも錬金術師でも無ければ呪術師でも無い。……まぁ少女が奇術師と言うのならそれはそれで話は別だ。
しかし 、少女から発せられるオーラは魔術師特有のソレだ。
なによりあの晃弘が、”嘘を見抜ける” 能力持ちが何も言わずにただ黙っているという事は……少女は間違いなく『偽・魔術師』で、本当に魔術師を殺そうと……。
「………協力って、どう言うことだよ。俺とお前らは敵同士だろ?それに魔術師が魔術師を殺そうとしてどうするんだよ」
「ん〜…なんて言えばいいのかな。京都に居る魔術師とはどうも相性が悪くてね。彼から嫌われた私は京都から追い出されちゃったってワケ」
「だから、彼を殺して私が上に立つの」
今回の討伐対象である『京都の魔術師』。その魔術師を殺し、その地を統べるモノと成り代わる。――― 偽・魔術師による下克上の計画。
実質仲間割れ、狂ってる。
「それに、東京大規模魔法事件を起こせるのは魔術師であって『偽・魔術師』ではない。特に首謀者である彼を殺せば一件落着」
確かに、俺の目的は東京大規模魔法事件の犯人である魔術師を殺すだけ。『偽・魔術師』全員を殺すことでは無い。
この少女、この現状をよく理解している。一体何者なんだ。
「………もしも、だ。もしも京都の偽・魔術師を統一できる器になったとして、お前が一般人に被害を与えないとは考えにくい 」
「なぁんでそんな事言うかなぁ……、 私は殺しが嫌いなのさ。人殺しが嫌いだから、戦闘狂である京都の魔術師に嫌われたってワケ」
「――― それとさ、チラチラその爺さんを見てるのって何か秘密があったりして……?例えば『嘘か本当かが分かる』能力持ちとか?」
「………―――っその眼!!もしかしてお前も!! 」
情報の可視化に、能力の有無や詳細の確認。急所の見分けや居場所の把握。その全てを視る事が出来る力。
妖術師の術のみならず、ごく稀に忌み子として産まれる人物が保有する独特な眼。
「―――生まれながらの、『千里眼』持ちか……!!」
「ふふっ、ご名答」
千里眼を持つ人物は指で数えれる程に少ない。 俺の千里眼に関しては、妖術で擬似的に模倣した眼だ。
それに対し、少女の持つ千里眼は正真正銘の本物。俺の千里眼より圧倒的スペックを誇る天眼。
「………って、それは今いいでしょ?この案に乗るの?乗らないの?」
「…………っああもう分かったよ!!乗るさ、協力してやるさ!!」
少女は嬉しそうに微笑みながら、俺達の足元を拘束していた氷を溶かして見せた。
このまま『太刀 鑢』を取り出して首を斬る!!なんて事も出来るが、協定を結んでしまった以上、取り消す事は出来ない。
「交渉成立っ!!……あ〜それと、『妖』の頭が吹っ飛んだ件だけど。アレやったの、私」
「貫通した弾丸を受け止めて、再び弾き返した。だから そいつはもう生き返れないよ」
「………通りで、全然起きないと思ったら、妖力が残っていた弾丸で貫かれたから死んだのか」
正直、 あのまま黒龍が食いちぎる事も出来た……が、まぁ色んな意味で助けられたのには変わりがない。一応、信用しておこう。
そんな俺と少女のやり取りを見ていた晃弘が何か良いだけな顔をしている。
そりゃそうだ、自分の能力が一発で見破られた挙句、言葉を挟む間も無く契約が成立してしまったのだから。
「……その、すいません晃弘さん。一人で勝手に色々と決めてしまって」
「いや、ここで協定を結んだのは正しい判断だ。無駄に抵抗していたら、俺達が死んでいただろうな」
『偽』とは言え、魔術師と妖術師(+錬金術師)が手を組む事は前代未聞。 互いに利益が出るwin-winな関係な為、裏切りや寝返りする意味が無い。 ―――上手く纏められてしまったな。
これから目指す場所は変わらない。
京都府京都市に潜む魔術師の討伐。 現地集合の呪術師を含め、約四名の術師が乗り込む。
「……それでお前、名前は」
「―――名前?名前なんて別にどうでもいいじゃない。 私のことは『氷使い』って呼んでくれれば良いよ」
「いや名前の方が短くて呼びやすいと思うんだけどな……」
なんだかこの言い方だと、是が非でも少女から名前を聞き出そうとしてる学生じゃないか。……これ以上聞くのはやめよう。
「あぁ、それと君たちに聞きたい事があったんだ。危うく忘れるとこだったよ」
少女は椅子から飛び降り、スカートに付いているポケットから一枚の写真を取り出した。
「この顔の男に、見覚えがあるかい?」
徐に差し出された写真を覗くと、そこには一人の一般男性が写っていた。背が高く、大人感溢れるイケメン男性が―――、
「……………氷使い、この人がどうかしたのか?」
「実の所、君たちと協定を組む様に提案してくれたのがその男なんだ。いや〜驚いたよ、突然、私の前に現れたと思ったら “京都の魔術師を倒す方法を教えてあげる” って言われたからさ 」
「…………マジか」
汗が止まらない。
この写真に写っている人物は知り合いとか顔見知りとかそんなモノじゃない。それ以上の関係。
「………惣一郎さん、じゃねぇか」
俺と共に魔術師と『妖』を倒した、相棒だった。