帰る途中のことだ。魔界の端で水色の髪の少女が倒れていた。
グルは助けまいと無視をしたが
あることを思いついて、少女に駆け寄った。
「俺が手術するから父さんとサーフィーは帰っててくれ
天界については俺一人で行く。」
「…?分かった。」
グーロは曖昧な返事をすると
サーフィーと竜界まで帰っていった。
グルがペストマスクと黒衣を着ると
少女の上服を脱がせ、体を見た。
「傷だらけ…殴られたりしたのか…」
「ここにも痣。切り傷。」
「膵臓には癌。こりゃ大事だな。で、蜘蛛膜下出血?!」
膵臓癌は気が付きにくいもので
重症化したときにやっと気が付くものだ。
精神的なものと肉体的な疲労もあってか
参ってしまったようだ。
それに蜘蛛膜下出血だなんて冗談じゃない。
「手術開始」
グルは手を洗うと手袋を着けて
麻酔を打った。人工心肺装置などを素早く設置して
メスを手に取る。
腹部を切ると膵臓部分を覗き込んだ。
(あまり悪化していない…よかった。)
安心しつつも電気メスで癌の部分を切断し、縫合した。
この時点で普通なら喜ぶが、正直グルは
手術なんてどうでもよかった。
ただ、ある交渉をしたいということで
頭がいっぱいだったのだ。
膵臓癌術式が終わると
頭部分を開いて、素早く出血を止めた。
傷つけないように…慎重に。
少女の目が覚めると
グルはマスクを外してこう言った。
「…手術は終わりました。」
「貴方は軽い膵臓癌だったのです。
それに、蜘蛛膜下出血を起こしていました。」
「…………そうですか。」
「はい。」
「なら、お金はないので…せめて何かを…」
「そ…それなら、印鑑とかでどうです?」
「印鑑ですか?いいですよ?」
少女はポケットから印鑑を出すと
グルに手渡した。グルが印鑑を革のバッグに仕舞う。
「ありがとうございます。助かりましたよ。」
「いえいえ!助けてくれたんですから当然です。
あの…貴方、名前は?」
「私はグル・グリンです。貴方は?」
「私は__セノです。」
「セノさん…本当にありがとう。
私は、母を魔王に殺められ嘆き悲しんでおりました。
けれど、妻である貴方はお優しいのですね。」
「私は優しくないですよ…
グル先生、もしもいつか来たときは宜しくお願いします。」
セノが頭を下げると
グルは印鑑を離さずに持って
空を飛び立っていった。
(これで交渉が出来る。)
グルは天界まで行く途中にそう考え
喜びを噛みしめるような顔をした。
そんな中金色の鐘がグルの前に堂々と現れる。
キラキラと光り輝いていて
鐘の前には門番がいた。
「己、何者だ?」
門番が問うと、グルが鐘に負けないほど堂々と答えた。
「私は医療関係の者だ。
器具を買いに来た。そこを通したまえ。」
そう言うと、門番がグルを通す。
鐘の境を越えると、黄金の街が広がっていた。
朱色の提灯と天人の笛の音が最高に合っていて
グルはしばらくゆっくりと街中を歩いていた。
すると、器具の売っている店を見つけ
中へ入った。中にはメスなどの医療道具があり
選びきれなかったグルは全て購入してしまったのだ。
かなりの金額ではあったが
それほどの価値があった。
グルが満足して店を出る頃には日が暮れていて
鳳凰がヒョーヒョーと声を鳴している。
それと同時に叫び声が聞こえた。
コメント
2件
叫び声だと…?!こえぇ、