TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「では、九条様のプラチナプレートの件について移りたいと思います」


 ロバートは咳払いをすると、持っていた資料のような物を読み上げ始めた。


「えー。当ギルドは九条様の条件を全て受け入れ。九条様のプラチナプレートの所持と行使を認めるものとします。条件は以下の通りとなります。一つ目は、王都スタッグでの住居補助を受けない事。二つ目は、毎月の定額報酬を受け取らない事。三つ目は一年間は契約を継続していただく事です。万が一、行方不明や死亡してしまった場合はこの限りではありません」


 ロバートは無言で俺が頷くのを確認すると、次のページを捲る。


「そしてこちらが受け入れる条件は以下の通りです。王都スタッグ以外でのホーム設定を許可する事。もう一つは担当職員を現状維持とし、変更を保留とすることです」


 それを聞いてミアは嬉しそうに顔を輝かせると、息を弾ませ俺に寄りかかる。

 俺はその頭をやさしく撫でながら、ロバートには再度頷いて見せた。


「はあ。ギルド上層部を納得させるのは大変だったんですからね?」


 俺たちは王女であるリリーが圧力をかけたからだと知っているのだ。

 それを知ってか知らずか、まるで武勇伝のように語るロバートを見て、皆は笑いを堪えるのに必死だった。

 とはいえ、俺の条件を呑んでくれるよう説得したのも事実なのだろう。そう思うと邪険にはできず、一応の礼を込めて大人しくその話を聞いていた。

 正直、長すぎて欠伸が出そうではあったが、それが終わるとロバートはポケットからゴールドプレートを取り出し、それをミアに差し出した。


「ミア。これが今日からあなたのプレートです。ゴールドとしての初仕事は九条様のプレートと、このプレートに担当の証を刻むこと。場所は知っていますね?」


 ミアは込み上げてくる嬉しさで、はしゃぎたいのをぐっと我慢し、礼を言ってプレートを受け取り立ち上がる。


「ありがとうございます!」


 間髪入れずに振り返り、サッと伸ばす小さな手のひら。


「お兄ちゃん。プレート貸して!」


 それを見て思い出した。俺とミアが最初に出会った時のことを。

 あの時と同じだ。 プレートの同じ所を削り、傷付けることで担当と冒険者を紐付ける作業。それほど日は経っていないのに、なぜだか懐かしくも感じてしまう。

 ミアは俺からプレートを受け取ると、一目散に部屋を出て行った。


「九条様。今回ミアがゴールドに昇格したのは、他のプラチナプレートの方に配慮してのことです。どうかその意味をはき違えぬよう、よろしくお願いします」


 言われずともわかっている。実力ではない。勘違いしないでくれと言いたいのだろう。


「ええ。肝に銘じておきます」


 それを聞いたロバートは無言で頷き、溜息をついた。

 ようやく肩の荷が下りたと言わんばかりに盛大にだ。


「それでは私はこれで失礼します。ミアの作業が終われば、手続きはすべて完了です。九条様の御活躍を影ながら応援させていただきます」


 ロバートは頭を下げて一礼すると、ソフィアを連れて部屋を出て行った。


「ふぅ、やっと終わったか。長かったなあ……」


 バイスはソファにもたれかかり、気を緩めると天井を見上げる。


「さてと。これから忙しくなるわよ九条」


「なにがですか?」


「言ったでしょ? 貴族たちが派閥に入るよう勧誘しに来るって」


「でも俺は第四王女の派閥に入りましたよ? 他に属することは出来ないんじゃないですか?」


「もちろんそうなんだけど。ある程度の引き抜きは覚悟しておかないと。今よりもいい条件を提示するからウチの派閥に鞍替えしてくれって言ってくるでしょうね。しばらくはそれが続くと思うから用心しておきなさい?」


 仕方ない。勧誘といってもネストの護衛が終わるまで。

 王都にいる間だけ耐えればいいと考えれば、気が楽だ。


「じゃあ、私とバイスはノーピークスに行ってくるから、午後からは自由行動でいいわよ?」


 ノーピークスには、父親にプラチナの冒険者が自分たちの派閥に入った事と、ブラバ卿のことについて報告しに行くらしい。

 ノーピークスまでは馬車で片道四時間。帰りは夜中になるそうなので、先に屋敷に戻っていて大丈夫とのこと。

 ネストとバイスが出て行くと、ギルドの応接室に残ったのは俺と魔獣のカガリ。

 耳をすませば聞こえて来るのは、街の喧騒と冒険者たちの騒がしい声が混ざり合ったノイズだけ。

 ただミアの帰りを待っているだけというのも暇である。

 そう考えた俺は、カガリをモフモフしながら待つことにした。


「カガリぃ」


「なんですか!? いきなり抱き着くのはやめてください!」


 普段はミアがいる手前できないのだ。誰もいない時ぐらい、たまには俺にもモフらせろ。

 じゃれ合いながらもバタバタと転げまわっていると、ついには諦めカガリは俺に腹をさらけ出した。

 ほぼ毎日のお風呂とミアの卓越したブラッシング技術により生み出されたふわっふわの毛皮は、最高級羽毛布団を超えるほどの温かさ。

 そこに顔を埋めれば、一瞬にして夢の中へと旅立てるだろう。


「なあ、カガリ。なんでネストさんの事そんなに毛嫌いするんだ? ミアの事は誤解だって説明したじゃないか」


「ええ。それは理解しました。主とそれなりに友好的な方なら触れられるくらい平気ですが、彼女だけはダメです」


「なぜ?」


「クサイんですよ! 彼女からは自然にはない臭いがします!」


 自然にはない臭い? 具体的にどんな臭いなんだ?

 カガリが人間の嗅覚より優れているというのは理解出来るが、俺が気になるほどの匂いはネストから出ていない。

 むしろ良い匂いがするくらいで、鼻につくような匂いは……。


「もしかして……香水がダメなのか?」


「香水と言うんですか? とにかく近づくと鼻がツーンってなるんです! 触られるとその臭いが付きそうでダメなんですよ!」


 そんなことだったのかと呆れてしまうが、カガリにとっては大問題なのだろう。

 ネストはカガリを触りたがっていたし、後で教えてやろうとも思ったのだが、なにかの交渉材料として取っておくのも悪くない。


 悩みがすっきりと解決したところでモフモフを再開すると、作業を終えたミアが戻って来た。


「お兄ちゃーん。でき……た……」


 開け放たれた扉の前に立つミアと目が合った。掲げられた右手には、同じ場所が削られたプレートが二枚。

 ひっくり返ったカガリの腹に覆いかぶさる俺に、それを見つめるミア。

 上手く言えないが、浮気現場を見られたような気まずい雰囲気。昼ドラとかでよく見るヤツだ。

 この後、浮気男は殴られるか泣かれるかするのが定番であるが、果たしてミアの反応は!?


「……ああ! 私もやるう!」


 ……でしょうね。そもそも魔獣が恋愛対象になるはずがないのである。

 俺が占有しているにもかかわらず、勢いよくカガリへとダイブするミア。


「ちょ……二人同時は……さすがに……」


 抵抗を試みるカガリをがっちりホールドすると、二人仲良くモフモフを堪能したのであった。

死霊術師の生臭坊主は異世界でもスローライフを送りたい。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

32

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚