「あー、暑い〜」
「しょうがないでしょ、エアコン壊れてるんだから。窓開けて我慢しなさい!」
8月上旬、小学5年生になったゆうきは車に乗せられ田舎である岡山県に向かっていた。最高気温である37度を超えているというのに車のエアコン機能が壊れている。
「あ〜、外の風もぬるい….」
ため息をつきながら田舎を目指していくゆうきであった。
だが、まさかこの帰省でかけがえのない存在になる人物に出会うとは誰も思っていなかった。
「おばあちゃ〜ん!」
「お〜、ゆうきか。おかえりぃ」
おばあちゃん家に着いたゆうきは1年ぶりに会う祖母に抱きつく。
「もう、ゆうきったら。お母さんご無沙汰してます」
「まぁなみえさんよー来たなぁ!ゆっくりしていってなぁ」
「はい、ありがとうございます!」
「母さん、帰ったぞ」
「おー、健二。よー帰ったなぁ!」
玄関でたわいもない話をし始めた両親ふたりを見て、早く遊びに行きたくなった。
「おばあちゃん、遊びに行ってきていい?」「あ、おおう、ええよ。あんまり遠くへ行かんようにな?」
「そうよ、夕飯までに帰るのよ?」
「わかってるって!」
そういうとゆうきは勢いよく階段をかけ降りていった。
変わらない景色、山に囲まれた静かな空間。勇気はそれが好きなのだ。今住んでいる大阪はお世辞でも静かなところとは言えない。だからこの一年に一回の休みを楽しみにしているのだ。「はぁ、やっぱここだよなぁ」
小さなお宮の床に座って景色を眺める。
「ふぅ….」
「あんた誰?」
「ん?」
声がした方を見るとワンピースを着て麦わら帽子を被った女の子らしき人がたっていた。顔は帽子のつばでよく見えない。
「あんた誰なん、ここ私の場所じゃけんどいてくれん?」
「は?」
「聞こえんかった?、じゃあもう1回言うてあげる。そこは私の場所じゃけん、どけ言うとんじゃ!」
そう怒鳴った瞬間、風が吹き帽子が揺れる。「わぁ!」
その女の子は当時のゆうきでもわかるほどの可愛さだった。髪はロングで前髪が揺れている。「何を言うとん、出ていき!」
はっ、と我に返ったゆうきは負けじと対抗する。
「別にいいだろ、ここはみんなのものだ!」「私はここに10年住んどんで、見たことない顔じゃけん都会からばあちゃんちに帰ってきたってところじゃろ?」
「な、、、」
「よそもんははよぉ出ていk」
「俺は生まれた時からここに帰ってきてる、生まれてから3年間はここで住んでたんだ!。お前こそ見ない顔なんだから出ていけよ!」
そういうと女の子は泣くふりをしだした。「う、う、うぇーーん」
「は、大袈裟だろこんなことでなくなよ」
そう言って女の子の肩を触ろうとしたその時。
パシっ
「え?」
「もらった」
そういうと女の子はゆうきの顔面めがけて拳を突き出す。とっさに腕でガードする。
「いってぇなぁ、なにするんだよ!」
「話でどうにかならなそうだから、力でどうにかするしかないじゃない」
「そんな、、、俺別に君と戦いたいわけじゃ」「うるさい!」
そういうと女の子は回し蹴りや前蹴りを炸裂する。柔道を習っていたゆうきはそれを華麗にかわしていく。ゆうきは驚いていた。こんな可愛い子がこんな技をできることに。
「な、なんで当たらないんよ」
「俺だって柔道習ってるんだよ、当たらないさ」
「私だって空手と剣道習ってるわ、あと….」
そう言いかけた時
「あ、わかった!」
「え、なにを?」
「勝負しましょ」
「え?」
「勝負して勝ったらここはどっちかのもの、ええ?」
「い、いや、勝負なんて大袈裟な」
「なに、怖いん?」
「怖くねぇよ!」
「じゃあ勝負な!」
「なにするんだ?」
「相撲で勝負、力比べよ」
「え、力比べ?」
「なに、弱いと思っとるんか?私こう見えても強いで」
「そうなんか?」
「なんか、疑っとるじゃろ。絶対勝ってやる!」
「い、いやまずその格好じゃあ服が汚れるよ?」
「それも、そうだな。着替えてくる、あんた体操着持っとる?」
「持ってないよ」
「じゃあ私が貸すけん、追いてきい。ついでにあれも貸しちゃる」
「あ、う、うん」
何が何だか訳が分からないゆうきに対して、女の子は腕をとって山奥へと連れていくのだった。
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