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「・・・リーファン・・・リーファン・・・」
真っ暗闇の沼からリーファンは徐々に浮き上がって来た・・・
目を開けて優しく自分を呼ぶ声に顔を傾けるとピンクの制服を着た看護師がリーファンの脈を取りながら言った
「ああ・・・目が覚めましたか?手術は成功しましたよ」
一瞬リーファンは何のことか分からなかった、辺りを見渡してみると、ここは病棟で、自分は病院のベッドに寝かされてる
「手術・・・?」
何のことか分からない様子の彼女のベッドの横に座って、中堅の看護師が優しくリーファンの額を撫でた
「麻酔から目が覚めたばかりで、まだ混乱しているのね・・・あなたが受けた中絶手術は成功しましたよ」
「中絶・・・」
その時にどっとデジャブが押し寄せた
隆二と過ごしたあの夏の日・・・病棟の窓から見る季節はすっかり秋めいていた、父に説得されて隆二を諦めたリーファンは、なんと数か月後には彼の子供を妊娠していた、隆二の声がまた呼び返る
―最後の生理はいつだった?―
―今月の最初の週よ―
―だったら大丈夫だ、まだ排卵日じゃない―
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またしてもあの男に嘘をつかれていた・・・
真っ青な顔をしたリーファンは壁の方に寝返りを打ち、そしてそのまま動かなくなった、その背中が世の中すべてを拒絶していた、看護師が彼女の肩をポンポンと叩き、優しく言った
「起き上がれる様なら、もう今日は帰れますよ、また一週間後に診察に来てください」
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産婦人科を出るとトラックにもたれて、ハオがリーファンを待っていた
「・・・大丈夫か?」
ポンポンとハオは優しくリーファンの背中を叩き、彼女をトラックの助手席に乗せた、ハオの運転するトラックの振動が手術を受けて来たばかりのお腹に響き・・・リーファンは顔をしかめた
「ああ・・・少し辛いだろうけど我慢してくれ、クッションを持ってきたらよかったな、嫁さんがラーメンを食いに来いと言っているぞ、お前の為に小麦から作ったんだよ」
ハラハラ頬を涙が伝う・・・
リーファンは無言のまま首を振り、ひたすら涙を流した、誰とも話したくなかった、早く一人になりたかった、しばらくしてハオが優しくリーファンの頭を撫でた
「可哀想に・・・都会の悪い男に騙されて・・・でもな、リーファン、お前だけじゃないんだよ、こんな話は世の中には山ほどありふれているんだ、この事はもうお前の心の引き出しに閉まっておきなさい」
そうハオは優しくリーファンを慰めた
家につくとそこは誰もいなかった、父は陶芸の会合で夕方まで帰ってこなかった
リーファンは自分に起こったことがあまりのショックで体中の力が抜けてしまい、しばらくその場に立ったままでいた
隆二の言葉が蘇る
―リーファン・・・君ほど綺麗な女は見たことがない―
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父の言葉が蘇る
―あいつは妻も子供もいる、おまえとは結婚する気はないんだよ―
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リーファンはソファーに座り、目の前にある陶芸の雑誌のページをゆっくりとめくり続けた
目は雑誌を追っていなかったけど、無意識にページはめくれていった
最後までめくると雑誌を丁寧に閉じてから、テーブルの真ん中にキチンと置いた
それからゆっくりした足取りで洗面所に向かい、引き出しを開けてカミソリの刃を取り出すと
それを自分の手首に深く切り込ませた