血液が生乾きのような、嫌に鼻にくる匂いがする。
死体は切り刻んでも血がでない。心臓が止まり血液が循環しなくなり、凝固するから。
「らっだぁ」
だれ?
もっと、顔を見ないと分からない。
声のする方へと伸ばした手は空を切って届かなかった。
鈴の音が鳴り、入り口のドアが開く。
「よ、らっだぁ。来たぞ」
見覚えのない顔の男が、俺の名前を呼びながら店に入ってきた。
「…どなたでしょうか」
すると少し驚いたような、呆れたような声色で
「…俺、金豚。もう忘れたんか? 」
嗚呼、そうだ。
彼はクラスメイトの金豚 という男だった事を思い出した。
よくよく考えれば、俺をらっだぁなんていうあだ名で呼ぶ数少ない友人だ。多分。
友人の定義はよく分からないが、少しながら仲の良い知り合いは友人だと思っている。
「お前がバイトしてるって聞いたから来てやったのになぁ〜…」
いつもと変わらない、この辺では珍しい関西弁を使う彼を見て、少しほっとした。
「ごめんってwはい、メニューどうぞ」
「ん」
少し店のメニューと睨み合いながら、コーヒーを頼まれた。
カウンターに向かい、棚からコーヒー豆を取り出す。
削って、お湯を淹れて、完成。
簡単そうな工程に見えるが、想像よりも時間がかかるし、淹れ方にもこだわりがある。
淹れている間、ふと彼の方を見た。
窓際の席に座り、机に肘をつきながら外を見ている彼は絵になるような美しさを放っていた。
これがモテる男って奴か、なんて自分からは程遠い景色に圧倒される。
きれいだな。と小学生でも言える感想を脳内に述べながら、淹れたてのコーヒーを持っていった。
「お待たせしました、コーヒーです」
「ありがとな」
ワインを嗅ぐような手の動きでコーヒーを嗜んだ後、まだ熱いコーヒーを一口。
うま、と呟く彼を見てきっと意識して言ってるんだろうけど嬉しいことに変わりはない。
それが顔に出ていたのか、ニヤニヤしてどうした〜?と軽くいじられた。
「ん〜!美味かったわ!また来るな 」
「ありがとね」
「らっだぁいつ上がるん?」
「あ〜…もう上がろうかな」
「じゃあ外で待っとるわ」
「え…おっけ〜」
そんな仲だったっけ、と少し心配になる。
路地裏に呼び出されてカツアゲされる映像が容易に想像できてしまう。
いやいや、と脳の雑念を振り払って、店のエプロンを脱いだ。
「お、お疲れさん」
「…きょーさん。」
身支度を終わらせて、裏口から出ると煙草を吸っている彼が居た。
何で裏口知ってるんだろ。てか未成年だよね?
色々質問をしたくなったが、気まずくなりそうなのでやめた。
「なぁ、今度どっか行こうぜ」
「ん〜…場所による、かな」
学校もあるし、と付け加える。あと2年後には受験も控えているし。
「そうやな〜…」
う〜ん、と唸っている。てかそんなに仲良かった覚えがないんだが。
「休日に行きたい所あるんやけど…。付き合ってくれるよな?」
「…」
圧、とでも言うのだろうか。彼の言葉についには負けてしまった。
「はぁ…しょうがないなぁ」
「よっしゃ〜w 」
「ところでお前、知らん人居ても大丈夫だよな?」
「え゛」
彼の黄色いパーカーから、染みついた煙草の匂いがした。
次 ♡_1 and気分
今出てる方と比較して好評だった方を出します。
あとこれ薔薇入れるかもしれません。もし入ったら地雷の人は回れ右
コメント
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入れる可能性だけでも嬉しいです(;´༎ຶٹ༎ຶ`)