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宮毘羅
20
目覚めた時は、朝だった。
天井がやけに白くて、やけに遠い。
俺はすっぽんぽんでベッドに寝かされていた。
「ん……?」
脳に血が回っていなくて、呻くような声が漏れた。
するとベッドの上に突っ伏して眠っていたママ上と、子犬形態のナハトがむくりと起き上がる。
「ラウルちゃん!?」
「ラウル~~!」
ナハトが飛びついてきて、その後にママ上が抱きついてくる。
「こ、ここは……?」
「ネグロ村から、少し離れたジャスミン村の宿よ」
「え? なんで……」
俺達の声を聞いて、ヨハンナやフリーデたちも集まってきた。
「バカ野郎お前、枯れ木みたいになっちまいやがって!」
「大丈夫ですか王子!?」
言われて俺は自分の手を見てみると、いつものむちむちのクリームパンみたいな手ではなく、やせ細ったゴボウみたいになっていた。
「カロリーが……全部なくなってる。な、なにが……」
「なにが、じゃねえよ! ドラゴンに変身したお前が、地下からドゴォォォンって出てきて、オンギャァァァって叫びながら、火をブワーッて吐いて回ってたんだぞ!」
「そんな、こと、起きんやろ」
「あれを見ろって!」
ヨハンナがドラゴンの動きの真似をしながら、窓の外を指差す。
その先には、燃え尽きたブドウ畑、破壊されたいくつもの家。
ほぼ壊滅したと言っていいネグロ村があった。
「俺が、やったのか?」
「ガオーって暴れまわった後、エネルギーが切れたら人間に戻ったのよ」
「あのままドラゴンから戻らなくなったら、どうしようかと思ったぜ」
ママ上とヨハンナは、凄い光景だったと振り返る。
「……ほんとに竜になったのか……あれからどれくらい時間経った?」
「まる二日寝続けてたぜ」
「皆大丈夫だった? もしかして俺村人ごと全員焼き尽くしたとか?」
「いえ、住民も魔族も全員、この村に避難させましたので死傷者は最低限です」
フリーデがやってくれたなら安心だ。
「フリーデとバルト将軍は子爵のことは聞いた?」
「はい、ネグロ村でブラッドストーンを生成していたこと、魔族を生贄にしていたことも」
「それを隠蔽しようと、子爵と村人が王子を襲ったことも聞きましたぞ」
「そうか……」
俺の口からも話さなきゃいけないことがいろいろあるが、何もかもがぼんやりしている。体がまるで他人のものみたいに重い。
「……カロリー、を、持ってたもれ」
それから俺は、緊急用に持ち歩いているドーナッツ20個を食し、どうにか頭が回るようになってきた。
ゴボウみたいな体も、少しだけ膨らんでいく。
そのタイミングで、フリーデが昨晩の竜化について推測を行う。
「王子の竜化現象は、恐らく聖剣に宿る神竜の魂が、王子に憑依したものと思われます」
「俺もそう思う。ドラゴンヘッドカリバーを持ってたら、急に声が聞こえてきたんだ。あれは人の身には倒せぬ災厄。竜を己の身に宿せって」
「王子は聖剣と交信ができるのですか?」
「わかんない。ほぼ一方的に話してきたから」
「なるほど……」
「あの眼球はどうなった?」
「王子がドラゴンの姿で炎に包み……そのまま消滅させました」
「……そうか。あの眼球、本当にニーズヘッグの体の一部だったのかもな」
「邪竜の復活を察知して、神竜が反応したのでしょう。元より聖剣は、ニーズヘッグ復活に備えた、召喚器の役割がありますから」
父上から話を聞いたな。聖剣には神竜の体の一部が封印されていて、悪竜が復活しそうになったらLEG◯ブロックみたいにパーツを集めて復活するって。
今回はニーズヘッグの瞳に反応して、封印されていた神竜が迎撃体制に入った。
しかし俺の持っていた聖剣2本では、復活することができず、王の証を持つ俺を依り代にして復活したってことか……。
更に不完全体で召喚されたことで、ほぼ暴走状態になり村を破壊してしまった。
「地下にいた魔族たちは無事か?」
「全員避難させました。重傷者はおりますが、命に別状はありません」
「そうか……民じゃなく、魔族を助けた俺は、王族失格かな?」
「いえ、魔族であろうと命を尊重する判断。ご立派です」
「それに王子の勇敢なる決断で、ニーズヘッグの瞳を消滅させることができました。気を落とすことはなにもないですぞ」
バルト将軍とフリーデが、同時に力強く言った。
「ラウルちゃんのおかげで、とってもかわいそうな目にあってる魔族が助かったんだもん。ママ、絶対正しいことをしたと思うわ」
「そうだぜ。ああいう奴らは、弱い奴らをとっ捕まえて死ぬまで虐げるんだ。しかも法律が許してるって、法を盾に開き直りやがる。一番たちの悪い悪党だろ」
悪党か……でもイヤミル派の人間からしたら、法律に触れてないのに村を壊滅させやがって、と俺が悪党になるんだろうな。
そんなことを考えていると部屋のドアが控えめに開き、青髪に金の瞳を持つデーモンの少女が入ってきた。
サキュバスのナハトと容姿はよく似ているが、肌色は青白くコウモリ羽を腰から生やしている。
豊満なボディラインが完成されており、背丈も高くて成熟した大人の女性の雰囲気が漂う。
彼女は俺のベッドの傍まで歩いてくると、じっと俺を見つめた後膝をつく。
「どうしたの?」
「我が名はネロ・ベルゼリア。一昨日は失礼した、竜の王」
「いや、竜の王ではないが」
「一昨日竜へと変身する姿を見た。あれは伝説の竜王に違いない」
「いや、そんなラスボスではないんだって」
「我らにはわかる。あなたは同じ人間より我ら魔族を救ってくれた。それはあなたが魔族の力を宿しているから。あなたは魔族の心を持っている」
「ち、違うんだけどな」
「それに魔族を引き連れてる」
ネロは、ナハトとママ上に視線を向ける。ナハトはともかく、ママ上がサキュバスだと気づいているようだ。
「いや、二人は嫁というかハーレムというか……」
「ハーレム! 魔族をハーレムにするとは、さすが竜王」
ネロは目を見開いて驚く。
「いや、そうじゃなくて。間違ってもないんだけど」
「魔族を後宮に入れる王、滅多にない」
「ま、まぁそうなんだけどね」
「我らデーモン族、竜王に忠誠を誓う。竜王の姿を見て、各地より魔族が集まってきている」
ネロが窓をさすと、宿の外の広場に多数の人外の者たちが集っている。
デーモン種だけでなくスケルトン族や、魔狼族など様々な種族がいて、皆宿を見上げていた。
もしかして、俺達を襲撃に来ただけでは? と一瞬思ったが、スケルトン達は手にした槍にリガルドの国旗を巻き付けて、大きく振っている。
「う、う~む……魔族の軍隊が集結している」
「我ら、魔竜の王の傘下に入る」
勝手に入られても困るのだが、これは助けたからには最後まで面倒を見ろということなのだろうか。
これあれだろ、またラウルが魔族だのアンデッドだのを引き入れて、よからぬことを企んでるとか噂される奴だろ。
コメント
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第96話、読了しました! ラウルがドラゴン化した代償がゴボウみたいな体になってしまうところ、そして「民じゃなく魔族を助けた俺は王族失格かな?」という問いに仲間たちが全員で「正しい」と背中を押すシーンがじんわり来ました。聖剣と神竜の仕組み、ニーズヘッグの瞳との関連も伏線らしく引き継がれていて好きです。最後の魔族軍団の「竜王」宣言も、ラウルの困惑顔が目に浮かびますし、また面倒な立場に巻き込まれそうな予感が笑えますね。次が気になります!