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先ほどの雨上がりから一転、夜空は低く垂れ込め
不気味な地鳴りのような雷鳴が王都の空に響き渡った。
次の瞬間
バケツをひっくり返したような猛烈な豪雨が、逃げる間もなく私を襲った。
「っ…………!」
屋根のない狭い路地。
体は瞬く間にずぶ濡れになり、服代わりの布が重く肌に吸い付く。
その瞬間、呪いの力が牙を剥いた。
冷たい雨粒が肌に触れるたび
皮膚の奥底から焼け付くような、引き裂かれるような灼熱の感覚が突き上げる。
足首から、膝へ。そして指先から、肩へ。
まるで隠していた偽りの皮が剥がれ落ち
本性が剥き出しになるように、虹色の鱗が次々と浮き上がってくる。
深い闇夜の中でも、それは隠しようのないほど美しく、そしてこの世界では「異形」とされる輝きを放っていた。
「消えて、消えて…………っ!」
私は濡れたレンガの壁に背中を預け、必死に自分の体を抱きしめて隠そうとした。
けれど、雨は容赦なく降り注ぎ、鱗の面積は刻一刻と広がっていく。
足元はすでに人魚の半分に戻りかけたように、奇妙な魔力に包まれて光を放っていた。
もし今、ここを誰かが通りかかったら。
私は「化け物」として捕らえられ、シエルと結ばれるという希望も
私の存在そのものも、この夜に消されてしまう。
10年越しの再会が、こんな絶望的な形で終わるなんて。
私はガタガタと震えながら、雨のカーテンの向こうを見つめた。
涙と雨が混ざり合い、視界が白く霞んでいく。
そのとき。
背後から、コツン、コツンと規則正しい、落ち着いた足音が聞こえてきた。
「……そこにいるのは、誰?」
低く、けれどどこか温かみのある、あの頃と変わらない深い声。
同時に、私の頭上を叩いていた激しい衝撃が消えた。
誰かが、私に傘を差している。
心臓が、凍りついたように止まった。
指先まで強張り、振り返ることができない。
見られた。
隠し通さなければならなかった、人間ではない、異形の姿を。
ゆっくりと、傘を差した男性が私の隣に並ぶ。
街灯の淡いオレンジ色の光に照らされた、その横顔。
吸い込まれるような深い蒼い瞳。
「ひどく濡れているじゃないか。大丈夫……?」
差し出された、白くて綺麗な手。
それは、10年前のあの夏の日、瀕死の私を救い上げてくれたあの温かな手だった。
「……シ、エル……?」
かすれた声で、祈るようにその名を呼んだ瞬間
シエルの瞳が驚愕に大きく見開かれた。
私の足元で、雨に濡れて煌々と、そして不吉なほど美しく輝く虹色の鱗。
そして、泣きじゃくる私の瞳。
「どうして僕の名前を……って、その鱗……人魚……っ? まさか───」
言葉が続かないシエルの蒼い瞳に、困惑と、そして信じられないものを見るような衝撃が走る。
二人の視線が、10年の時を飛び越えて、激しい雨の降る路地裏で重なり合った。
#ロマンスファンタジー