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15
はるか
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『愛なんて、』 第4話
写真を送った後、スマホを元の位置に置く。
しばらくすると、トイレを済ませた仁人が戻ってきた。
「ほら、ジェラート溶けてるよ?早く食べないと」
「あ、やばいやばい、いただきます」
仁人はスマホを見向きもせずに、頼んでおいたデザートに手をつけ始める。スプーンで掬ったものを口に入れると、ふにゃ…っともいうようなかわいらしい効果音がつきそうな表情。
「葡萄の味が濃くって美味しい…ほら、柔太朗も食べなよ」
「食べさせて?」
「…え!?」
「ふふ、さっきからびっくりしすぎ」
「だって、変なこと言うからッ」
口を半開きで待っているものだから、仕方なくジェラートがのっているスプーンを差し出す。ぱくりと柔太朗の口の中へ消えていき、「美味しいね」とぺろっと舌舐めずりをした。さっきから色々と心臓に悪い…
モテる男はやることが違うなぁと逆に感心してしまう。
それからスプーンはとまらない。1番の目当てのパフェも、タルトも全部が美味しい。
シェアしつつ、ぱくぱく食べてる間、柔太朗はずっとこちらを見つめてるものだからちょっと恥ずかしかった。
「アイスコーヒーも美味しいね」
「…そうかな?俺はよっしーが淹れた方が好きだけど」
「まぁ好みは人それぞれだから…でもいつも褒めてくれてありがとう、ひとりでもそう言ってくれる人がいるだけで頑張ってる甲斐がある」
「ひとりでもって…俺以外にもいるの?そう言ってくれる人」
「……っあ、…」
『仁人が淹れたコーヒーが世界で1番美味いよ!』
忘れもしない、勇斗がいつか言ってくれた言葉。まだ知識も技術もなく、淹れるのなんて今より全然下手で、たいして美味しくないコーヒーだっただろうに嘘のない眩しい笑顔で真っ直ぐな言葉で伝えてくれた。自分にだけに向けてくれるあの笑顔が大好きだった。
「…誰のこと考えているの?」
「……いや、なんでもない…」
「そんなわけないでしょ、そんな物思いにふけるような顔して…今一緒にいるのは誰?俺でしょ?」
「……柔太朗?」
「仁人」
「……ッ」
ふいに呼ばれた名前にドキッとした。
自分の手に重ねられる柔太朗の細長くすらりとした綺麗な指先が触れられる。
重なり合っている部分がとても熱い。
「店で見かけた時から一目惚れだった……」
店員がいない隙を狙ってかガタンっと柔太朗が身を乗り出して、手が伸びてきた。後頭部に手を添えられたかと思えば、グッと強い力で引き寄せるようにすればお互いの顔が近づく。
「…じゅうたろ、」
「仁人が好き」
ーーー唇が重なった。
温かくて柔らかい、唇。
驚きで体は動かなくて、目を見開く。
柔太朗の閉じていた目が開いて、視線が交じり合った。一瞬、嬉しそうに目を細めていたが気がした。
一瞬の出来事のはずなのに、長く感じた。
ゆっくりと唇が離れていく。
柔太朗は変わらず真剣な顔をしていた。
「俺にしなよ、仁人」
「なに…」
「俺の方が幸せにしてあげられる、絶対」
※
揺れる電車内で窓の向こうに広がる、ただ過ぎていくばかりの景色を立ったままぼんやり眺めていた。
あの後、柔太朗からの告白に返事ができずお金を置いて逃げるようにお店を出てしまった。引き止めようとする声が聞こえたが、聞こえてないフリをしてしまった。
勇斗という大切な人がいるのに柔太朗からの告白にすぐ断る返事ができなかった。あの真剣な瞳に心が少し揺らいでしまったのだ。
最初はお店の常連客で。なぜか懐かれてしまって、甘えてくる感じは年下の可愛い弟のようなそんな存在だった。
だけどいつからか距離が近くなって、自分のことじゃないのにこうして一緒に出掛けたり、元気づけようとゲーセンに連れてってぬいぐるみをくれる優しさとかだったり、相手のことを考えてしてくれるその行動がとても嬉しかった。
そんな優しい柔太朗のことを好きになりかけているそんな自分に嫌気が差す。勇斗を裏切りつつあるのだ。
「最低だ、俺……」
きちんと返事をしなきゃ、柔太朗に…
「(勇斗に連絡するの忘れてた…)」
ふと思い出してカバンからスマホを取り出す。
出掛ける前に帰る時連絡すると伝えたのに、すっかり忘れてしまっていた。
今頃だけどこれから帰るということを送っとこうとメッセージアプリを開いて、勇斗とのトーク欄を開く。
「………え?」
なんで、柔太朗との写真が勇斗に送信されているんだ?
「…なんで?どういうこと?」
既読がつかれてる。でも返信はない。
血の気が引いてスマホを持っている手が震える。うまく呼吸ができない。
自分で柔太朗に送ろうとして間違って勇斗に送ってしまった?でも勇斗に勘違いされそうなことするだろうか?わからない。なにかの手違いで送ってしまったのだろうか。
帰るというひと言を送ることができない。
指先が震えて押せないのだ。
返信がないというのは、怒っているのだろうか。
結局、返信できないまま最寄りの駅に着いてしまった。改札を抜けて外に出れば、日はすでに沈みかかってて薄暗かった。
家へ帰る道を重い足取りで歩く。
ついため息が出そうになる。こんな複雑な気持ちになるのは初めてだ。できれば家に帰りたくないと思ったものの、自宅であるマンションに到着してしまった。
「…ただいま」
鍵を開けてゆっくりと玄関に入れば、家の中は暗かった。電気がついてないようだ。
もしかしたら外出中なのかもしれない。でも今はそうであってくれとすら願ってしまいくらい、できれば勇斗には顔を合わせずらかった。
「…勇斗?」
廊下を抜けてリビングの電気をつけても、そこに勇斗はいなかった。その風景にほっと息をついた瞬間、急に背後に人の気配を感じて振り返る。
「……ひっ、」
「おかえり仁人」
振り返った先には勇斗がいた。
まさか家にいると思ってなくて驚いて小さく
悲鳴のようなものを上げてしまった。
「…い、いたんだ勇斗…部屋暗かったから出掛けてると思った…」
「居たらダメだった?俺は仁人から全然連絡がないから心配してたんだけど」
「ごめん、忘れちゃってて…」
「俺のこと忘れちゃうくらい楽しかった?あの男と」
「……っあ、……」
スマホの画面を向けられた。
そこに映っていたのは、自分と柔太朗がくっついているあのツーショットだった。
「モデルの山中柔太朗だよね?なんで仁人、こいつと知り合いなの?こんな親しげに肩なんか組んじゃってさ…一体どういうことなの」
「…柔太朗は、お店の常連客で……」
「下の名前で呼んでるの?そんなに仲良いんだ…なにかこいつに騙されてるんじゃないの?大丈夫?」
「……柔太朗は!…人を騙すようなこと…しない…優しい人だよ…」
庇うような返事に勇斗は苛立つような表情をした。持っているスマホがミシッ…っと音を立てる。
「常連客と出掛けたりしちゃうんだ、ずいぶんと人たらしなんだね、誘ったりした?」
「…何、言ってるかわかってるの…」
「わかってるよ…俺は仁人の夢のために頑張って仕事して、残業までして、資金に少しでも足しになればと思ってたのに…経営に詳しい人とかに話聞いたりして少しでも仁人の役に立てればって思って……それなのに仁人は、他の男と遊んだりしちゃうんだ」
「勇斗…」
「…同僚や後輩たちは、結婚してて子どもも産まれてるのに、みんな先へ進んでいるのに俺だけひとり…残されてる気分になって…今のままだと仁人との未来が見えない…怖いんだ…」
ひどく弱々しい声色だった。
勇斗の本音を聞いて何も言えなかった。
大丈夫だよ、なんて軽々しい言葉なんて言ってはいけない気がして喉元に突っかかったままだった。
不安になっている勇斗を抱きしめようとしたけど体が思うように動いてくれない。
それくらい吐露された思いが重くのしかかってきてショックだった。
ふたりでいればなんとかなると思っていた。
でも自分の夢のせいで勇斗の将来を踏み潰してしまっているんだ。
それなら、もう……
「ねぇ勇斗…俺たち、出逢わない方がよかったのかなぁ」
続
コメント
3件
ががががががが泣き泣き泣き泣きsnさんの本音がもうちょっと聞きたいところですね………
わぁぁぁぁぁ😭 どうなっちゃうんでしょうか…。 できれば、二人とも幸せになって欲しいです…😭 それぞれの気持ちが刺さって、痛いですね…。
ああ〜〜〜〜!!!第4話、めちゃくちゃ胸に来たよ…!!😭💔 柔太朗くんとのデート、甘い雰囲気からのまさかのキスシーン…あそこどっくんしたんだけど?!「俺にしなよ」って真剣な目で言われたら誰だって揺れるってば…🥺💕 でもそれ以上にラストの勇斗くんの弱ってる姿と「出逢わない方がよかったのかなぁ」っていう仁人のセリフにグサッときた…切なすぎて泣くかと思ったよ…続きが気になって夜しか眠れないんだけど!!✨ かなさんの心情描写が繊細でリアルで大好きです…次回も楽しみにしてるね!🌸