……雨のせいで、屋内にまで水が入り込んでいる。立ち位置も含めて、芝居の段取りは決まっていて、水溜まりのある場所は上手く外してある。、
リハーサルでもそれが確認済みだ。入りの位置、周りのセットとカメラの位置、ライティング、切り返しも含めて自分がどう映るか、もう一度シーンを頭に叩き込む。
「撮影再開しまーす!!」
「カメラの準備OKです!」
「照明OK!」
「マイクOKです!」
「シーン6!カット51!」
「よーい、スタッ」
〜
水溜まりの音が鳴り響く。……
「……。この女は、お前が思ってるような人間じゃない…」
「お前みたいなチャラついた男とは、絶対に相容れない、」
「そいつは、俺と同士の人間なんだ。」
俺にはアイみたいな才能が無い。視線を釘付けにするオーラが無い。演技が上手いわけじゃない。…だから、使えるものは全部使う。
小道具、カメラ、照明…役者。全部使ってでも、アイみたいになってやる。
「____お前、そばで顔見るとブスだな。加工しないとこんなもんか。」
「はぁ…?」
「なんつったおめぇ!!」
「聞こえなかったか?そんな女守る価値無いって言ったんだ!!」
「この子は俺の大事な友達だ!!!」
ここは名作の名シーン。演出意図、構図、テンポ。全部に意味がある。
昔から、作者の気持ちを考えろって問題は得意だった。名作を正しく汲めば、及第点を取れる。
ほら、場を作ったぞ。やりたかったんだろ?本気でやってみろよ。有馬かな。
「っ、何をしたって無駄だ!」
このシーン、1番の見せ場はヒロインの涙。そこの1点が輝くように、俺が闇を演出する。
「…っ!諦めて流されろや!!!!」
怖く…キモく。
「…っははははははは、お前なんて誰にも必要とされてない、身の程弁えて生きろよ!!夢見てんじゃねぇよ!!!この先も録なことはない…お前の人生は真っ暗闇だ!!!」
…仕上げだ。有馬かなが上手く泣いてくれれば__
「…っそれでも、、それでも、光はあるから…!」
……そういや、得意技だったな。、
〜
「…悪い、拳当たったよな…力っちまって、」
「謝らなくていいよ。わざと当たりに行っただけだから。」
「え…」
「やっぱ演技は感情乗ってなんぼだよな。いい芝居だったよ。…おかげで有馬も、本気出せたんじゃないか?」
「シーン7、カット310。」
「よーい、スタッ!」
その『恋に落ちた』顔は、女神のように綺麗だったのを覚えている。
ー〜
視聴者の多くが既にリタイアし、コアな原作ファンや役者のファンのみが視聴をコンテンツ。『今日あま』の最終回は、大きくバズることも、話題になることも無く、狭い界隈でひっそりと熱烈な賞賛を受けた。
「……あぁ、あの俳優も出てたのか、こうやって見ると、改めて多くの人が関わってるんだって思うな。」
「そうよ。私達の演技には、多くの人の仕事が乗っかっている。結果を出さなきゃいけないし、スキャンダルなんて以ての外…。___ちなみに、あんた彼女とか居るの?」
「居ないからスキャンダルもクソもない。」
「…そう。……ふーん…?」
「……撮影お疲れ様でした。」
「、あ、先生…!……」
「…この作品は、有馬さんの演技に支えられていたと思います。」
「!」
「ありがとうございました。」
「……!」
「最終回は特に…!もっと早く、あの感じが出てたらとは思いますが…w」
「……」
「やぁやぁアクアくん。最終回、評判だったよ〜?」
「ありがとうございます。」
「作品の収益的には厳しかったけど、君みたいな才能に機会を与えるのが目的だから、それは達成出来たのかな?」
……このPの煙草の吸殻を検査に出した結果、僕とは赤の他人だということが分かって、ある意味安心はした。___が。
「君、苺プロの子だっけ。___どことなく、アイくんと似た顔立ちしてるよね。」
「…!、そう、ですか?」
「あぁ。彼女の顔は間近でよく見ていたからねぇ。間違いないよ。」
「『間近で』…ですか。……アイと、どういう関係だったんですか?」
「ファッション雑誌のモデルの仲介で一緒に仕事してねぇ、それ以来、仕事を振るだけじゃなくて色々お世話してあげたよ。いい営業先紹介したり、事務所に内緒で男の子と会う時とか、いいお店教えてあげたり。」
「!…誰と会ってたか知ってますか?」
「ん?君、もしかしてアイくんのファン?個人のゴシップにも興味がある?」
「__あります。」
「そうだねぇ……教えてあげてもいいけど、ここは交換条件と行こう。…君の顔はアイくんに似ていて、美しい。……恋愛リアリティーショーに、興味はある?」
ーーー〜〜〜ーーー
「……おい、まだかかるのか?ルビー」
「もー、ちょっと待ってってばお姉ちゃん!この制服可愛いけど複雑なんだもん…でもホントかーわいっ☆」
「初日から遅刻は勘弁してくれよ。……スカート短すぎないか?」
「お姉ちゃんって昔からおっさん臭いよね〜、……あ、そうだ」
「……ママ、行ってきます。」
ーー〜〜
「お兄ちゃん、制服男性用にしてくれて良かったね〜」
「無理言って申し訳無かったが、さすがに俺が女物の制服着たら普通にキツイ。」
「…芸能科はF組だっけか。」
「うん!途中まで一緒に行こ?」
「、入学おめでとうアクア!あとルビー」
「ここ陽東高校は、他の高校と比べて授業日数は融通が効くけど、普通に赤点取ったり、出席日数足りなかったら留年するし、カリキュラムも、そんな違いは無い。」
「……でも!」
「あの子は俳優!、あの二人は、最大手アイドルグループの子!、あそこの胸がでかい子はグラビアモデル!、あれは声優と配信者、ファッションモデルに歌手!、ベンチに座ってるのは、歌舞伎役者と女優!、…みんな芸能人。ここは日本で1番見られる側の人間が多い高校でもあるわ。」
「歓迎するわよ!後輩!芸能界へようこそ!」
「緊張してきたぁ…」
「そんな必要ないわよ。ここは養成所でも撮影所でも無くて、普通の学校なんだから。普通にしてればいいのよ。」
ーーーーー
「___っていう感じで友達になったみなみちゃん!」
「どういう感じだよ」
「どうも〜」
「まぁ、友達出来て何よりだよ。」
「おね…お兄ちゃんは友達できたー?」
「…いや別に、友達作りにこの学校入ったわけじゃないし、、」
「あ、これ出来なかったやつだ…ごめんね辛いこと聞いて、もう教室での話しなくていいから…「話し相手くらいは出来たっつーの!」
「男子はいきなり友達認定とかしねーから!もとより一般科はそっちと違って中高一貫だからそれなりに友達関係完成してて交友深めるの時間が掛かるんだよ。別に入学ぼっちとかじゃねぇし。わかる?」
「アクアがすごく饒舌に喋ってる…」
「みなみちゃん、アクアとも友達になってあげて?」
「あはは、えぇですよ?」
「友達をおすそ分けすんな」
「…俺はいいから自分の心配をしろ。特殊な環境だし、勝手も違うだろ。」
「、そうなんですよね〜、周りもプロだと思うと、結構緊張しちゃう?っていうか、」
「そんな必要ないわよ!ここは養成所でも撮影所でも無くて、普通の学校なんだから!普通にしてればいいのよ〜!」
「ルビーちゃん…!」
「どっかでまんま聞いたセリフなんだが。…ま、入学式見た感じ、容姿の整ってるやつは多いけど、媒体で見たことあるやつはほとんど居なかったから緊張する必要ないんじゃねぇか?」
「…ううん、居たの。凄い人…」
「不知火フリルが居たんだよ!?」
「うんうん!」
「月9のドラマで大ヒット!歌って踊れて演技もできるマルチタレント!!美少女と言えば殆どの人がまず思い浮かべる不知火フリル〜〜!!」
「いや当然知ってるけど。お前そこまでご執心だったのか?」
「今最推しだよ〜!☆」
「ふーん…」
「『ふーん…』って、あの不知火フリルだよ!?」
「興味無い。俺の最推しは、今も昔もアイだけだし。」
「、そりゃ私もそうだけど、、それはそれ!これはこれ!、あ!!」
「ほら!あそこに実物!!…はぁ〜遠目でも可愛い〜♡「マジでただのファンじゃん。」
「クラスメイトだろ?」
「だってぇ〜、…?」
「こんにちは。不知火さん。俺の妹があんたと同じクラスなんだ。仲良くしてやってくれ。」
「ちょっとお兄ちゃん!!」
「、あなた、知ってる。今日あまに出てた人?」
「…よく知ってるな。そんな話題にもならなかったのに。」
「この前現場で話題になってて…見た。、良かった。」
「!……ありがと、」
「そちらの方は、ミドジャンの表紙で見た事あります。みなみさんでしたっけ?」
「はいっ!」
「あなたは…」
「!?………えと…」
「…ごめんなさい、何をしてる方ですか?」
「私は…その…、いまのところ……とくに……、、」
「、そう…えと……頑張って?」
ーー〜〜
「みやえもーーん!!!早く私をアイドルにしてよぉぉ〜〜〜!!!」
「急かさないで、『アイドルグループ作りますはいオーディション』ってわけにもいかないの。」
「っでもこのままじゃ…っ!!このままじゃ虐められる〜っ!!!!」
「ちゃんとしたグループ作るには、ちゃんとしたスタッフ雇ったり手続きも要るのよ、そうそう可愛い子なんて見つからないんだから。…意欲のある子は大手のオーディションに持っていかれちゃうし、」
「、芸能科に、寿みなみちゃんっていう胸バカでかくて可愛い子がいるんだけど……」
「よその事務所の子でしょ!!ダメ!」
「フリーの子ならまだしも、事務所間の揉め事は御免よ。」
「……フリーなら、居るじゃん。」
「「?」」
「フリーランスで、名前が売れてる割に仕事が無くて……顔がかわいい子。」
「…今度は女の子が女の子を口説く……ふーん、まぁ、いいんじゃないの?」
コメント
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最後のセリフ誰!?前回で制服どうなるんだろうとか思ってたから、今回で解決できてスッキリしました!次回も楽しみにしてます!