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ライブイベントの終わり、会場の裏手はまだ賑わっていた。スタッフの声、機材の音、ファンの歓声――ざわざわした空気の中で、初兎は横にいたいふに声をかけようとした。
「まろちゃん、ちょっと……」
「ん?」
しかし、声が雑音にかき消される。
初兎がもう一度口を開こうとしたとき――
いふがすっと、身をかがめた。
「ごめん、聞こえなかった。もう一回言って?」
そう言って、自分の耳を初兎の口元に近づけてくる。
近い。あまりにも近い。
「ちょっ……近すぎ!」
「お前の声、小さいからさ。ちゃんと聞きたいだけ」
真顔で言ういふに、初兎は顔を赤くしながらも小声で話す。
「……帰り、どっちの車乗るんだっけ」
「なるほど、了解。……けど、さ」
いふはすっと顔を引きつつ、ふっと笑った。
「今の、めっちゃかわいかった」
「は!? 普通に話しただけやろ!」
「うん。でも、口元近づけて話されると、なんかドキッとする」
「……まろちゃん、かがんでくるの、ずるいんだよ」
「でも逆にさ、俺がかがまないと、初兎何も聞こえねーやろ?」
「うっ……そうだけど……!」
いふはまた少しだけ身をかがめて、今度は初兎の耳元にそっと顔を寄せて囁くように言った。
「俺、初兎の声ちゃんと聞きたいから、何度でもこうやって近づくよ。だから――もっと喋って?」
「……バカ。調子乗んな……」
そう言いながらも、初兎の耳は真っ赤で、目はどこか嬉しそうに揺れていた。
いふが背を伸ばすと、ふとまた目を合わせて笑う。
「……身長差、悪くないだろ?」
「……悪いとは言ってないもん」
そんなやり取りの中、
「話しかけるたびに距離が近づく」2人の関係が、確かにそこにあった。