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文化祭前日。
学校は朝から慌ただしかった。
廊下には段ボール。
教室には装飾。
あちこちから笑い声が聞こえてくる。
「玲くん、こっちお願い!」
「ああ」
「それ終わったら、これも!」
「分かった」
星羅は忙しそうに動き回っている。
クラスの中心にいる彼女は、誰に対しても明るい。
「星羅、これどこ?」
「そっちは窓!」
「天城さん、こっち手伝って!」
「今行く!」
玲はそんな星羅を見ていた。
――人気者なんだな。
学校では普通の女子生徒に見える。
けれど。
玲だけは知っている。
彼女が全国的な人気を誇るVTuber、星乃セラであることを。
そして。
そのセラが、自分のことを好きだと言ってくれていることを。
「……玲くん?」
「ん?」
「さっきから私のこと見てない?」
「見てた」
「……!」
星羅の頬が赤くなる。
「もう……」
「何?」
「そういうの、急に言うの反則」
「そうか?」
「そうだよ」
星羅は嬉しそうに笑う。
そのとき。
「天城さん!」
男子生徒が声をかける。
「明日の受付、一緒にやってくれない?」
「うん、いいよ」
「助かる!」
「……」
玲は何も言わない。
ただ。
少しだけ胸の奥がざわついた。
星羅が他の男子と話している。
それだけなのに。
「……」
そんな玲の様子を。
星羅は見逃さなかった。
「玲くん」
「ん?」
「もしかして……」
星羅が顔を覗き込む。
「嫉妬した?」
「してない」
「ほんと?」
「ああ」
「ふふっ」
星羅は嬉しそうに笑った。
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「私はね」
「?」
「玲くんが嫉妬してくれるの、ちょっと嬉しい」
「……」
「だって」
星羅は玲にだけ聞こえる声で。
「私のこと、ちゃんと特別に見てくれてるって分かるから」
玲は返事をしなかった。
でも。
否定もしなかった。
夕方。
ほとんどの生徒が帰ったあと。
教室には玲と星羅だけが残っていた。
「終わったな」
「うん」
窓の外を見る。
夕焼け。
明日はいよいよ文化祭。
「ねえ、玲くん」
「何?」
「明日、一日ずっと一緒にいようね」
「ああ」
「絶対だよ?」
「分かった」
「約束」
「約束」
星羅は嬉しそうに小指を差し出す。
玲も小指を絡める。
「……」
星羅はその手を見つめる。
この指。
明日も繋いでいたい。
ずっと。
「玲くん」
「ん?」
「明日、私が忙しくても……」
「?」
「ちゃんと私のところに来てね」
「分かった」
「他の女の子のところに行かないでね?」
「……」
「冗談♪」
笑っている。
けれど。
その目だけは笑っていなかった。
帰宅後。
星羅は自室で明日の準備をしていた。
制服。
文化祭用の名札。
スマホ。
そして――。
玲と撮った写真。
「……」
写真を見る。
水族館で笑う二人。
学校で並んでいる二人。
手を繋いでいる二人。
全部、大切な思い出。
でも。
「明日はもっと増える」
星羅は笑う。
「玲くんとの写真」
「玲くんとの時間」
「玲くんとの思い出」
そして。
スマホを胸に抱く。
「……全部、私だけのものにしたい」
その頃。
玲も自室で明日の準備をしていた。
スマホが鳴る。
星羅からだった。
『明日、楽しみだね♪』
玲は返信する。
『ああ。楽しみ』
すぐに既読がつく。
『私も!』
そして。
『明日、いっぱい一緒にいようね♡』
「……」
玲は少しだけ笑う。
「……ああ」
短く返信する。
その数秒後。
『大好き』
玲は画面を見つめる。
そして。
『……おやすみ』
まだ、その言葉を返す勇気はなかった。
一方。
星羅はその返信を見て笑う。
「……ふふ」
返事はなくてもいい。
まだ。
少しずつでいい。
玲くんの心を。
私でいっぱいにしていけばいい。
そして――。
明日の文化祭で。
もっと近づく。
誰よりも。
玲くんの隣へ。
「……楽しみだな」
星羅は眠りにつく。
翌日。
二人にとって忘れられない一日が始まろうとしていた。
コメント
1件
読み終わりました……🌙 文化祭前夜っていう甘くてちょっと危ない空気、すごく好きです。“嫉妬した?”って聞く星羅ちゃん、絶対分かってて聞いてるよね。でも玲くんが否定しないところがもう、絆されてる感じがしてせつない。小指の約束のシーン、心臓がきゅってなりました。そして「全部、私だけのものにしたい」――彼女の瞳が笑ってなかったのも、ちゃんと見逃さなかった。明日がどうなるのか、怖いけどすごく楽しみです。更新ありがとうございます🤍🥀